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天使は汚れとは無縁らしい


 背が低いのってめちゃくちゃ不利だよね。机に思っクソしがみついてんのに「よいしょ」の一声で簡単に引き剥がされちゃうんだからやられる方は堪んないのよ。いやマジで。


 だからね?


「――それカイルにもやればいいでしょ!!!?」


 と頭の中で考えちゃうことくらい、仕方の無いことだと思うんだ。


 これから待ち受けるだろう精神的苦痛に塗れた尋問を思い、せめてカイルも同じ地獄へ落ちるべきだろと強く強く請い願ってはいるものの、それが叶わない夢だろうことは知っている。この年頃の子たちが異性の身体にぺたぺた触らないってことは私の身をもって知っているのだ。


 だってその縛りがなかったら、私がクラスのマスコット扱いされる立場に甘んじてるとかありえないからね。クラス内のイメージとか関係なく全力で回避してたに違いあるまい。


 普通に考えて、下心ありありの男子に撫でくり回される世界線とかありえないよねー。


 性に緩いこちらの価値観で男子からのボディタッチを許すだなんて面倒なことになりそうな予感しかしないし。

 だから「異性にはむやみに触れない」なんてふんわりした貴族の常識がちゃんと遵守されてる点だけは私、このクラスの男子という生き物を評価してるわ。大人の目が届かない学院という特殊な空間でもちゃんと我慢できて偉いなーって思う。なにせ女の子たちはみんな可愛いからね!


 とはいえ別に、中身的には年下にあたる女の子たちに可愛がられるのが特別好きってわけでもないんだけどさ。そこはほら、可愛い子を見たら愛でたくなる気持ちは分かっちゃうから。可愛くなった私が愛でられるはむしろ義務みたいな? そんな感じで弄られキャラに収まってるのよ。


 だからね。弄られること自体はいいのよ。そんな扱いを受けることは許容してるの。


 問題はその弄りの内容なんですよね。


「私が見た時には既に二人とも何かがあった後といった感じだったわ。だから何かがあったのだとしたら、夜から朝にかけての時間帯。……私から言えるのはこれだけよ」


「夜から朝! 夜から朝!!」


「それもう答え言ってない? 他の可能性とか考えられないんだけど」


「甘いわね貴女。ソフィアさんの顔をご覧なさい? もしもその想像が正しいのだとしたら、彼女はもっと分かりやすく恥ずかしがっているはずよ」


「同意。ソフィアは、とても初心。……まだ綺麗な香りがする」


「いやそれどんな匂いよ」


「嗅いでみる? 私のオススメは背後から抱きついてさりげなく首筋の匂いを嗅ぐ方法ね!」


「さりげなさどこいった」


「それに匂いを嗅ぐなんて流石に……ねぇ? ……まあ確かに、ソフィアからは他の人とは違う匂いがする気はするけど……」


「あっ、それ分かる! ソフィアって異様に綺麗好きだからか土の香りとか全然しないんだよね! 靴の裏とかもまるで新品みたいに綺麗でさー」


「待って。なんであんたはソフィアの靴の裏の汚れ事情なんか知ってるの? 蹴られたことがあるとか言い出さないわよね?」


「蹴られたことはない! けど、前にこっそり嗅いだことならあります!!」


「うそでしょ!?」


 元気な声。楽しげな声。妄想で昂ってる声。呆れた声。


 色々な声が濁流のように氾濫する只中で、言葉を発していない人も少数ながら存在する。そしてその少数の人達は、更に二通りに分類ができるのだ。


 片方は無害。カレンちゃんのように静かに笑いながら皆の話を聞いている者。


 そしてもう片方は、私の背後にコソコソと不自然に集まり、髪やら首やら脇の下やらへと顔を近づけ、ふんふんと鼻を鳴らす者たちだ。


 ……変態だ。紛うことなき変態がすぎる。無言で近付いてくるあたりに真性の気配が漂ってる気がする。せめてふざけた感じで匂いを嗅ぐならまだ救いもあっただろうに。


 でも実際、どれだけ近付こうが私の匂いは嗅げないんだよね。だって魔法の効果で物理的に遮断されてるから。私からは人が不快に感じる臭いは一切発生しないのだ。


 汗の匂いも外に漏れなければ土の匂いが体に着くことも無い。雨が振る中馬車から降りたって靴には汚れひとつつかない。それが極度の綺麗好きと呼ばれる私の日常。


 ……って、どう考えても無理があるよね。特に靴が汚れないって部分。


 厳密にはね、靴は汚れるんだ。私が履いてない時限定だけどね。

 でも靴なんて家以外で脱ぐ機会なんてそうそう無いし、家で脱げばすぐに誰かが洗ってくれちゃう。だからやっぱり「全然汚れない」というのが正しいと思う。



 ――さて。そんな不思議な靴を今、私は普通に履いています。


 そしてクンクン淑女の皆様は、私から特別な匂いがしないことを気にしているご様子。「本当に全然汗の匂いがしない」「なにこれソフィアって天使なの?」と混乱しているみたいですね。


 そしてね。そして何より困ったことに、さっき私の靴の匂いを嗅いだことがあると話していた二人が、ジーッと私の足元を見てるんですよね。


 ……嫌だよ? そんなに見たって嗅がせないよ?


 同級生に靴の匂い嗅がせるとかどんなプレイよ。何より絵面がヤバすぎる。


 個人的にはカイルとの情事を疑われるよりよっぽど耐え難い。なにせ証拠と証人が揃って目の前にあるからね、追求しようと思えば簡単に真相に辿りつけてしまう。


 ここまで歩いてきたにも関わらず、全く汚れていない摩訶不思議な靴。


 ……アネット商会の新商品とか言って誤魔化せたらいいなぁ……。


いつも元気な漫才コンビのボケ担当さんは、いつもの様に「そ、そんな……!」なんて大袈裟に嘆きつつ跪いた先にソフィアのおみ足を発見。こっそりスカートでも覗こうかと考えていたら、まるで売り物のように綺麗な靴が目に入って思わず臭いを嗅いだのだとか。

綺麗な靴(ソフィアの足入り)は背徳的な香りがしたそうですよ。

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