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恐るべし暇人ストーカー


「「同棲してるって本当!?」」


 なんか来た。教室に入った途端、目をキラキラさせた何かがやって来た。


 横目でちらりとミュラーを見れば、間髪入れずに「私じゃないわよ」との返答が。反応良すぎて逆に怪しいけど、本人が違うと言うなら違うのだろう。神殿からここに来るまでずっと一緒だったし初めから疑ってはいない。疑ってないけど、この反応……うーむ。


 四人揃っての登校なんて初めてのことだし、確かに怪しさはあるかもしれない。でもそれだけで普通、同棲してるってことにはならないでしょうよ。


 ……確実に情報提供者がいる。


 それも学院関係者。つまりは私達四人のうちの誰かが密告者だということだ。


「その話、誰から聞いたの?」


「おぉっと、言い逃れはしなくていいのかい? ぐへへ、その潔さにめんじて教えてあげよう! 実は昨日、怪しい建物に仲睦まじい様子で入っていくカイルくん達を発見してね! これはからかうしかないでしょ! と思って出て来るのを待ってたんだけど、待てども待てども出て来やしない!! 『諦めて帰るか? いや、それじゃあこれまで待ってた時間が無駄になる!!』と覚悟を決めた私は長期戦を覚悟して待つことにしたの! ……でも、それは悲しい時間の幕開けだった……。どれだけ待っても、日が沈んでも、人通りが少なくなっても、全然、誰も、あの建物から出てくる人がいなくてさ……。近所で買った外套に身を包んで、売れ残りのパンを齧りながら思ったの。私は休みの日に何してるんだろう、ってね。今頃カイルくんはソフィア達に温めてもらってるはずなのに、なんで私は一人なんだろう……ってね!? 結局『ずっとそこにいられると迷惑だから』って近所の人に言われて大人しく帰ったわよ! 成果無しのまま一人で寂しく帰ったわよぅ! うわーん!!」


 ……………………えっ、と。


 どうしよう、ツッコミどころが多すぎてどれから処理すればいいのか分からない。とりあえず密告者がいなさそうだってことだけは分かったんだけど。


 というか今の説明だと「同じ建物に入っていくのを見た」というだけで「同棲してる」と判断した理由にはならないだろう。どゆこと? てゆーかいくら暇だからって日が落ちるまで見張ってるって……。


 外出したのっておやつ買いにアネット商店に行った時だけだよね? え、いくらなんでも暇人過ぎない……?


 なんと哀れな。引き時を見失った人間はこうまで哀れになるものなのかといっそ恐ろしさすら感じていると、そんな哀れ極まる彼女の向こう側に素知らぬ顔で着席するミュラーが見えた。隣には手を引かれたカレンちゃんまでいる。……いつの間に!?


 びっくりして背後を振り返ると、そこにはミュラーやカレンちゃんは勿論、カイルすらもいなかった。それが意味することはすなわち、一緒に学園までやって来たはずの誰一人、彼女の話なんてまるで聞いちゃいなかったということだ。

 信じられるかい? 私達ってそれなりに仲の良いクラスメイトなんだぜ?


 ……あまりにも可哀想すぎるから、せめて話を聞こうとする姿勢くらいは見せてあげて!? 面倒くさがる気持ちもとてもよく分かりはするけど!!


 哀れさには上限って存在しないのかな。私は彼女のようにならないように気をつけよう――なんてことをソフィアちゃんは思いましたとさ。まる。


「……ソフィアも私を面倒な女だと思うの?」


「え、いや。ただまあ、休みの日にも欲望全開で生きてるんだなぁとは思ったかな……?」


「休息日にこそ欲望に素直でいなくてどうするのよ!?」


 直前まで考えてたことを的確に突かれてついつい本音を零したら、なんか烈火の如く怒られました。でもなんか怒りの方向性が違くないかなこれ。


 なんで私は怒られてるんだろ。

 やっぱりこの子、まともに相手するのは少し面倒というか……私も大人しく話なんか聞いてないで、さっさと逃げるのが正解だったかもしれない。というか逃げるんだったら私も誘ってくれたらよかったのに。

 見た目最年少の私を躊躇なく生贄に捧げるとか、皆順調に良心捨ててる感じするよね。


 そもそもね、休日の午後を無駄に潰したのは可哀想だなあとは思うけども、最初から変な気なんて起こさなければ休日を無駄にすることなどなかったのだ。そんなの自業自得としか思えないでしょ。


 彼女と一緒に突撃してきたもう一人の方もその辺りは理解しているらしい。理解した上でなお、私達をからかうことを選んだっぽい。改めて思うけどこのクラス、友達を生贄にする人多すぎないかな。


 ともあれ、彼女たちは明確に娯楽を求めている。


 私が彼女達の追求から逃れるためには、彼女たちが満足する娯楽を提供する他ないのだろう。


 ……でもやっぱり、同棲してると思った根拠くらいは聞いておきたいんだけど?


「それで、この子の見たその建物っていうのがね」


「怪しい! 実に怪しい建物だった! つまりそういうことをする為の施設かああぁ!? ……と思ってるんだけど、実際のとこどうなの? こっそり教えて♪」


 最後の方だけ、ちょろっと小声で尋ねられた。


 ていうかこの子本当に元気だよね、酒でも飲んでるんじゃないかと疑いたくなる時があるよ。


 それに……そういうこととはなんぞや。言葉は正確に使って欲しいね。


 何を疑ってるのかはよく分からなかったけど、神殿というものが世間には全く浸透していないのだけはよく分かった。


「それ多分神殿のことだと思うんだけど……入口に柱が何本も立ってる独創的な建物でしょ?」


「そうだけど……神殿って? え? もしかして聖女様関連? 何をする為の施設なの?」


 何を……改めて聞かれると困るな。神様の家? いや、でも唯ちゃん来る前から建ってたしな……。


 ――神殿とはなにか、か。


 ………………え、待って、ホントに分かんない。神殿って何する為の施設なの???


異世界でも男女が楽しむためにベッドを借りる施設は特徴的な見た目をしているらしい。

ちなみに暇人さんに声を掛けた自称近所のお姉さんは、誰かの指示を受けて彼女を注意しに行ったとか……?

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