神様ってパない
――私はこれまで、創造神という存在を舐めていたのかもしれない。
唯ちゃんはこの世界を創造した神だ。それは分かる。
だが、同時に普通の女の子でもある。私としてはそちらを尊重してあげたい。自分がそう思っていることも理解している。
しかし、両方だ。その両方が彼女の本質なのだ。創造神でもある女の子。それが唯ちゃんという存在なのだ。
だから、これは必然なのだろう。
唯ちゃんが魔力を自在に操れることくらい、当たり前の事だったのだ。
「作って、増やして、動かして……。うん、問題ないみたい。次は何を試してみればいい?」
「とりあえず維持、とか……? しといてくれる?」
「わかった」
本人曰く「コツを掴んだ」らしい唯ちゃんの前には、今、二十五個の魔力球が浮かんでいる。
風船大の魔力球が五かける五。
宙にビンゴカードを模したように、整然と。
……このサイズを、これだけの数、きっちりと。それも思い思いに動かせる制御力まで兼ね備えているとなれば、ぶっちゃけ私よりも魔力制御能力が高いと認めざるを得なかった。
え、なにこれ。悔しい。めたくそ悔しいんですけど? ちょっとこれ夢なんじゃないの?
唯ちゃんの部屋に来て、気付かない内に寝てしまった私が勝手に見てしまった夢なんだこれは。でなきゃ妄想。だってそうとでも思わないとありえなくない?
ついさっきまで魔力球いっこ作るのもギリギリだったのに、いきなりこんなの。……私のちっほけなプライドがドンガラガッシャンと棚ごと倒された感じなんですけど。
ひとつだけ動かすのも、全部まとめて動かすのも完璧。
消すのを指示したら無駄な魔力の拡散すら皆無だし、再度作るのだって瞬きの間に終わる。それも当然魔力のほつれが一切無い、物質と見紛うほどの綺麗な球体がずらりと空中にいくらでも。その魔力制御技術の高さには畏れさえ感じちゃうね。
とりあえず作れるだけ作って維持してみてとお願いしたら、部屋中を埋め尽くす百個近い魔力球が出現し、十分経っても欠片も気配が揺らがなかったので私は早々に結論を出した。
唯ちゃんは魔力制御はもはや私の教えを受ける必要が無い免許皆伝レベル。むしろ私が教えて欲しいくらいの達人級です!
「で、コツってどんなの?」
「どんなのと言われても……。制御するという感じじゃなくて、もっとありのままを信じるような気持ちで……」
ふんふんなるほど、ありのままを信じる気持ち。
……で、ありのままってなに? 魔力? 自然? 抽象的すぎてわけが分からん!
先生役という美味しい立場を投げ捨て直球で尋ねてみても、唯ちゃんの話す言葉は半分くらいしか理解出来なかった。これが天才言語というやつか。
うーむ、どうしようかな。
唯ちゃんが魔力制御能力を完璧以上に習得したことで私達の危険が激減したことは確かなんだけど、それを素直に喜べないというか。解決が唐突すぎて実感が湧かないというかなんというか。
やっぱ悔しいというか、怖がってるのかな。これって。
今までの私ってば大抵の相手に舐めプ余裕だったしね。自分が弱者側に回るのはホント、精神的にツラいものがありますわー。
「んー」
ひとまず唯ちゃんがやって見せたように、同時に多量の魔力球を生成してみようと試みた。
……が、足らない。遅い。安定しない。
探査魔法や時止め魔法のように環境魔力を利用してみたものの、必要量の魔力を瞬時に流す効率が最悪だ。その為に拳大程しかない魔力球たった二十個の維持すら全くもって安定していない。大きさも不均一で美しくない。私が試験官なら間違いなく落第の出来栄えだ。
「無理くない?」
「逆に器用と言うか……。なんで周りの魔力を使おうとするの?」
ほ? なんでと言われると……癖かな? うん、きっと癖で正解だと思う。
魔力の総量には限りがあるから、自前の魔力は節約するやり方がすっかり癖になってるのよね。
なるほど、それが原因でしたか。でも持ち出しだと魔力が絶対に足らないのだけど。唯ちゃんに埋め込まれた精霊? で補強されてたって三十個も作ったら枯渇しそう。
とりあえず、五個かな。完全持ち出しで五個の魔力球を作ってみよう。
先程よりも数が少ない分、個々の制御に集中できる。その分制御を完璧に。魔力の拡散を最小限に抑えてみよう。
目を閉じて、意識を集中。
成功させた時の光景を脳裏に思い浮かべて、それを実現させる為の魔力を引き出し、一息に――!
「ほいっ!」
てててててんっ! と次々生まれる魔力球。大きさは想定した通りの風船大。サイズも位置もバッチリだ……ったが。
「あっ」
五個目を完成させた直後、一つ目への魔力供給が上手くいかず消失。意識を逸らした為に五つ目も消失。消えかかった他の三個は完全に意地だけで持ち直した。
……えー、難しすぎない? 三個維持するだけでも割といっぱいいっぱいなんですけど。これ百個とかどんだけよ。
何かが違う、やり方が違う?
魔力総量の違いはともかく、少なくとも思考は魔法で加速させてる私の方が有利だと思うのだけど……。
うーむ、分からん。やり方は全然分かんないけど、なんだか楽しくなってきたかも。
「ふむー」
――ああ、いいな。この感じ。挑戦するのってやっぱ楽しい。
そうして私は、いつの間にか唯ちゃんが静かに見守っているのにも気付かないまま。ひたすらに魔力の球を作り続けた。
まあ無茶苦茶な作り方してたら直ぐに魔力が足りなくなっちゃったんですけどね。てへり。
ソフィア、魔法に夢中になるの巻。
得意分野と自負していた魔力制御技術で大敗したのが悔しかったみたいですね。




