不本意だけど景品になろう
お父様に煽られて、逃げ腰だったカイルは毅然とした顔になって啖呵をきった。
「そこまで言われて引き下がる訳にはいきません。俺も男だ、なんでも受けて立つ」
「ほう、よく言った」
ほう、じゃないよポンコツお父様。この勘違い迷惑暴走列車め。少しはお母様を見習ってくれ。
聡明なお母様は私の表情から認識の齟齬があることを理解してくれたぞ。そこまで分かってるならお父様も止めて欲しいんだけど、なんで動いてくれないんでしょうね。ここに味方はいないのか。
カイルもカイルだ。
勝負を受けるってことは私に求婚するってことなんだけどわかってる? 絶対わかってないよね?
後で絶対後悔するぞ、覚悟しろ。
「それで、何をすれば認めて貰えますか。剣なら自信はありますが」
なんでそんな闘争心剥き出しなの。
お姉様も「なんか面白そうな事になってきた!」って顔しちゃってるじゃん。あれ? もしかしてお母様が止めないのもそういうこと? 私はぜんっぜん面白くないんですけど??
「俺は文官だからな。剣の相手はできないが、頭の良し悪しは測れるつもりだ」
言ってることは最もなんだけど、あれだけ煽っておいて真剣勝負は避けてるの、ものすっごくカッコ悪い。
毎度思うけどお母様はこの人のどこを好きになったんだろう。やっぱ顔かな。他に褒めるところないし。
「だから勝負は計算の速さを競わせてもらおう。先程追加で届いた収支計算書の直しが」
「自分の仕事を人にやらせようとしないでください」
お父様の言葉を遮り、スパーン! といい音が響いた。お父様のまだまだ禿げてない頭から。
お母様ナイスツッコミ。
私やお姉様、女性陣が呆れ返る中、カイルだけが明らかにホッとしてた。さては計算苦手だな?
「それに相手の得意分野を断った上に自分の得意分野を持ち出すとは恥ずかしくないのですか。もう少し外聞を気にしてください」
「外聞よりもソフィアの方が大切に決まっているだろう」
キリッと言い切るお父様。
どうしよう、台詞だけ聞けば感動モノのはずなのに全く心に響かない。
「そのソフィアに失望されてもよろしいのですか?」
あ、それはもう手遅れです。
どうせお父様だしなーって諦めてますから、気にせずに醜態を重ねて下さって結構ですよー。
お父様がチラッとこちらを見たのでニコッと返しておいた。マジ恥を知れいい大人がッ! という本心は一応隠しておく。ソフィアちゃん、空気読める子なので。
それでも内心の何割かは伝わったのか、スッと視線が逸れた。自責の念に苛まれただけかもしれないけどね。
お父様は娘からの失望と勝率を天秤にかけて、うーむと悩ましそうな声を上げていたが、やがて何かを思いついたのか顔を上げた。
「……では、そうだな。魔法、魔法にするか。それならどうだ」
「分かりました」
お父様が折れて、なんとか公正っぽい勝負に決まったようだ。
でも魔法で勝負ってなにするんだろ。
ちょっと楽しみかも。
女の子は恋バナが好き。
目の前で妹が、娘が、男の子に求婚されてたらニヨニヨしちゃうよね。ニヨニヨ。
男の子にその自覚ないけど。