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こっちもプッツンしちゃった……


 カイルお漏らし大作戦の全容を大公開したら、カイルが普通にブチ切れました。いきなり首絞めにかかってきたのには流石にビビった。


 でもまあ、カイルも別に本当に私の首を絞めようとしていたわけではなくて。単に掴みやすい取っ手があったくらいの気持ちで掴んでる気がする。


 それはそれで業腹だけど、要は一見完全にブチ切れているように見えるけれど、理性はまだ残っているということだ。だからこそ私に有効な攻撃方法も理解している。


 でもね。いくら理解してたからって、それを実行できるかどうかはまた別問題だと思うんだ。


「お前さぁ……お前ってさぁ……! 本っっ当に馬鹿なんじゃないか? いや馬鹿だろ。なぁ? 頭ん中どうなってんだよ?」


 片手で首を掴まれたまま、ガクンガクンと前後におもくそ揺らされる私。

 傍から見たら普通に殺人現場なんじゃないかなぁこれ。


 いや、その、ねぇ。確かに馬鹿なことしたというか、自分でも酷いことしちゃったかなーとは思ってるけど、この扱いもそれなりに酷くないかな。ねぇ、そこんとこどう思うよ?


 不愉快な感情に身を任せて実力行使で振りほどいてもいいんだけど、二人きりの場でカイルに暴行を受けているだけの私と、私のイタズラによって自尊心を傷つけられ、他にも羞恥心やら社会的信用やらを貶められ、果ては私のお母様からのお叱りまで受けたであろうカイルの精神的苦痛との差異を考えると、こんな気晴らしくらいは甘んじて受け入れるべきかもと考えてしまう気持ちがどうしたって湧いてくる。


 実害はせいぜい、首を掴まれる屈辱感と頭を揺さぶられる気持ち悪さ程度。我慢出来ないほどの大変さでもない。

 薄気味の悪かった表情も、今では必死さが抜けて普通の怒り顔になっている。


 ただそれでも、延々と揺さぶられ続けるのは決して気分の良いものではないんだけどね。


「っとに、勘弁してくれよなぁ……。俺がどれだけ……ああクソッ。本当に勘弁しろよなぁ……」


 カイルの方としても、爆発的な怒りを持続するのは難しいらしい。既に怒りのピークは超えたのか、今はもうなんだか泣き出しそうな雰囲気になっている。


 そんな状態になってもまだ私の頭を揺らす作業は止めないあたり、私への復讐に対する執念のようなものを感じる。いやほんと、悪かったとは思ってるんだよ。ホントごめんて。


「いやぁ、今回のことは私も本当に悪いと思ってて……。ごめんね、カイル?」


「謝る奴の態度じゃないんだよなぁ……」


 うん。それに関しては私だけの問題じゃないと思うんだ。私たちの現状にも多大な問題があるんじゃないかな? とりあえず一緒に現実を見よう?


 私だって首締められながら謝るなんて珍事が自分の人生に発生するとは思わなかったよ。離してくれたら頭くらいは下げる用意もあったんだけど、これ離す気なんて微塵も無いよね。私がどれだけ腕をタップしても一向に力を弛めてくれないもんね?


 そもそもの話ね。いくら相手が完全に防ぐ術を持っていると理解してたからって、普通は小柄な女の子の首を掴むなんて行為は良心が咎めて出来ないと思うの。それをこうも易々と実行できちゃうカイルはどれだけ理性がトんでるのかな。


 相手が私だからこそ非道な行いも躊躇なく出来てるという可能性もあるけど、それはそれでどうなのかなって、ソフィアさんは思うな。


 私だって外見は儚くて可憐な女の子ぞ。

 確かにカイルの恨みを多少は買って――いや今回の件も含めたら、それは、その……結構な恨みを買ってる可能性も、無きにしも非ずだけども。それはほら、一旦置いておいて。ね?


 騎士を目指す紳士として、善良な婦女子に暴力を振るうのはね。良くないんじゃないかなと思うわけですよ。


「カイル、落ち着こう? ほら、こんなところ誰かに見られたりしたらさ」


「お前実は謝る気ないだろ」


 あるよ。あるからわざわざこうして真実を伝えに来たんじゃないか。


 謝る気がなかったらさっさと記憶飛ばして終わらせてるっつーの!


「じゃあどうしたらカイルの気は晴れるの? 私が皆の前で漏らしたら気が済むの?」


「バッ、そんなこと誰も言ってないだろ!!」


 あら意外。そこまでのことは求めていなかったらしい。


 まあ口喧嘩くらいはいくらでもしてるけど、カイルが私に罰を負わせる機会なんてほぼ無かったもんね。そんな状況に陥る前に私が逃げるし。


 つまりカイルは私に何かしらの償いを求めてるけど、自分でも何をして貰うのがいいのかを理解してないんじゃないか。私はそのように理解をした。


「とりあえずこれ、離してよ。今回の件は私も悪いと思ってるから――」


 ――一瞬で、廊下の空気が変わった。


 危機感知。本能が警鐘を鳴らすこれは――殺意、か?

 いつぞやの(シン)からの一撃を思い起こさせる危機感が私の神経を尖らせていた。


 圧倒的な敵意。濃密に過ぎる攻撃の気配。


 その発生源は――応接室の前に立つお兄様だった。


「――カイル。君は僕の妹に、いったい何をしているのかな?」


 お兄様の視線は、未だに私の首を戒めるカイルの手に注がれていた。


 ……だから早く離せって言ったのになぁ。


「……ソフィア。お前さっき、謝る気はあるって言ったよな」


「確かに言ったけど……」


 カイルの手が離れたところで、お兄様の視線の鋭さは変わらない。むしろ殺意は膨れ上がっているようにさえ見える。


「詫びる気があるなら、あの人をどうにかしてくれ。それで許す。全部許すから」


「そう言われても……」


 お兄様が一歩、こちらに向かって足を進める度に、カイルの腰が引けていく。その姿を見ているだけで、カイルの感じている恐怖が伝わってくる。


 というか実は私も怖い。相手はお兄様なのに妄想する余裕もないほどちょー怖い。怒ったお兄様マジでこわい。


 私はただ、思った言葉を一言、口にすることしかできなかった。


「いやあれは無理でしょ」


ロランドがエッテ経由でソフィアの首に手が掛けられていると知った時、応接室の中もまた、張り詰めた緊張感に襲われたようです。

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