表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1074/1407

秘めやかに育つ嫉妬心


 本日最後の休み時間。次の授業が終わればようやく学院から解放されるという期待感からか、クラス内が僅かに浮き足立っているようにも感じられる。


 そしてその期待は、私も同様に強く感じているものだった。


 だけど多分、皆の感じている解放感と私の感じている解放感は別物だ。なにせ束縛を感じている対象が違う。


 昼休みの後からずっと「バラすなよ。本当に、絶対にバラすなよ。ちょっとだけとか思ってもお前は絶対にボロが出るからな。一切話そうとするな。いいな、分かったな? これはお前の為でもあるんだからな。絶対に、本当の本当に喋るなよな! ……絶対だからな!?」と、煩いくらいに忠告してくるカイルに辟易していたのだ。学院から解放されるということは、私にとってカイルからの解放を意味する。


 ……いや、まあ帰る場所は同じだからね。確実に開放されるとも言えないんだけどさ。


 ただバラす相手がミュラーとカレンちゃんしかいない神殿に行けばカイルも多少は安心するんじゃないかなーとは思っている。悲しいことに、いわゆる希望的観測ってやつなんだけどね。


 そもそもカイルが心配性すぎるんだよね。


 休み時間に入る度にいちいち忠告しに来る必要とかある?

 一度言われれば分かるっての。私は痴呆の始まったおばあちゃんじゃないんだからね。


 カイルがそうやって何度も「黙っとけよ?」なんて念押しするもんだから、今なら私から聞き出せるんじゃないかと思った人たちがこっそり集まって来ちゃったりもしたし。


 本来なら別にカイルの言うことを聞く義理なんてないんだけど、それだけを理由にバラすのもなんか違うかなーって思ってね。神殿に帰ってからもカイルにグチグチ言われ続けるほど面倒なこともないから、きちんと黙っていてあげましたとも。あー私ってばやっさしーい。


 その代わりにお兄様も神殿にいて一緒に住んでることを話したら、なんか予想外に食いつかれてびっくりもしたけど、私達のことと違ってお兄様には隠さければならないような話が一切ない。求められるままに「神殿で生活するお兄様も素敵でした」とか話してたら「むしろロランド様のいる場所を聖域指定しても良いくらいよね」「分かる」とかお兄様のファンが集まって存外楽しい時間を過ごせた。


 だからこの休み時間も、お兄様談義で盛り上がろうかなーとか思っていたんだけど。


 ――なんだかカレンちゃんの様子がおかしい気がする。


 気付いちゃったら声を掛けないわけにはいかないよね。


「どうかした?」


「……? えっと、なにが……? どうもしないよ?」


 質問の意図が分からないというように小首を傾げるカレンちゃん。

 うむ、今日も犯罪的にかわいいですね。


 ……って、そうじゃなくて。


「何も無いならいいんだけど……。今日はよく私の方を見てるなぁと思って」


「えっ……!?」


 んん? まさかの無自覚?

 いやいや、あれだけガン見しといて無自覚だなんて……。いや、カレンちゃんならそれも案外ありうるのか……?


 天然なのか、すっとぼけてるだけなのか。


 どちらのパターンなのかを見極めるべく、カレンちゃんの瞳をじーっと真正面から見つめていると。やがてカレンちゃんはあうあう言いながら自覚があったことを白状した。


「その、ごめんなさい……。あの、今日はソフィア、大変そうだったから、大丈夫かなって心配で……」


「心配してくれたの? ありがとう」


 マジで? なんなの? カレンちゃんは天使なの?


 っていうか、もうね。その言葉だけで私は救われた気分だよ。そうなの、今日は本当に大変だったの!


 私の好きな言葉はノーリスクハイリターン。危険を冒さず美味しいトコだけ持っていきたい人なのに、今日の騒動といったらなんだい。何処に行っても「ソフィアが遂に……」「カイルと遂に……」とさも事実のように噂されている始末。その面倒事の代わりに得たものがカイルのゾウさん鑑賞権とか割に合わないにも程があるよね。


 この精神的疲労の賠償請求はカイルに求めればいいんだろうか。


 ちょっぴりそんな考えも浮かんだけど、前世日本でスタンダードな露出狂、裸にトレンチコートの髭おっさんが「ほーらおじさんの自慢の息子を見てごらんよォ!」と粗末なモノを見せつけてきた際の対応として「あの、不快なものを見せつけられた心的外傷に対する慰謝料を頂きたいのですが」とか言ってる自分の絵面を想像して気力が萎えた。


 変態相手に変態行為を見せられる代わりにお金を要求って……喜んで支払われたらどうしよう。あるいはそれ以上のことを大金積まれて頼まれたりしたら?


 日本って結構危険な国だったんだなと、私は現在の自分のことも棚に上げてそう思った。


「カレンも気を付けてね。カイルが近くにいると、本当に、本っ当ーに、なにがあるか分からないから。着替える時とかも注意してね。近くにカイルが潜んでるかもしれないからね」


「…………???」


 念の為に忠告してみたものの、カレンちゃんは「ソフィアは何を言ってるんだろう?」と不思議そうな顔をしている。そりゃろくな説明もなく友人に警戒しろと言われても難しいか。でもなぁ……。


 カイルの主人公体質は言葉で説明するのが難しいんだよね。いうなれば運命みたいなものだとは思うんだけど。


 ……女子とえっちなハプニングが発生する運命、か。


 やだな、運命ってもっと綺麗で夢見るようなものでしょ。なんか運命って言葉をカイルに穢された感じがする。


 まあ唯ちゃんやリンゼちゃんが相手でなければ、同級生相手なら健全とも言えるかもしれないけど……とりあえずは様子見かなぁ。



 ――そうして私は、この件に関しての思考を止めた。


 カレンちゃんの本心が何処にあるのかなんて、全く考えもしないままに。


カレンの本心「ソフィアばっかりカイルくんと仲が良くてずるい……」

カイルの本心「ソフィアに弱味を握られたのが致命的すぎてツラい……」

ソフィアの本心「今晩のデザートが楽しみすぎる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ