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疲れると変なテンションになるよね


 魔力が足りなくなる経験を最後にしたのは何年前だっただろうかと、私はそんなことを考えていた。


 記憶の彼方でホコリを被り、もはや忘れかけていた懐かしい感覚。


 身体に重く圧しかかる倦怠感。生命力そのものが薄弱しているかのような脱力感。


 あらゆる気力を失われゆくこの独特な感覚は、本来であれば、決して心地好い類のものではなかっただろう。


 ……けれど、私は今。久方振りに感じるこの感覚が、むしろ好ましく感じていた。


 まあ疲れってのは、言うなれば努力の証だからね。

 最近は精神的な疲労を感じる機会ばっかり多かったけど、時にはこんな疲れ方も悪くないんじゃないかと思ったわけさ。


 何より唯ちゃんのベッドを合法的に占有できる理由になるというのが何にも増して最高だった。


「ごーろ、ごーろ。ゴロゴロ〜♪」


 うむうむ、これは間違いなく未だ誰も使っていないシーツの香りだ。新雪を汚す時の征服感にも似たものがあるね。


 他人の初ベッドを蹂躙する背徳感に酔いしれながらも、私は別に見た目通り単にぐーたらしていた訳では無い。こう見えても体内では魔力を制御し、最大効率で魔素を魔力に変換していたのである。


 ふふん、能ある鷹は爪を隠すものなのですよ。ふふふのふ。


 とはいえ効果の程はまあお察しレベルなんですけどね。


 効率を上げるったって出来ることは限られてる。

 相変わらず焼け石にスポイトで水をちまちま垂らしてるかのような徒労感だ。


 うーん、やっぱ魔素から変えるとなると魔力の回復までに時間がかかるのがネックだよね。もっとどかんと一発、大回復できるようなアイテムでもあればいいのに。魔石でもいいけど、あれは唯ちゃんスペースでは無力だったからなぁ……。


 なにせ元の世界に帰ることを考えたら魔力の確保は必須事項。

 そのうえ魔素は今よりも遥かに得にくくなるのが確定してる世界なので、魔力はどうしても外部からの取り込みに頼りたくなるんだよね。


 莫大な魔力をどのように安定して調達するか。


 その問題が解決しない限り、臆病者の私は、いつまで経っても日本に帰ることなんて出来そうもなかった。


 ――みたいなことを考えてた時だったからね。


 不肖わたくし、びっくり驚かされてしまいました。


「ソフィアさんっていつでも楽しそうに過ごしてますよね」


 なにせ唯ちゃんの指摘は真逆も真逆。それも思考をぶん投げ、今まさに「解決策よカムヒァ!!」と無責任にも楽しくないことを放り出してたタイミングだったからね。唯ちゃんの人を見る目が無さすぎるのが心配で心配で、おねーちゃん過保護になっちゃいそうだよ。


 まあ冷静になって考えてみれば、唯ちゃんの言い分は正しくもある。すぐに気力を持ち直した私は、既に返すべき答えを決め終えていた。


「それが唯一の取り柄だからねっ!」


 そう答え、にぱっ☆ と大輪の笑顔を咲かせてみる。鏡があったら間違いなく私は羞恥心の中で息絶えていた。


 自滅必至の媚び台詞とか、自分で言っててちょっと悲しくなってきたけど、いいんだ。どうせさっきの感想は嘘だからね。


 はい。本当は常時楽しさを体現してるところだけではなく、この愛らしい容姿もめちゃくちゃ有利な取り柄だと思っております。ついでに言うと、他人に迷惑かけても「まあ仕方ないよね!」で済ませちゃえるクソッタレな性格も、実に有用な資質だと思っております。いえ本当に、冗談ではなく。


 だってさ、知ってた? 人生ってみーんな、自分が唯一の主人公ちゃんなんだぜぃ。他人は全員モブ役なのだ!!


 てゆーか実際そのくらい思わないとやってられない。

 世の中には不条理が溢れて過ぎてて、我慢すれば済むことなんて殆ど全く無いんだからねー。


 なので私は笑って主張するのだ。私は今、幸福のうちにあると!!


 ……えーと、なんの話だったっけ。


 そうそう、唯ちゃんの新品ベッドはとっても気持ち良いってことだね。……ってそれ唯ちゃんのベッドと呼べなくないかな!?


 唯ちゃんが寝る前に私が寝たベッドなんて、それはもはや私のベッドと呼ぶべき存在じゃないだろうか。


 私の部屋にあるのは私のベッド。唯ちゃんの部屋にあるベッドも私のベッド。


 なんだかどこかのジャイアニズムみたいだね。


「……唯一では、ないと思いますよ」


 そう言って私を擁護してくれた唯ちゃんの、慈愛に満ちた表情ったらない。


 んー……やっぱり私、この子のお姉ちゃんやるの大分無理そうじゃないかな? ちょっと人としての器で勝てる気がしない。


 とはいえ私にも姉としての矜持がある。いつまでも一方的にやられていてはいけない。


 そう考えた私は、ベッドの上に膝立ちになって、そっとお腹を露出してみた。


「そうだね。私には隠しても隠しきれない美貌もあったね」


「………………」


 あの、ちょっと。無言は良くない。普通に笑い飛ばしてくれれば良かったんたけど!?


 これはあれかな。盛大に滑ったというやつかな。


 ついでだから、パッチンと唯ちゃんにウインクをしてみた。

 唯ちゃんはウインクを返してくれるでもなく、普通に苦笑をしただけだった。


 ……これ、ものすんごく居た堪れないね。


 いっそ夢の中へと逃げるべきかな。もしくは穴を掘って埋まればいいかな?


深夜でハイ。疲れてハイ。いつも通り調子に乗ってハイ。

ソフィアのハイテンションは留まるところを知らない。

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