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「待て」のできるペットです


 私はまたひとつ、世界の真理を知ってしまった。


 愛は世界を救う。

 愛さえあれば、何でも叶う。


 愛情というこの世で最も強い絆で結ばれている私とお兄様が、瞳と瞳で語り合う時。世界には(すべか)らく平穏が訪れるのだ。


「それじゃあソフィアは本当に、彼に恨みはないんだね? 僕は何もしない方がいいんだね?」


「はい。お兄様の手を煩わせることなど何もありません。そんな暇があるくらいならこうして私の手を握ってくれていた方が、ソフィアは何倍も嬉しいです」


「ならもう暫くこうしていようか」


「はいっ♪」


 桃色の空気を撒き散らし、濃密なラブラブゾーンを形成する私たちを呆れた目でカイルが見ているけど、別にいいんだ。


 だって私たちの愛情は恥ずべきことじゃないから!


 誰はばかることなく遍く世界へ配信されたって問題のない、超正統派な純愛なんだからねっ!!


 この状況は、きっとカイルを守りきった心優しきソフィアちゃんに贈られた運命様からの報酬なのだ。正当なる代価なのだ。邪魔をしたらきっと天罰とか下るんじゃないかな。


 救われた事実に感謝しつつ、カイルはそこで大人しく私たちが満足するまで待っていればいいと思うよ!


 鬱陶しくも向けられている白けた視線を意識から完全にシャットアウトしつつ、優しく愛撫されている手指に全神経を集中する。


 手と手が絡み合う様って、なんだか言いしれないエロスがあるよね。


「それにしても、全く……。そういう事情ならもっと早く話してくれても良かったのに。僕ならもっとソフィアに合った子を用意してあげられると思うんだけどな」


「えへへ、ごめんなさい。でも先程も説明した通り、これでも普段は節度を弁えていますから。お兄様もそれを理解しているからこそ、カイルを神殿騎士団に引き入れたのでしょう?」


「それはまあ、そうなんだけどね……」


 それにしても、お兄様の感性もなかなかに独特だよね。まさか半ば無意識で発した「フェルに反抗されたようなものですからっ」という言葉が説得の鍵になるとは思わなかった。


 お兄様の熱い視線に思考能力が低下していた私が、それでもとカイルを庇ってあれこれ考えながら話し合いを進めた結果。最終的には何故か「カイルは私が手塩にかけて育ててきたペットだから、多少の反抗くらいは大目に見て欲しい」というニュアンスの結論で決着を得た。我に返った時に見たカイルの白い目が実に印象的だったよね。


 幼い頃に拾ってからずーっと面倒を見てきたペットが、たった一度の失態を犯した。それだけで捨てるという判断に至るのは酷ではないか。


 人間をペットと看做すことを酷いとも思わない二人でそんな議論を進めた結果、カイル(ペット)の粗相はある程度見逃されるべしという私の主張はお兄様に認められることとなった。カイルがお兄様に、私のペットとして認識をされた瞬間であった。


 ……まぁ、なんというか、ほら。昔のカイルは懐かないワンコっぽいところがあったからさ。ペットという表現も、あながちね。私の感覚としてはそう間違ってもいないというか。


 カイルの反抗度合いが私の予想を上回る度に「飼い犬に手を噛まれるとはこういうことかァーッ!」とか思ってたし。

 私の深層心理としては、カイルのカテゴリは初めから「幼馴染み(犬似のペット♂)」あたりだったのかもしれない。


 調教とか、躾とか。思い返せばフェルやエッテよりもペット扱いしてたような気も……。


 てゆーかフェルたちがペットとして優秀すぎるんだよね。


 あの子ら教えたことは一発で覚えるし。命令には従順で、エサの用意とか忘れても自分で勝手に催促に行くし……。


 下手したら本当にカイルよりも優秀な可能性とかありそう。

 ……この件はあまり深く考えない方がいいかもしれないね。


「それでも、僕がソフィアを心配していることだけは覚えておいてね。それと男の部屋を訪問するなんて事もこれっきりにするように。ソフィアはもっと危機感を持ちなさい。自分の可愛さが周囲にどういった影響を与えるのか、きちんと自覚をした方がいい」


「えへへぇ」


 お兄様に可愛いって言われてしまった。やんばい、顔がニヤけて止まらないよぅ。うぇへへへ。


「そんなに心配しなくても、私が自分の身は自分で守れることくらいお兄様だって知っているでしょう? それでも心配だというのなら是非ともお兄様が直に見守っていて下さいな」


 ニヨニヨとだらしなく緩んだ口元を隠しながらそう提案してみれば、お兄様は困ったように苦笑を浮かべた。


「……本当に自覚がないんだね。僕がどれほどそうしたいと願っているか、ソフィアはきっと知らないんだろうね」


「んっ……」


 そう言ったお兄様は、私の首元に手を差し入れてそっと顔を近づけると、まつげの本数まで数えられる程の超至近距離まで一切の躊躇すらなく寄ってきた。


 キャー! キャーキャーキスされるぅー!!

 ぎゅっと目を瞑りながら目を回すという器用な真似をした私の口先に、髪先が触れる感触を覚えた。くんかくんかと芳醇に香るお兄様の芳香を堪能しながら薄ら様子を窺うと、お兄様は私の髪の毛にキスを落としている真っ最中でした。


 ……私、自分の髪の毛に嫉妬したのは初めてだよ。後で切りとって額にでも収容するべきかな。


 禁錮百年の刑罰にでも処するか、と毛束の判決を考えている間に、お兄様はさっさと離れていってしまった。ああああ、今は匂いを堪能する方が正解でしたか!!


「……ほら、こんなに無防備だ。いつ誰に襲われてしまうかと心配でならないよ」


「―――」


 ――むしろ今お兄様に襲われたいんですけど。


 そんな思考だけを残して、私の意識は蒸発した。


「俺もう帰りたい……」


兄妹の度を越したイチャイチャっぷりを見せつけられたカイル少年は、だいぶ心が疲弊しているようです。

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