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ロランド視点:保護者の夜


「どうだった?」


「こんな時間だもの、みんなぐっすり眠ってるわ。……と思ってたんだけど、ソフィアはどうやらあの子の部屋にいるみたいね。元気な声が聞こえてきたわ」


 くすくすと笑う姉の姿に、こちらも僅かな苦笑を返した。


 ソフィアは本当に、まるで僕達の想定を覆すのが趣味なのかと錯覚してしまうくらいに、ここぞという場面で普段とは違う行動を繰り返す。掴みどころの無い風みたいな存在だ。


 他の子達も既に全員が寝ている時間。

 となれば、当然ソフィアも寝ているものと思ったのだけど……。


 いやはや、本当に。姉さんに確認してもらって良かったよ。


「今日をとても楽しみにしていたみたいだからね。興奮して寝付けなかったのかな?」


「まっさかぁ。ロランドだってそんな理由じゃないって分かってるでしょ?」


 まあ、そうだね。ソフィアはとても優しいからね。


 それにソフィアには魔法がある。

 寝ようと思ったけれど眠れなくて……という状況が彼女に起こるとは到底考えられなかった。


 そうなれば、ソフィアがあの子と一緒にいる理由も自然と推察できるというもの。そもそも屋敷にいた頃から気にかけていたのだ。たまたま今夜行動に移しただけで、以前から機会を伺っていたに違いなかった。


「自分が連れてきた子供が、自分以外に頼る者のいない場所で、眠ることも出来ずに長い時を過ごしている……。ソフィアが気にかけるのは当然だね」


「子供って……相手はえらーい女神様じゃない。子供扱いなんてしていいのかしら?」


「ソフィアの妹らしいからね。それなら僕にとっても妹でしょ」


「違いないわね!」


 いい笑顔で力強く肯定する姉上。その表情はどこからどう見ても地上へ顕現した神を畏れるものではなく、以前によく見た、愛でる対象が傍にいることを喜ぶ顔にしか見えなかった。


 まったく、姉上は……。

 結婚して落ち着くどころか、益々自分の欲に忠実になってるようにすら感じられるね。


 この人こそあの愛らしい神様を神様として見ていないんじゃないかと思う。陛下ですら会話に気を遣う雲の上の存在をああまで屈託なく可愛がれるのは、世界広しといえど姉上とソフィアくらいのものだろうね。


 楽しげに身体を揺らしながら「お母様も唯ちゃんのことを娘だと思えばいいのにね〜」などと無理難題を口にする姉上に、思わず噴き出しそうになった衝動を咄嗟に堪えた。姉上に今の言葉を向けられ嫌そうな顔をする母上の顔が簡単に想像出来てしまったからだ。


 ……本当に、姉上は相変わらずだな。


「それよりソフィアのことだけど」


 改めて話をしようとすると、不意に真面目な顔になった姉上が僕のことをじっと見ていた。


 正直な話。僕は姉上のこの意識の緩急が、昔から少し苦手だ。


「前から思ってたんだけど、ロランドはちょっとソフィアのことが好き過ぎるんじゃないかしら。お姉ちゃん心配になっちゃう」


「なるほど。姉上はソフィアのことを好きではないと。あとでソフィアに――」


「兄妹仲が良いのは素敵なことよねっ!!」


 まったく……何を言い出すのかと思えば。


 好きとか嫌いとかではないんだ。ただソフィアのことが大切で、守りたいと思うから、その為に行動している。ただそれだけのことなんだ。


 もしもソフィアがあれだけの魔法の才能に恵まれていなかったのなら、僕ももう少し大人しめに見守れていたのかもしれないけど……そんなありえない想定に意味は無い。


 今のソフィアを守るためには僕の力だけでは到底足りない。だから周囲の環境を利用する。


 利用して、集束して。守るに足るだけの力を。もう充分だと確信できるまで集め続ける。


 何かがあってからでは遅いから。


 何かが起こらないように。あるいは、何かが起こった時に……せめて被害が最小限になるように。


 力の無い僕が、ソフィアを守りたいと思った時。それが出来るようになるためには、なりふりなんて構っていられないと思ったんだ。


「ああでも、勘違いしてるようだから言っておくけど。僕は姉上のこともソフィアと同じように大切に思ってるよ? 何かあれば力になる。それだけは絶対。忘れないで」


「……はあ〜〜。ロランドはいつからこんなに悪い子になっちゃったのかしら……」


「え?」


 悪い子とはどういうことだろう? 姉上にこれほどまでに盛大な溜め息を吐かれる理由が思いつかない。


 ソフィアばっかり優先していることを拗ねてるのかとも思ったけど、その事を言ってるわけでも無さそうだ。

 今の言葉の中に何か気に障る部分でもあったのかな……?


「悪い子……? 僕が?」


「女の子を泣かせる悪〜い男の子ってこと!」


「誰かを泣かせた記憶はないんだけどな……」


「嘘つけぇ!!」


 いや、そんなことを言われても……。


 あ、いや、そうか。分かった。じゃれてるのか。これは姉上なりの構い方かな。


「姉上も羽を伸ばすのは結構ですけど、あまり羽目を外しすぎると……」


「え、まさかロランドったら、お姉ちゃんにお小言いうつもりなの? いいの? 泣くわよ? お姉ちゃんロランドにいじめられたよ〜って明日ソフィアに泣きつくわよ!? あなたはそれでいいのね!?」


「……あー、あははは……」


 …………結婚生活、うまくいってないのかな。


 姉上には失礼だけど、僕はこの時、自分の妻がアネットで良かったと心から神に感謝したのだった。



 ……まあ彼女も短い時間、姉上みたいな人格が表出したりはするんだけどね。


「あ〜〜~お酒飲みたい!」

「姉上、仮にも聖職者になるんですから……」

「ロランドが許せば問題ないでしょ?」

「……母上にバレても知りませんよ?」

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