愛とは、執着心である
どうしようちょっと困った。
この私、お兄様の愛妹たるソフィアちゃんがお兄様にめちゃくちゃ大事にされてる可能性が浮上したよ。
否、この表現では語弊があるか。お兄様に大事にされてるとか当たり前の事だもんね。わざわざ確認する必要も無い宇宙の法則だもんね。兄妹愛は是無限大也。
でもね、違うの。大事にされてるのは当たり前だけどそうじゃないの。大事にされてる度合いが私の想定を上回っていた可能性が出てきたの。
つまりは、その……ね?
お兄様が私のことを心配するあまり、屋敷の使用人達から私に関する報告を逐一収集していたんじゃないかなーって思うんだ。
だってそうでしょ。神殿に移った途端に情報が入らなくて、でも屋敷にいた頃は情報を得られていたってそういうことでしょ。なんならリンゼちゃんからもお兄様に情報が渡っていた可能性すらあると思う。
これって凄いことよ? 実際にお兄様のストーキングを魔法で実践したことのある私だから分かる事だけど、人ひとりをずーっと監視するのってものすごい時間と根気が必要になることなのよ。
監視カメラとかの映像だったら早送りとかで時間短縮ができるだろうけど、この世界にそんな便利な道具はない。つまり人の行動を見逃さずに追おうと思ったら、同じ時間をずっと観察に当てなくちゃいけないの。他のことが出来ないの。
まあ私にとってのお兄様は一日中眺めてても飽きない至高の男性だから、本当に丸一日、お兄様を眺めるだけで過ごしても特に問題は無かったんだけどさ。それでも日課の運動中とか食事の時間とか、リンゼちゃんが部屋を整えてる間とかさ。お兄様の観察を中断しなければいけない時間はあったわけ。そんなわずかな時間目を離した隙に、何か気になる出来事が起きてそうな場面もあったわけ。
ずーーっと張り付いてたのに少し目を離した時に何かが起きた。
その時の悔しさったらないよ。気になりすぎて「あああ!!」ってなる。
かといって二十四時間張り付いてるわけにもいかないじゃん? どこかで妥協する必要は出てくるんだよね。
そうなるとストーキングに効率的な――って違う。なんで私はストーキング技術の復習なんてしてるんだ。
私が今すべきなのは、お兄様が私をストーキングしていたという事実! その事実に喜びを噛み締めること! これしかない!!
うひょー! いつも落ち着いていてクールかわいいお兄様が、実は私のことが気になりすぎて使用人達に頼み事してたなんて尊みが過ぎるでしょう!! 興奮しすぎて私鼻血とか噴いちゃうよ!?
お兄様、使用人達から私の様子を聞く時にどんな表情をしてたのかな? いつもの無難な笑顔かな? それとも私にだけ向けられる優しい表情!? やーん、ソフィアちゃん愛されすぎてて困っちゃーう!
幸福すぎて胸がくるしー! と一人でもぞもぞ悶えていると、溜め息を吐いたお母様が諦めたような声で忠告してきた。
「……どんな想像をしているかは分かりませんが、ロランドには決して伝えないように。あの子もあれで繊細ですからね。今知ったことは胸に秘めて、変な気など起こさないように。いいですね?」
「はーい♪」
もーお母様ったらー。自分の失態をお兄様の為と誤魔化して黙らせようなんて悪い人♪ そんな見え見えの御為倒し、私には通用しないよー?
でもいいよ、今は騙されておいてあげる。
何せ今の私は過去最高と言っても過言ではないほどに気分がいいからねっ! ああ幸せぇえぇ〜〜♪♪♪
「…………あの」
「ごめんなさい、少し待っていてもらえるかしら。この子がこうなったら長いから……。カイルくんなら分かるでしょう?」
「あ、はい。それはもう。嫌という程分かってますから」
お母様とカイルが何か話してるけどそれどころじゃない。
お兄様はいつから私を見ていたの? いつから私を気にしていたの?
お兄様と離れて寂しかった時、お兄様のことを想いながら刺繍の練習をしていた時、お兄様のことを想いながらお料理を作っていた時、可愛らしく思われるお兄様の出迎え方を必死になって考えていた時、それら全ての時のことをお兄様が知っているとしたら。
私の想いを正しく知り、その上で私の愛情を受け止めてくれていたのだとしたら。それはどれだけ幸福なことだろうか。
はあぁ〜〜〜好き。お兄様超好き。大々大好き超愛してる。
幸福感が溢れて止まらない。この興奮、どうしてくれよう。
ってとりあえずは浸っちゃうんですけどね!! お兄様の愛情とか受け止めるに決まってるでしょう! 他の選択肢など存在しないッッ!!
全身に溢れる幸福感に身を任せ、思考をお兄様で埋め尽くす。
はあぁ〜〜ん、お兄様〜〜〜!!! 私もお兄様のこと大好きですぅ〜〜♪♪♪
「……この子の面倒を見るの、大変でしょう? ごめんなさいね」
「いえ、慣れてますから。それに騎士になる夢も前倒しで叶えられたりとか、良い面もありますし。悪いことばかりでもないので」
「でも大変でしょう?」
「……それはまあ、はい。でもソフィアのすることですから」
「…………本当にごめんなさいね」
「いえ……」
ふわぁあはぁあぁ〜〜〜! お兄様の愛情に溺れて胸が苦しいぃ〜!! 幸せすぎるうぅ〜〜!!!
その頃、応接室にて。
朝とは違ってきちんと機能していたソフィア監視網によってソフィアの喜びようを知ったロランドは、僅かに赤く染まった顔を妹の友人に指摘され、更に赤面していましたとさ。




