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生意気なカイルは私が育てた


 ――と、いうわけで。


「そう言われたら確かに隠すようなことでもない気がしてきました。そうですよね、隠すから変に想像をかきたてちゃうんですよね。分かりました、朝に何があったのかを教えますね」


「は!!?」


 変な想像されるくらいなら事実を公表した方がいいかと思ったんだけど、寝耳に水のカイルからは「ふざけんな!」と顔にデカデカと書いてある大変面白い表情を頂きましたとさ。


 そんなに嫌か。まあ嫌だよね。逆の立場だったら私だってふざけんなと思う。

 でもしょうがないじゃん、みんな興味津々なんだもんよ〜。


 私が冗談で言ったのではないと理解したのか、驚愕の表情で固まっていたカイルはすぐにその顔を苦渋に満ちたものへと切り替えると、今度は形ばかりの作り笑いを形成。(いびつ)すぎる笑顔を浮かべて立ち上がったかと思ったら、有無を言わさず私の腕を掴んで無理やり立たせた。


 カイルってば、最近ちょっと乱暴だよね。

 まさか私の身体が小さいからって直接運んだ方が早いとか思ってるんじゃなかろうな。だとしたら戦争も辞さないぞこのやろうめ。


「ちょっと来い。早く。菓子なんて後でいいから早くしろ。……ったくホントにありえねぇだろ何考えてんだお前……!?」


 無理やりに連行されて部屋の隅まで着いた途端、なんか想像してた五割増くらいの勢いで責められた。なんだどうした、余裕が全然ないじゃんカイルくんよ。あと手を伸ばしてたのは別にお菓子に手を伸ばしてたわけじゃないからね!?


 先に不当な誤解を解くことも考えたけど、カイルが割といっぱいいっぱいに見えたのでまずは疑問に答えてあげることにした。寛大で優しい幼馴染みに感謝したまえ。


「何考えてるって、決まってるでしょ。やったとかやってないとか延々言われ続けるよりはいいかと思って。カイルも面倒そうにしてたしサクッとバラしちゃった方が都合がいいでしょ?」


「いいわけないだろ……!?」


 いいわけなかったらしい。そうか? ……本当にそうか? うん? まあそういう意見もあるかもしれない。


 とりあえず、カイルがバラして欲しくないと思っているのだけはよく分かった。強行したら泣きそうな目をしているのがなんとも罪悪感を刺激してくる。こんだけ切羽詰まってると気軽に弄りもできないんだよなー。


「そんなに嫌なの?」


「嫌に決まってんだろ!?」


 うーん、そんなに公表されるのが嫌なのか。


 確かにこの事実が(おおやけ)になれば「大事件!? 聖女を襲った卑劣漢!!」みたいに大事にされちゃう可能性もゼロではないけど、私にだって良心というものがある。カイルに半裸のまま押さえつけられたとこまでバラすつもりなんてハナからなくて、精々「部屋にノックをしないで入ったら偶々カイルが着替え中だった」程度に抑えるつもりだったんだけど、それでもダメかな。


 このくらいならまだ一緒に暮らしてれば起こりうる事故だと思うんだけどな。

 まあ流石に、即日であんな事件を起こされるとは私も夢にも思ってなかったんだけど。


 ……ただ、それはそれとしてだね。


「っんとに考え無しなんだよなぁ……。それがバレたらその後どうなるかとか考えないのかよ。勉強は出来るくせに本当コイツバカなんだよなぁ……堪んねぇよなぁ……」


 ――カイル、気が動転して私の耳が特別性だってことを忘れちゃったのかな? いくら温厚な私でも、それだけの悪口を呟かれたら流石に報復したくなっちゃうんだよ?


 小声だから聞こえてないと思ってる? それともわざと聞かせてるのかな? ねぇ。どっちなんだろうねぇ。うふふふふ。


 カイルが嫌がってる事の決定権。私にあるんだってことを、まさか分かってないわけじゃないよねぇぇ?


 ――気が付けば、私は笑顔を浮かべていた。


 カレンちゃん達がこっちを見てるって理由もあるけど、私は煩いのが嫌いなので。怒ると自然と顔が綻んできちゃうんだよね。報復の喜びが溢れ出したりしてるのかしら。


「ね、カイル? カイルはさ、今から私にお願いをしようとしてるんだよね? まさかそんな態度でお願いを聞いて貰えるとか思ってないよね? ……相応しい態度が、あるんじゃないかな?」


 笑顔のまま、にっこりと、ぶつぶつと自分の世界に入り込んでいたカイルに言葉を投げる。いつまでも掴まれていた腕を抓っておくのも忘れずに。


 僅かに痛そうな声を上げ、次いで、私が顔を覗き込んでいるのに気がつくと。カイルは嫌そうに顔を歪めて言い返してきた。


「お前そんなことばっかり言ってると友達無くすぞ」


 おいぃやめろォ! そんな心を抉るようなことを言うんじゃないよ! 私のハートは案外繊細なんだぞもっと気遣え!!


 初手人格攻撃とか容赦が無さすぎる。全く、なんて卑劣な技を使うんだ。親の顔が見てみたいもんだよ!!


 とりあえず憤ってはみたものの、カイルの両親の顔とか当然知ってる。勿論卑劣のヒの字も知らないような善良な人達だ。


 カイルの的確に相手の急所を突く口撃力は、間違いなく私を見て習得したものだろうね。


 ……自業自得って、なんでこんなに辛いんだろうなぁ。


 そりゃカイルを手応えのある反撃をしてくるように調教したのは私だけどさ。ちょっと調整を失敗したというか、言葉のナイフの切れ味が妙に良すぎるような気がするんだよね。


 ……でも一番の問題は、その切れ味を案外心地好いと感じてる私がいる事で……ってあぁああッ、今のナシ! ナシだから!!


 カイルはムカつく! だから倒す!

 それ以上の感情なんて存在しないし考えてもいないんだからねッ!!


ソフィアは己のマゾっ気を自覚した。

が、意志の力でその感情を封じ込めることに成功した!やったね!

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