男の勝負を見届けよう
魔法で勝負だ!
その言葉を聞いて、皆様は何を思い浮かべるでしょうか?
赤々と燃える炎弾の撃ち合いや、宙を乱れ飛ぶ水や土の魔法。
そういったものを思い浮かべるのではないでしょうか?
少なくとも、並んだ桶に仲良く宙空から生み出した水を注ぐ姿を想像はしていないと思います。私はしていませんでした。
……見る価値無いわあ。なんなのこれ。
これが魔法対決? 嘘でしょ? そこの木の影から「ドッキリ大成功!」のプレート持ったお兄様が飛び出してくるんでしょ? もうかなりビックリしたから早く出てきてお願いします。
いや、いや、マジでないこれはない。魔法対決でこれはないでしょ。
辛うじて魔法は認めるけど対決成分どこよ。水汲んでどーすんのよ。
相手にでも掛けるの? キャッキャウフフでもすんの? 対決しろよ!!
これはアレか、期待しすぎた私が馬鹿でしたパターンか。
いやでもだって、おかしくない??
そりゃ私の魔法がすごくて、なら普通の魔法はもっと控えめなんだって思ってたけど、それにしたって酷くない?
子供の頃のお兄様だって風を生み出すくらいの魔法はすぐ使えるようになったし、お父様だって顔くらいの大きさの火球作ってたじゃん。
お母様なんて指パッチンで部屋の音消してたし、セレナさんだって魔法陣で凄そうな魔法使ってたじゃん。
なのに、真剣な顔で、勝負だ! って言ってた男たちが桶に水溜めるだけって!
せめてタライに溜めろよ!
桶すら満杯に出来ないで満足気な顔してるんじゃないよカイル!
お父様も悔しそうな顔してるんじゃないよ! カイル以下かよ! よくそんなんで魔法の勝負挑んだな!!
もうどこから突っ込めばいいんだ! こんなのが魔法の勝負だなんて予想外もいいところだよ! 予想の遥か下をくぐり抜けられた気分だよ!
憤ってる間に一回戦が終わって勝者のカイルがドヤ顔を向けてきたけど、アンタがドヤれる要素無かったからね!?
うがー!! と怒れる心の声が枯れるほどに慟哭を上げ続ける私の頬に、優しく触れる手があった。エッテだ。
触れられただけで荒ぶった心が少し落ち着いた。だが、その程度では足りない。私の不満はこんなもんじゃない。
ほらエッテにやさぐれた気分浄化されちゃったじゃん! とますます激情に駆られる始末だ。
理性を振り絞って叫び出さないようにしてるだけで手一杯だよ。どうしてこうなった。
「ソフィア、どうしたの?」
見悶えている私を見かねてお姉様が優しく声をかけてくれた。
そうだ、お姉様に癒されよう。
お母様は私が悶えてる原因が分かっていそうだけど何も言わない。なんなら顔逸らされた気がする。でも今はそれよりお姉様に甘える方が大事だ。
「お姉様。甘えさせて下さい」
返事を聞く前に、お姉様に抱きついた。
だってもう、ヤダよ。こんなのやだ。
こんなしょぼい勝負の景品にされてるとか、私の価値低すぎじゃん? ありえないよ。
ちなみに二回戦目は風魔法勝負。
どちらがより遠くのロウソクの火を揺らせるかの勝負だった。
せめて消そうよ。
ソフィアにとっては見て居られないレベルの児戯でもアリシアたちにとっては当たり前の光景。ソフィアの奇行も含めて。




