悪魔的な策略
魔力が無いと魔法は使えない。それが当然、当たり前。
でも新しい魔法を創造する時には、実は魔力が必要な工程って少ないんだよね。
「必要な効果から考えれば《不眠不休》とかが適切かなーとは思うんだけど、いまいち魔法の名前っぽくないよね。もっと単純に《不眠》とかでもいいんだけど、《強壮》と《覚醒》の併せ技ってことを考えちゃうと『眠らない』と言うよりは『起き続けてる』って意識が強くあって認識に齟齬が出そうだし。眠るってどういう状態だろ? 回復? 脳の疲労を回復する手段? なら回復魔法を頭にかければそれで眠気が吹き飛ぶのかな?」
「よく分からないけど、色々試してみればいいんじゃないですか?」
「ふっ……そう思うでしょ? でもその方法だと、治ると思えば治るし、治らないと思えば治らないという結果になるのが目に見えているのだよ!」
ババーン! と、さも大層なことのように断言してみたけど、要は打つ手なしということを大々的に宣言しただけだった。自分の無能さをひけらかしたわけだね!
まあ「治れ!!」って考えるだけで治るのは利点ではあるんだけど、問題は既存の魔法以外では効果の検証がしづらいということ。
失敗したから治らないのか? 治っていれば確実に成功しているのか?
治りはしたが症状が残ったということはないのか。はたまた治っているように見えてその実、根本の原因が放置されたままになっていたりはしないのか。
失敗した時だけではなく成功した時でさえリスクがある。
これが回復魔法の開発における難点である。
なので私が治療をする時は、回復とかいう曖昧な概念はまるっと無視して「肉体の状態を五分前に戻す」とかいう誰が聞いても同じ結果になるだろうやり方で治してる。とはいえ私以外に時間を操る魔法使う人なんか見たことも聞いたこともないんだけどね。
特定範囲の時間をじーわじーわと巻き戻す治療法は万能だしとっても楽チンなんだけど、このやり方にも一つだけ欠点があって。
端的に言うと、治りすぎるって言うか……。
そもそもどう考えても回復魔法ではないんですよね。
この世界における回復魔法ってお医者さんの専売特許なんだけど、見たり聞いたり実際に施術されてみた結果、回復魔法なんて言いつつやってることなんてただ魔力流すだけですしおすし。要は私の魔力マッサージの劣化版なのよね。
舐めて放置するよりかは効果は高いんだろうけど、「それって治療……?」と思わずにはいられないというか。
少なくとも「回復魔法を掛けたから治る!」というものではない。というか掛けなくても治る。治した。
あれはホント、実験の為だけに何日も傷を維持出来ないという私の堪え性の無さが露呈しただけの実験だった……。
……と、そんなことはいいんだ。
問題は現在。私に回復魔法のアイデアが存在しないということだけだ。
「解決策が何も浮かばない……。こういう時はあれだね!」
「あれ?」
「トイレ行ってくる」
トイレにいる時に限ってやたら天啓が降りてくるのは何なんでしょうかね。トイレの神様は発明を司ってたりとかするんですかね?
ともあれ、唯ちゃんと魔法で遊んだり魔法のお話をしてる間に朝の気配が感じられる時間になってきた。まだ皆寝ているとは思うのだけど、朝日が昇り始めれば起き出してくる人たちもいるだろう。その前にトイレを済ませておきたい。
そういえば唯ちゃんってトイレも行かないよね。なんと便利な身体か……と神様の肉体構造を羨みつつ廊下に出れば、まるで今にもおばけが出てきそうな雰囲気に一瞬身体が竦んでしまった。
…………ふむ、おばけか。
まあいざとなったらアイテムボックスがあるし問題は無いかな。
魂がアイテムボックスに収納できることは確認済み。つまり幽霊が出たらアイテムボックスでぱっくんちょすれば怖くない。私に恐れるものなど何も無いのだ!
あ、でも虫は嫌だな。あいつらやたら数多いし。
普段使いのアイテムボックスとゴミ箱用のアイテムボックスは別に分けて使ってるとはいえ、虫を放り込んだものと同じ見た目の謎空間から食べ物が出てくるのはやっぱり気分的によろしくない。虫は視界に入れないままに駆除したい派です。
あー……そっか、虫か。また虫の駆除をしなくちゃならないのか。あれ本当に大変なんだけどなぁ……。
などと、陰鬱な気分になりながら歩いていると。不意に一枚の扉が目に入った。
その瞬間、身体に衝撃が走り抜ける――!
「……はっ!?」
――気付いた。気付いてしまった。その素晴らしい可能性に。この扉の住人を自在に操る、一石二鳥のアイデアに!!
虫と言えば男の子。そして男の子といえば、ここにはカイルがいるじゃありませんか! アイツに虫を絶滅させようそうしよう!!
ついでにあれ。お仕置。昨日執行するのを忘れてたお仕置を実行して弱みを握れば……ふふふふふ!
完璧だ。完璧すぎる。
冴え渡る自分の才能が恐ろしいね!?
「そうと決まれば早速……おじゃましまぁ〜す……」
善は急げという格言を胸に《遮音結界》を展開。音もなくカイルの部屋に忍び込むと、念の為に《睡眠》の魔法を弱めにかけた。
さてさて、後はこの魔法で生み出した水を……うーん、このくらいの量でいいかな……?
朝起きたカイルがどんな顔をするのか。その様を想像するだけで、私はもう、もう……ッ!
うっふふふふ……♪
この場合の善とは、即ち。
……ソフィアが楽しめることなんでしょうね。




