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擦れ違う意識


 目が覚めた私は、直前までスイーツに囲まれる幸福な夢を見ていたことを思い出した。


「――お菓子の匂いがします」


「そうねぇ。あま〜い香りがするわよね〜」


 鼻腔をくすぐる甘い香りに、カッ! と目を見開けば、視界の半分を覆う大きな陰が間近にあった。残りの半分はどこかの天井。


 ここが何処かは分からないが、自分が今どういった状況にあるのかだけはよーっく分かった。


 この豊かな膨らみと後頭部に感じる心地よい感触。

 これはお姉様に膝枕をされていると考えて間違いありませんね。


「本当に起きたぞこいつ」


「馬車の揺れでも起きないのに、お菓子を近付けると起きるのね……」


「かわいい……」


 おうおう、なんだい。起きた途端バカにするのはやめてもらおうか。


 あと私が可愛いのは事実だけど、カレンちゃんも私に負けないくらい可愛いからもっと自信を持つといいと思うよ。


 お姉様のお膝からよいしょと起き上がると、ここが神殿の応接室であることに気がついた。


「お姉様。お兄様はいずこへ?」


「折角だから屋敷でのお仕事を片付けてから来るらしいわよ?」


 ――目覚めたらお兄様がいなくなっていただと?


 悲しすぎるその事態に、私の全身から力が抜けた。

 ぽてりと倒れ込んだ身体は再びお姉様の膝の上へと舞い戻る。はー、お菓子もいいけど、今はまだお兄様の気分なんだよなぁ……。


「お兄様は、私よりもお仕事の方が大切なんですね……」


「それロランドの前では言っちゃダメよ。ソフィアのそんな言葉を聞いたらあの子、今以上に睡眠時間を削りかねないからね」


「えっ」


 今以上? いま今以上って言ったよね?

 まさか今でも睡眠時間削ってるの? お兄様、お身体はどうか大切にしてくださいな!!


 すぐにお兄様の元へ向かわなければ! と思ったものの、そうして邪魔をした分だけお兄様の睡眠時間が減るのだと考えたら足は全く動かなかった。


 起き上がった身体を、三度お姉様の柔らかな太腿へと預け直す。お姉様は楽しそうに笑うと、私の頭の位置を調整してゆっくりと撫で始めた。


「ソフィアは難しいこと考えなくていいのよ〜。ソフィアが楽しそうにしてるのがあの子の幸せになるんだから、余計なこと考えてる暇があったらもっと自分のことだけ考えてなさい?」


「お兄様の心配をするのは余計なことではありません」


 ぷくぅと頬を膨らませて抗議を示せば、お姉様は膨らんだ私の頬を突っついて遊び始めた。ぷすーと空気が抜ける様を見てはケラケラと声を上げて笑う。


「余計なことに決まってるでしょー? 逆にロランドがソフィアのことを考えて『ソフィアはちゃんと寝てるかなぁ……。ソフィアが寝不足になってたらどうしよう……』とか心配してたとしたらどう思うの?」


「お互いのことを想い合っているだなんて実に素敵な関係だと思います。今すぐ結婚するべきではないでしょうか」


「あはははは!!」


 ちょっと、今の笑うところじゃないんですけど。お姉様は相思相愛という言葉の尊さを知らないのかしら。


 ていうかお姉様だって想い合っている相手がいるでしょうに。一応恋愛結婚でしょ? あ、でも今はなんか複雑な感じなんでしたっけ?


 愛の結晶とも言える子供が屋敷にいるのに、私たちと一緒にさっさと帰ってきちゃってたりするし。そもそもお姉様は自分の子供に対する意識が薄すぎると思うの。「実は自分の子じゃない」とか言われたらうっかり信じちゃいそうなくらい関心ないよね。


 私は子供なんて産んだこと無いからよく知らないけど、普通自分の子供ってもっと愛おしく感じるものなんじゃないんですかね。育児放棄……いや放棄はしてないから、委託かな? 気軽に育児委託できちゃうお姉様が気持ちが私にはよく分からないんだよねー。


 ……なんか意識し出したら急に気になってきたな。


 折角だし、聞いちゃう? 聞いちゃおうかな。

 今なら機嫌が良さそうだしね。


「お姉様こそ私たちの心配ばかりしている場合ではないでしょう。私の甥はどうなっているんですか?」


「へ? どしたの急に。アジールがどうかした?」


 お姉様は惚けている風でもなく、心底不思議そうにしている……ような気がする。顔見えないけど。


 ってちょっと、顔覗き込もうとされるとお姉様の胸で息が……。息が……息はできるけど……!


 ――おかしいよね。息ができなくなる程の圧迫感は無いはずなのに、何故か私の胸が苦しくなるんだ。


 お姉様のご立派なお胸様が顔面に押し付けられる度に、私の胸の奥からミシミシと、何かが軋む音がするんだ。


 何の音だろうねこれ。あははー。


「……んっ、しょっと! ……アジールの面倒を、もっと見てあげなくていいのかってことです!」


 迫り来る肉の圧力を押し退け声を上げると、そこでようやくお姉様の表情が露わになった。お姉様は、想像と寸分違わぬ不思議そうな顔をしていた。


「……? お母様が見ているでしょ?」


「お母様しか見ていないでしょう」


「……? …………?? え、どういうこと? ソフィアは何を言いたいの?」


「……え? 本気で言ってます?」


「えっと、多分……?」


 お姉様は混乱している。私も勿論混乱している。


 なんだろう。決定的な何かが擦れ違ってる感じがする。でもその何かが分からない。


 混迷を増す意識の片隅で、誰かの呆れた溜め息が聞こえた気がした。


「カイル、さっきから視線が露骨すぎるわよ」

「あんまり見るのは、失礼じゃないかな……?」

「いや俺は別に……ッ!?な、何も見てないって!」


ソフィアが押しのけた二つの膨らみは、初心な少年には刺激の強い動きをしたみたいですね。

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