心配性の姉兄たち
お兄様とお姉様に可愛がられながら待つこと暫し。展開していた探査魔法に反応があった。
どうやらカイルがお母様から解放されたらしい。
話をするなら二人きりの方がいいだろうと判断した私が屋敷にある空き部屋の位置を脳裏に思い浮かべていると、抱き着いていたお姉様がより一層体重を掛けながら聞いてきた。
「どこかに行くの?」
「ええと、まだ用事が残っていたことを思い出しまして。少し席を外しますね」
気は進まない。正直なところ全く行きたくなんて無いのだが、こればかりは仕方あるまい。
全ての元凶が私にあったことを思い出してしまった以上、このままカイルだけに全ての責任を擦り付けておけるほど私の精神は図太くはなかった。
……というか、探査魔法にほんの少しの反応を示しただけで私がどこかに行こうとしてることを察するとか、お姉様の察知能力おかしくないかな。お母様とはまた違った読心系の能力を使われてる感じがする。
まあ真実としては、見る人が見れば私は分かりやすい反応をしてるってだけなんだろうけどね。
「もしかして、カイルくんの所にいくの……?」
「うん、そうだよ」
やはり私に貴族夫人なんて到底無理だな……と己の貴族適正の無さを再確認していると、終始静かだったカレンちゃんから声を掛けられた。まさかカレンちゃんにまで考えを読まれるとは思わなかったぞ……?
そこまで分かりやすい顔してますかね、私。
もしやこの能力を極めれば、私自身は一言も言葉を発することなく意思を伝えることさえ可能になるかも……?
なんてことを考えたりもしたけど、どう考えてもデメリットの方が大きい気がする。特に自由にオンオフを切り替えられないのが最悪すぎる。
まあ現時点でもバレたくない人にバレるんだから変わらないような気もするけど、できることなら内心なんか隠しておけるに越したことはないよね。あっ、でもお兄様に内心がバレちゃうのはメリットでしかない可能性もあるかも?
「好きです」「大好きです」とどれほど言葉を尽くしたところで、人とは簡単に嘘を吐ける生き物だ。その言葉には何の保証も有りはしない。
でも本心ダダ漏れ状態での「お兄様大々大好き超愛してるデヘヘへへ」なら――ってやっぱナシ。無いわ。私の溢れんばかりの愛情が余すことなく伝わるのは魅力的だけど、同時に私のだらしない一面も赤裸々に筒抜けちゃうのはやっぱ無理かも。
デヘヘへとだらしなく笑み崩れてる程度ならまだしも、お兄様を使ったあんな想像やこんな妄想も余すことなく伝わっちゃったら羞恥心で血液が沸騰して死んじゃうんじゃないか。精神的にも致命傷よね。
死んだらお兄様とイチャイチャできなくなっちゃうからそんなのはダメだー!!
それにお兄様の妹たるソフィアちゃんは愛らしくキュートな存在でなければならない。
むっつりスケベなだけならまだしも、お兄様をありとあらゆる妄想に使ってぐふぐふと心の涎を垂らしながら笑う少女とかどう考えても需要ないでしょ。妄想は乙女の嗜みとはいえ、男の人にそれが理解できるとも限らないからね。
「ふーん……。用事、用事ねぇ……」
と、そうだった。カイルに用事があるんだった。
お姉様の言葉で我に返った私は、カップを空にして立ち上がっ……立ち上が、ろうとして……。
「……あのー、お姉様? そう体重をかけられると立てないのですが……」
「んー? そーお? 頑張れば立てるんじゃない?」
いや……えー? なんで邪魔されてるんだろ。カイルの所へ行こうとしたから?
ヤキモチを妬かれるのは嫌な気分ではないけど、今のうちに懺悔をしておかないと次はいつ謝る気分になれるかわかったものではない。自分で言うのもなんだが、私がカイルに謝ろうとするなんて相当なレアケースなんだからね?
「すぐに戻ってきますから。私が戻るまでの間、カレン達の相手をお願いできませんか?」
「それも魅力的ではあるけどぉー!」
駄々っ子だ。駄々っ子お姉様が降臨なされた。お姉様はこうなると強いんだ。
私がこうなったお姉様に弱いだけという面もあるんだけどね。
お姉様をどう説得するか悩んでいると、お兄様が苦笑しながらその役目を引き受けてくれた。
「姉上。ソフィアがそうしたいと言うんだからいいじゃないか。あんまりしつこくするとソフィアに嫌われちゃうかもしれないよ?」
「あら、ロランドはソフィアのことを何も分かってないのね。ソフィアが私を嫌うことなんて絶対にありえないわ!!」
「あはは……」
なんと力強い断言だろうか。
まあ確かに、そんなことを素直に言えちゃうお姉様を嫌いになる未来とか全く想像できないけどね。
「ロランドだって心配じゃないのー? あの男の子のことはあなただって――」
「――姉上」
ピリッとした鋭い圧力が、お兄様からお姉様に向かって放たれた。お姉様にくっつかれていた私にも凍えるような緊張感が伝わってくる。
うひょう、冷え冷えとした空気を放つお兄様もサイコーに格好良いですねェ!! ゾクゾクしちゃう!
心の内で激しく興奮していると、私の身体を捕まえていたお姉様の手がゆっくりと離れていった。
「はいはーい、分かってるわよぅ。ロランドは本当に冗談が通じないんだから」
「姉さんが冗談が好きすぎるだけだと思うよ」
にっこりと微笑むお兄様からは、先程感じた威圧的な雰囲気はもはや欠片も感じられない。まるで全てが夢の中の出来事だったみたいだ。
でも当然、現実にあった出来事なんですよね。
驚いた表情で固まっているミュラーとカレンちゃんを見て、私も心の中で同意を示す。
お兄様もお姉様も、お二人共に冗談がとてもお上手だと思いますよ、と。
「……ソフィアのお姉さんって」
「うん……。流石はソフィアのお姉さんだよね……」
二人のアリシアへの評価が上がった。
シスコン度合いの認定が多少上方修正された!




