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不眠魔法を求めて


 食事を取って、デザートを食べて、お風呂に入る。


 幸福のトリプルコンボを経てすっかり元気を取り戻した私は、今日こそはデメリットのない徹夜を敢行するために、新たな魔法の開発へと取り組んでいた。


 ……とは言っても、実際はそんなに大それたものでもないんだけどね。新規開発というよりかは既存魔法の組み合わせに近いし。


 眠気を覚ます魔法。リラックスする魔法。身体の回復力を増進させる魔法。疲労を軽減する魔法。主となるのはこのあたりだろうか。


 多様な魔法とその効果を再確認して、新たな魔法として組み直す。目的に沿った効果だけを適切に得られるように、数々の魔法から良い効果だけを集めて纏めて組み上げて、一つの魔法として定義するのだ。


 まあ、要はパズルみたいなものだよね。オールインワンシャンプーみたいなものだよ、多分。


 ……いや、オールインワンシャンプーは大分違う気がする。この曖昧なニュアンスをより正確に喩えるなら、シャーペンの後ろに消しゴムが付いてるみたいな……いや、やっぱいいや。私にたとえ話は向かないんだったね。


 とにかく、何時間かおきに身体の状態を再検査してその時々に合わせた魔法で常時身体の調子を保つ方法が悪いわけではないんだけど、これからの長い人生をその方法でずーっと起きたまま過ごそうというのは如何にもめんどい。面倒臭すぎて、むしろ「その点検時間分寝てた方が早いでしょ」ってなっちゃうからね。


 なので一発の魔法で一日くらい持続性のある徹夜用の魔法があればいいかなーと思うんだけど、これはこれで中々めんどい。何が面倒かって、実際に魔法を掛けて時間を置かないと不備が見えてこないってのが何よりもめんどい。


「眠る必要がなければ普段は眠ってる時間も活動できてお得じゃん!?」と軽い気持ちで色々考えてきたけど、やっぱり存在しない魔法には存在しない理由ってものがあるんだよね。こうしてソフィアさんはまたひとつ賢くなりましたとさ。てけてん♪


「リンゼちゃん、お茶ー」


「はいはい」


 ……まあ、だからといって。


 それが頑張らない理由にはなるわけではないんだけどね。


「唯ちゃんはまだ外?」


「そうみたいね。……私に聞かなくても分かるでしょう?」


「私だって常に魔法使ってるわけじゃないんだよー」


「はいはい」


 めっちゃ適当にあしらわれた。お風呂でハブったからってちょっと拗ねすぎじゃないですかねこのメイドちゃん。


 ……まあ、確かに。冷ややかに対応される心当たりも無いことはないというか。一部の魔法は常時発動してるけどさ。《探査魔法》や《千里眼》は他のことしながらだと使うのちょっと手間なんだよね。


 しかも今、唯ちゃんがいる中庭ではカイルとミュラーの《加護》ありでの模擬戦闘が行われている。

 魔法で感知するには正直、魔力が喧しい現場なのだ。


「リンゼちゃぁーん、お茶まだぁー?」


「不味いお茶でよければすぐにでも出せるわよ」


「美味しいお茶がすぐに飲みたい!」


「アイテムボックスの中に入ってるでしょう」


 うぉぉん! 正論はやめろぉー!


 私はね、部屋の中に紅茶の良い香りが、ふわっ、と広がるのが好きなの! ガラス瓶入りの紅茶が飲みたいわけじゃないの!


 口答えしないでさっさとご主人様を満足させてくださいな!


「あれは非常用だから! 今リンゼちゃんが淹れてくれたお茶が飲みたいの!」


「なら大人しく待ってなさいな。新しい魔法が上手くいかないからって当たり散らすのはみっともないわよ」


「むきゃーっ!」


 い、言ってはならんことをォー! むっきぃー!


 変顔をして、ついでに両手を高く掲げながら奇声を上げると、リンゼちゃんからは心底バカにしたみたいな冷笑を頂きました。これがメイドさんの対応だなんて信じられるかい?


 これだけ身体を張ってもこの程度の反応とは、リンゼちゃんは感受性が枯れ果てているのではなかろうか。あんまり素っ気ない態度ばっかりされてると、ご主人様、仕舞いにはムキムキ星人になっちゃうぞ?


 ムキムキ星人。それは深夜、リンゼちゃんがスヤスヤと夢の中を探索している頃に忍び込み、どこからともなく「むっきー」「むきむっきー」と声だけを届ける異星人だ。私が今考えたオリジナル妖精ちゃんだ。


《しゃべる君》という便利魔法を得た私にとって記録した声を連続再生させるくらい訳ない……のだけど、よくよく考えたらこの悪戯は私にしか実行できないので簡単に私の仕業だとバレちゃいますね。それでもってバレたらきっとその報復がご飯に向かう。

 朝ごはんが寂しくなったりデザートが私だけ抜きになったりしたら悲し過ぎるので、やっぱムキムキ星人案はナシでいこうかな。お母様に告げ口される可能性も無くはないしね。


 まあいい。遊んでいるうちに紅茶の準備も整ったみたいだ。今回はこの良い香りに免じて許してあげよう。


「お待たせ」


「ありがとー」


 魔法でこっそり温度を下げつつ、くぴりと一口。


 うむうむ、流石はリンゼちゃん。ちゃんと私好みの味に仕上がってるね!


 カイルの件もあり、イタズラという行為に若干の抵抗感が生まれていることを自覚しつつも、私はその問題を意識から外した。イタズラは趣味ではあるけど必須の娯楽ではないからね。


 となると、やっぱり魔法かな。魔法で遊ぶのが健全そうだね。



 そうして私は不眠魔法の改良を進めつつ、今夜唯ちゃんと遊ぶ用の魔法も並行して開発に取り組むのだった。


 ふふんふんふーん♪

 やっぱり魔法ってたーのしーい!


本日のお風呂の割り振りは、ソフィア・アリシア・唯組と、カレン・ミュラー・リンゼ組に分かれていました。

……そう。後に始まるソフィアのプライベート流出事件は、実はこの日から始まっていたのです……!

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