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隠すから興味を持たれるという話


 話を逸らすやり方にはいくつか定番のようなものが存在するが、相手が強い執着を示す趣味を持っており、なおかつ自身がその欲求を満たす手段を有しているという状況は、考えうる中でも最良に近い。


 なので突如注目を浴びる羽目になったこの現状から逃れるべく、私は当然の如く「今日はどんなお手伝いをしましょうか?」と若干真面目さを強調した声でヘレナさんに尋ねたのだが、ここで思ってもいなかったまさかの事態が。


 あの三食昼寝おやつよりも研究を優先するはずのヘレナさんが、ここにきてまさかの裏切りを見せたのだった。


「今日はお手伝いはいいわ。ソフィアちゃんのお陰で試したかったことは大方済ませたし。それよりも今は、ソフィアちゃんが普段はどんな風に過ごしているかの方が気になるかな〜。家から離れて男の子と一緒に住んでるだなんて面白そうな状況、気にならないわけないわよね」


 ――へ、ヘレナさんが、あの研究一筋のヘレナさんが、他人の事情を気にするだなんて……。


 何か変なものでも食べたのかな。あっ、もしかして熱があるとか!?


 簡易診断として魔力を探査する魔法をとばしてみても、返ってきた反応は至って正常。ヘレナさんにしては本当に、珍しいくらいの健康体だった。


 ……シャルマさんにさぞかし甲斐甲斐しくお世話されたんだろうなあ! いいないいなぁ!!


「カイルと一緒に住んでるのは私だけじゃありません。この子も、そっちのミュラーだってみんな同じ条件ですよ!」


 羨望は一先ず置いといて。隣りに座るカレンちゃんの肩を抱きながら声高に主張する。


 私だけが弄られている状況は明らかにおかしいと。

 私を弄るのなら同じように二人も弄るべきだと。そうしたら私も便乗して二人の照れ顔を堪能するのにと、顔には出さずに期待を込めて。


 てゆーか「一緒に住んでる」って表現はちょっと……いやかなりよろしくない気がする。間違ってはいないんだけど、油断すると顔が熱くなってしまいそうな危険性を孕んでいるというか……。


 一瞬、あの神殿がカイルの為に用意されたハーレムハウスである可能性を幻視した。……が、私たち三人を侍らすカイルの姿が浮かんだ次の瞬間、リンゼちゃんと唯ちゃんを引き連れたお兄様が現れて悪王カイルの首を問答無用で飛ばしてしまった。残った体はどこからともなく現れたお姉様が袋に詰めて窓からポイ。


 晴れて神殿はお兄様のハーレムとしての再稼働を果たすのだった。やったね!


 ……っていやいや。いやいやいやいや。これではいくらなんでもカイルの扱いが不憫過ぎる。たかが妄想とはいえ、室内に現れた虫と同等程度の扱いで排除される程にはカイルの罪業ポイント溜まってないでしょ。精々女の子に「このゴミ虫が!!」って罵られるに足る程度の悪事しか働いたことは無いんじゃないかと。


 いくらお兄様のハーレムに私が加われるシナリオだったとしても、カイルが犠牲となる展開というのは、その……あまり気分が良いものではないような気がする。


 どうせカイルを登場させるならせめてもっと有効活用するべきというかね。前世でありふれていたようなフリフリ可愛らしいメイド衣装を着せて床掃除とかさせてあげたいよね。


 短いスカートを履かせて「そんなに動くと見えちゃうよ?」と羞恥心を煽りながら、悔しそうに歯噛みしながらスカートの裾を抑えて掃除をするカイルに「何をちまちまやってるの? そんなんで本当に掃除する気があるの?」と嫌らしい口撃を繰り返しつつ、羞恥と命令の間で揺れ動く天秤を美味しいケーキでもつっつきながら安全な場所から高みの見物と眺めていたい。


 私が要望した愛らしさ満点の女装姿を普段着とし、ミュラーが求める実戦形式の訓練の相手を務めながら、合間にはカレンちゃんの身も周りのお世話に奔走する共用奴隷のカイルちゃん。


 …………うん。なんだろうね、この複雑な気持ちは。


 かなーり変態的な要求だという自覚はあるけど、なんか……うん。案外アリというか……うむぅぅん……。


 試してみないことにはなんとも言えないけど、カイルって絶対女装が似合うと思うんだよなぁ……。


 ちらりとカイルの様子を伺えば、奴は死んだ魚のような目をして黙々とゼリーを食べていた模様。つーかなんだその雑な食べ方。もっと美味しそうに食べないとシャルマさんにも食材にも失礼でしょうがこのやろうめ。


 食べ物を冒涜するような食べ方に僅かな怒りを覚えていると、無防備になっていた私の心にヘレナさんの言葉が見事にクリーンヒットした。


「でも彼と何かがあったのはソフィアちゃんだけなのよね?」


「ん……」


 はーい。妄想を現実へと引き戻す無情な一言を頂きましたー。

「でも今のカイルが女装してたらこんなに怒ることはなかっただろうな……」なんて考えてないでもっと警戒してれば良かった! でもおかしいよね! 私警戒なんてしたくないからこの部屋来たのに!!


 事実という暴力で横っ面を叩くのはいい大人のすることではないのではないか。


 そんな非難を込めて、縋るような視線で最後の良心であるシャルマさんへと助けを求めると、彼女は少し困ったようにはにかんでから改めて私に問い掛けた。


「……本当に話せないようなことがあったのですか? もしもそうなのだとしたら、素直にそう伝えれば良いと思います。話したくないのだと真摯に伝えれば無理に聞き出そうとする人はいないのではないでしょうか?」


 ――目からウロコが落ちた気分だ。


 改めてそう言われちゃうと、途端に無理に隠すほどのことでもないような気がしてきた。どうせ事故だし、カイルの失敗談として笑い話にすれば……。


 …………うん。これ言っても問題……無いな。無さそう。


 ……朝からの私の苦労は何だったんだろうか……。


ウィッグは明るいブラウンの長髪。メイクで目付きを柔らかい印象に変えて、軽く整えてあげるだけで立派な美少女カイルちゃんは完成する。……かもしれない。

女装した姿があまりにも簡単に想像出来てしまうカイルの整いすぎた顔立ちこそ、ソフィアが実際に踏み出せない抑止力になっているのかもしれなかった。

自分よりも美人になるかもしれない男の子とか、狭量なソフィアには許容できませんよね。

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