表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1067/1407

――おや、慈愛の天使様の様子が?


 前菜から始まるちょっと気取った昼食も良いものだけど、急遽決まったメニューだろうと美味しいものは美味しいものだ。


 新鮮な野菜がたっぷり詰まったBLTサンドを食べながら、私はそんなことを考えていた。


「美味しい……」


「美味いな」


「そうでしょうそうでしょう。ここで出る昼食はいつだって何だって美味しいの!」


「なんであなたが得意気なのよ」


 何故かって、そんなのシャルマさんが私の推しだからに決まってるじゃないですか。私のシャルマさんは凄いんだからね!


 用意していた昼食ではこの人数に対応できないという事で急遽メニューが変更になったのだけど、それでもこれだけの美味しい料理を提供してくれるんだから堪らない。やっぱり我が家にもシャルマさんのいる生活が欲しいなぁ〜。


 チラリ、チラリとモノ欲しげな視線を送ってヘレナさんにシャルマさんの引渡し要求を行なっていると、その視線に気付いたカイルから呆れた声を掛けられた。


「ソフィアって媚び方が露骨だよな。美味しい食事に感謝してるならせめて落ち着いてゆっくり食えよ」


 あらま、なんて失礼な。

 私がシャルマさんの用意してくれた食事を冒涜していると? そんなことはありえませんね!


「感謝はいつも伝えてるから問題ないもん。シャルマさん、美味しいごはんをいつもありがとうございます」


 ペコリと子供らしく頭を下げると、追従しようとしていたカイルたちから戸惑う雰囲気が感じられた。多分だけど、一緒に感謝を伝えようとしたら私が「いつも」なんて言葉を付け加えたせいでどうしたらいいか分からなくなったんだろう。そのまま感謝を伝えたら「これからも来るのでよろしく」って意味になりかねないもんね。


「いえ、こちらからお願いして通っていただいているのですから食事の用意程度当たり前のことです。こちらこそ、ソフィア様の研究への助力には深く感謝いたしております。ソフィア様の協力がなければ、きっとヘレナ様は今ほどのびのびとは過ごしていられなかったと思いますから」


 シャルマさんに日頃の感謝を伝えたら、いつもどおりの慈愛の微笑みで逆に感謝を返されてまった。うん、感謝を、されたのだと思う。


 ……今のってもしかして、裏の意味があったりする? 「タダ飯を食べさせてる訳では無いのできちんと研究への協力で還元するように」的な?

 ……いやいや、シャルマさんに限ってそんなハズは。


 ありえない想像をしちゃうくらい心が疲れてるんだな、きっと。今日は精神的にちょっぴりハードだったからね。疲れてると悪い想像が浮かんでくるよねーホント参っちゃう!


 ……なんて、一人で納得していたのだが。


 幸か不幸か、先の言葉に私と同じ感想を抱いた人がいたみたいだった。


「……ちょっとシャルマ。それってもしかして遠回しに『もっとお金になる研究をしてくれれば』って言ってるの?」


「いえ、まさか。そんなことはありませんよ。私はただソフィア様のお陰でヘレナ様の笑顔を見ることが増えたと、その感謝を述べていたにすぎません」


「むー……そういうことにしておいてあげるわ……」


 ……あっれ、おかしいな。いつでも優しい慈愛の権化たるシャルマさんの微笑みが、何故か本心と表情が全く一致しないお母様の仮面のように見えているよ? 目がバグってしまったかな、これは。やっぱり疲れが溜まってるからかなー?


 おもむろに、スゥイッと魔力を促して。目元に軽い治療を施してみた。


 若干疲れが取れた視界に映ったのは――いつもと何も変わらない、優しい微笑みを湛えるシャルマさんの穏やかな笑顔だった。


 ああ、良かった。やっぱりさっきのは勘違いか。

 そうだよね、シャルマさんが遠回りな嫌味とか言うわけないよね。私の周りにも大分性格がやんちゃになる人が増えてきてるけど、別に誰もが性格悪くなっちゃう訳じゃないもんね。


 シャルマさんは心の綺麗な天使様だから、たとえどれだけの時間が経ったって変わらずに私の心の安息所であり続けてくれると信じてる。初めて会った時から彼女にだけは違和感を覚えなかった理由も、いびつに歪められた善性が全く無かったからなんだからね。


 つまり彼女こそが生まれ持っての善性の塊。


 慈母天使シャルマエル様とは彼女のことなのだぁ〜! ババーン!! ……みたいな?


 …………いや、まあね。シャルマさん以外にだって心の綺麗な人はいるだろうけどさ。でも私にとっての一番となると、それはやっぱりシャルマさんかなぁと思うんだよね。


 そんなことを考えつつも、視線は自然と、もう一人の純粋候補の方へと向いていた。


「んむ。んむんむんむ。んもぎゅっくん。……ふへぁ〜」


 ――幸せそうな顔して食べちゃってまあ。


 なんて美味しそうな顔して食べるんだろうか。

 ネムちゃんは本当にもう、もう……我が家に養子に来たりはしないのかな? もし来るならお姉様共々大歓迎しちゃうんだけどな。


「お代わりをご用意しましょうか?」


「! はい! 食べるます!」


 混ざってる。勢いがつきすぎて「食べる」と「食べます」が混ざってるよ、ネムちゃん……!


 この反応を天然でやれちゃうんだから堪らない。心做しかシャルマさんの笑顔もいつもより柔らかい気がするしね。


 まさか私の慈愛の天使様すら魅了してしまうとは……。

 ネムちゃんの可愛さは、もしや天界級の可愛さなのかも? なんてね。


一人だけ本来のメニューを食べてるヘレナ様。

ソフィアたちの食事を見て「あの方が早く食べ終われそうだし、次は私もああいう手軽なものにしてもらおうかしら」などと考えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ