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深夜の魔法特訓教室


 深夜。今日も今日とて唯ちゃんと世界に二人だけが取り残されたかのように感じる時を過ごしながら、私は思った。


 これさあ、この時間に魔法の開発するのが正解だったよね。皆が起きてる内は皆と一緒に遊べば良かった。


 唯ちゃんと一緒に入ったお風呂で「やっぱりこの子ひとりに寂しい思いをさせるのは間違っている……ッ!」と謎の保護欲を出したのがいけなかった。いや、唯ちゃんを見て保護欲が刺激されるの自体は不可避の現象なんだけども、やる気スイッチが入ったところでどうせ作った魔法の検証には時間が掛かるからね。そんなもん皆が寝静まってからやり始めたって何も変わんなかったでしょって感じぃ。


 単一の効果の魔法を自分に掛けて、効果が期待通りに発現するかを小一時間待ってる間にどれだけ次の魔法を考えられる?

 どうせ検証待ちになるから早い内から手をつけるのは正解って考え方もあるけど、私としてはせっかくのお泊まり会二日目にして早くもぼっちムーブをかましてる自分に確かな失望を覚える。自分の愚かしさが想定よりも酷かったことに対する失望だ。


 私、子供の姿になってから精神年齢が下がったとは思ってたけどさ。知能的な面は元の水準を保ってるつもりでいたんだよね。


 でも今回のことでそれも怪しく感じるようになった。

 元々「感情的に動くようになったな」とは思ってたんだけど、今回の選択ミスは流石にない。あらゆる可能性を含めて考えたって合理性に欠く。目の前の餌につられて本来の目的を忘れるとか猿かよって感じ。


 お兄様に恋してからの私は「自分の欲望に忠実に」をモットーに生きてきたけど、唯ちゃんと一回元の世界に戻ってからは、なんというか、悪戯のバランス? 我儘の許容範囲? そういったものの見極めが下手くそになっている自覚がある。


 ……ここらで一度、改めて再確認しておくべきだろうか。


 私は何の為に生きて、ここにいるのか。


 何故お兄様を愛し、唯ちゃんを気に掛けるのか。それらの根底に何があるのか。



 ――私の行動は、全て、己の利益の為にあるものである。


 そして私の利益とは「楽しいこと」。これに尽きる。


 あらゆる楽しさで私の世界が満たされていることを、私は常に望んでいるのだ。



 ……だからね〜、今日のお風呂を出た後の行動はどう考えても失敗だったんだよね〜。


 少し考えればすぐにでも気付いたハズのケアレスミス。

 でもそのうっかりが可愛さに繋がっていると思えば、完全にミスとも言いきれないんだけどね。お兄様に見られていればっていう前提が満たされてないから、やっぱりどう考えてもミスでしかないんだけどさ。こちとらリンゼちゃんに見下される趣味もありませんので!


 なのであの時どうするのが正解だったかなんて、ちょろっと考えればすぐに分かる。皆と一緒に中庭で遊ぶ→夜になったら唯ちゃんと遊ぶ。これが正解。


 一人で魔法を弄り回してから夜だけ唯ちゃんと合流の流れだと、まー無駄な時間が多いよね。そこの時間節約したって唯ちゃんタイムに出来ることなんて大して変わりゃしないのにね。


 神様部屋で長年ソロプレイしてた経験からか、はたまた元の気質からそうなのかは知らないけれど、唯ちゃんは基本的に一人の時間を好む。実際に好んでいるかは微妙なところだけれど、少なくともそのように見える佇まいはしている。


 言葉の真偽を確かめられる魔法を使って唯ちゃんが本当に一人でいることを望んでいるのかも確かめた事はあるんだけど、私の《真偽鑑定》の魔法は相手の肉体に生じる微細な反応を逃さずに捉える魔法だからね。発汗量とか脈拍の変化とか、そういった変化から発言の真偽を判定する魔法が、そもそも魔力で肉体を形成している唯ちゃんに通じるわけがなかったんだよね。


 唯ちゃんの身体、そもそも血液とか巡ってませんし。


 耳を澄ませば心臓の鼓動のような音も響いてくるけど、この音も常に一定だしね。「人の身体には胸の中心に心臓があって、常にドクドクと音がしている」という文章から矛盾の無いように肉体を作りあげたみたいに、唯ちゃんの身体は不自然と不可思議で満ちている。


 まあそれ言ったら女神(ヨル)とかも多分似たような身体なんだろうけどね。でもそういえば、あっちの身体からは鼓動なんて聞こえたことはなかった気がする。


 同じ神でも差異があるというのは、ちょっと興味を引かれたりもするけど……。


 でもいいや。私の唯ちゃんに対するスタンスは保護者みたいなものだしね。神様使って実験だなんてそんなそんな。


 バレたらまたお母様に怒られてしまいますしね!


「あ」


「あ?」


 声に釣られて顔を上げてみれば、唯ちゃんが何だか面白いことになっていた。


 魔力による身体の保護膜が、なんか、分厚くなって固形化していた。


 唯ちゃんの場合は身体の保護をする為の魔法ではなく、「外界を」身体から漏れ出る魔力から保護する為の魔法なのだが、原理は一緒だ。身体の周りに薄い魔力の膜を作って、内外の魔力を区分する。まあ唯ちゃんの場合は断絶してるが……


「……んっ。……んっ、んんっ! ……あ、あれぇ……?」


 ……もしや魔力が完全に固定化してるのに気付いていない? なにこれ、可愛すぎるんですけど。


 動かなくなった身体をどうにか動かそうとふぬふぬ言いながら頑張る姿に、私の心はメロメロになった。


 ……やっぱり唯ちゃんをあの白い世界から連れ出してきたのは正解だったようだね! ナイスだぞ、過去の私!!


自力ではどうにもならなくなった唯ちゃん様は、勿論後ほどソフィアの手によって救出されました。

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