カイル少年の屋敷脱出を支援しよう
今日はカイルの厄日に違いない。
私がカイルに同情するって相当よ?
つまりはそれくらい悲惨な状況ってこと。カイル、生きろ。
「やあやあ、久しぶりだねカイル君。お父上はご健勝で?」
「お久しぶりね、カイルさん。その後お母様はお元気?」
特別ゲスト、なんとお父様にお母様までいらしてくださいました!
いや、呼んでないから。
二人が部屋に来た時は何事かと思ったよ。
挨拶だけしに来たのかと思いきや、足らない椅子をメイドさんが持ってきて当たり前のように居座る流れがあまりにも自然すぎて突っ込む暇もなかった。
お二人共仕事しなくていいのかな。いいんでしょうね。
二人の来訪にお姉様もびっくりしてるけどそれ以上にカイルが不憫でならん。なんてーの? ヘビに睨まれたマングース? あれ、逆か? 私も混乱してるね。
「はい、父も母も息災で、はい……」
もはや消え入りそうになってる。
そもそもがウチに用があったかも定かじゃないのに何の覚悟も出来ないままお姉様に連れてこられ、私に過去の話を暴露されて綺麗なお姉さんが般若と化し、挙句には家長が夫人を連れてやってきた。
カイルはお姉様の怒りが収まったあたりで逃げておくのが正解だったね。今更言っても遅いけど。
かく言う私も許されるなら逃げ出したい。
両親の目的が分からないから不穏すぎる。しかもここ私の部屋なんだけど、心安らげる空間なんて残っちゃいない。今夜ここで寝る時夢に見そう。
「それは良かった。それで、カイル君。今日はうちのソフィアにどういった用件かな?」
居座った時点で確定してたことだけど、カイルに用があるらしい。そんでもってお父様から放たれる威圧感がパない。子供相手に大人気なさすぎ。
「いえ、これといって用があったわけでは……」
「そんなことはないだろう。わざわざアリシアを味方につけてまで話したい、大事な話があったんじゃないかな?」
お姉様がカイルの味方って、どこにそんな話があるんだ。さっきまで視線だけで殺されそうなほど睨まれてましたよ。
いや、そうか。
お姉様がカイルを連れてきたのを、カイルがお姉様を連れてきたと誤解したのか。
お姉様が今日戻ることを私が知らなかったって事は、当然お父様も知らされてなかったんだろう。
そこにお姉様と共に現れるカイル。私を加えた三人で、部屋へ消えゆく、と。
お姉様の突然の帰省には理由があり、それはカイルの用事と関係があると考えたのだとすれば。しかもカイルの目的は私だ。
カイルが、お姉様を連れて、私に話をしに来た。警戒すべき何かを見出すのも分かる。
分かるけど、前提から違う。
お姉様は帰省の予定を一々お父様に報告するはずもないし、カイルとお姉様は今日知り合ったばかりだ。カイルが私に話をしに来たかどうかも疑問が残る。
お姉様がカイルを見つけなければ、我が家に立ち寄らなかった可能性すらあるのだ。
まぁ、つまるところ。
お父様の勘違いっぽい。
「本当に大した用事では……なんなら今日はもう帰ろうかと思っているくらいで……」
「ほう? この程度で逃げ出すか。ヤツの息子だから少しは骨があるかと思ったが、このザマではとてもソフィアはやれんな」
やっぱりか。
前にお姉様が嫁入りして寂しがってたから少し甘えてあげたら、「ソフィアはどこにも嫁にはやらん!」って豪語してお母様に呆れられてたから、そんなことだろうと思った。
カイルのとこに嫁に行く気なんてさらさらないけど、私を自分のモノの様に扱うお父様にはイラッとくるな。
「…………」
……あれ? カイル、その顔、なに?
煽られてムカつくのは分かるけど、的外れなこと言ってるアホなお父様なんか無視して今日は帰ろう? ね? 別の日なら腕相撲でも模擬戦でも付き合うからさ。
だから頼むから余計な事言わないでお願いプリーズ。
私の平穏な日常をこれ以上壊さないで!
空回りしてるお父様、最高に輝いてる。




