表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1048/1407

夜の勉強会


 神殿とは神に礼拝するための施設である。


 それがつまり、どういう意味を持つのかといえば――


「私、思うのだけど。騎士に求められるのは魔物を倒せるだけの戦闘力よね? 勉強なんて必要ないんじゃないかしら?」


「必要に決まってるだろ。まあ将来騎士団長になるつもりが全くなくて、一生平団員でいいっていうなら別だけどさ。用兵に必要な知識に限ったって覚えることは沢山あるぞ?」


「それに、今、必要になってるもんね。来年度のためにも、もうちょっとだけ、頑張ろ?」


「というかミュラーってば、いくらなんでも弱音吐くのが早すぎるよ。そういう台詞は『もうダメだ〜』ってなった時に言うものなのにまだ一問も解いてないじゃん。……真面目にやればそんなに時間がかかる問題じゃないでしょ?」


 ――まあ、なんというか。

 神殿は居住区は存在するけど居住が主目的の施設ではないから、応接室はあっても居間に該当する場所がないんですよね。


 なので現在我々はこの応接室を仮の居間として占拠して、夜のお勉強をしている真っ最中なのであります。勿論えっちな方の意味じゃないよ。


 なお初めにここへ来た当初はお姉様がいたのだけど、私達が明日の授業の予習をするために集まったと分かるやいなや「そんなに成績悪いの?」と興味津々に聞いてきたので、私とカレンちゃんが学年のツートップだという話をすると、「そう、なら私は必要なさそうね。お勉強頑張ってね〜」という言葉を残して去っていった。恐らくではあるが、答えの分からない質問をされることを嫌って逃げたのだと思われる。


 問題が解けない程度でお姉様への評価が下がるなんてことはあるはずないが、年下の子達に質問されて、もしも答えられなかったらと恐怖する感覚は分からないでもない。


 私もアーサーくんに「そんなことも分からないのか?」とか言われるとピキピキってするもんね。


 それとはちょっと違いそうな気もするけど、まあ似たようなものだろう。


 ……てゆーか下手したらアーサーくんの方がミュラーよりも頭良い可能性とかありそうだよね。

 ヒースクリフ王子とか見てると、王族って文武ともに優れてる印象だし。そもそも勉強への意欲が違いすぎる。


 ミュラーも、いつまでも問題を睨みつけてないでさ。諦めて勉強始めようよ。


 せめて剣術に傾ける情熱の一欠片でも勉強に向けられていたらなぁ……なんてことを考えながら自分の勉強を黙々と進めていたら、やがて「ぅ〜〜!」と唸り始めたミュラーが、諦めたように机に顔を突っ伏した。そしてそのまま叫び出した。


「私が遅いんじゃなくてあなた達が早すぎるのよ!! なんでそんなにスラスラ解けるの!? 問題ちゃんと読んでるの!?」


 え? なにこれ。なんか急に逆ギレされたんですけど?


 ミュラーってば何をそんなにイライラしてるんだろうね。明日のオヤツを取り上げられたのがそんなにショックだったのかな? 問題読んでなかったら答えが書けるわけないじゃんね。


 もしも問題文も読まないままに正答が記入されていたとしても、それはもはや解答とは呼べない。それは解ではなく、たまたま書く順番が一致しただけの文字列だ。


「ミュラー。ゆっくりでもいいんだよ。ちゃんと考えて、答えを出そうとしてるならどんなに時間がかかったっていいんだけど……ミュラーって今、どうやって勉強から逃れるかしか考えてないよね?」


「……………………」


 返事がない。ただの屍のようだ……。


 という冗談はともかく。


 無言ということは、一応は自分でも悪いとは思っているんだろう。ミュラーって冤罪認めるタイプじゃないもんね。


 何事もまずはそうやって、問題と正面から向き合うことが大切なのだ。……とか思っていてら、不貞腐れた様子ながらもミュラーが勉強する意欲を見せた。嫌々にも見えるが、自分で困難を乗り越えようとしている姿には一種の感動すら覚える。


 まあぶっちゃけて言っちゃうと、これって幼稚園児の初めてのおつかいみたいなもんよね。二回目どころか前の試験前にもやったんだけどね。


 ともかく、この調子で真面目に取り組んでいれば次の試験だってちゃんと最下位からは逃れられるんじゃないかと思う。勉強はやればやるだけ身につくからね。


 フレッ、フレッ、ミュラぁ! ミュラーの未来は明るいぞー!


 ちゃんと勉強し始めたミュラーに心の中でエールを送っていると、ふと、カイルの視線がこちらを向いていることに気がついた。「なに?」と仕草だけで合図をすると「いや……」と前置きした上で、こんなことを言い出した。


「今ふと思ったんだけどさ。これってミュラーが勉強嫌いっていうより、お前らが特別勉強が好きなだけのような気がするんだよな」


「やっぱりそうよね!?」


「……あー、いや、まあ。……そうだな」


 擁護するような発言に喜んで食いついたミュラーを見て、カイルは自らの発言を悔いるような反応を見せた。うんうん、その気持ちはよくわかるよ。


 私達が勉強を苦にしないことは確かに事実かもしれない。が、口実を見つけてはすぐに勉強を中断するミュラーが勉強嫌いであることもまた、覆しようのない事実なのだ。


 つまりミュラーが嫌いな勉強をするのもまた、避けられない未来ってことで。


 いい加減諦めて勉強しよね。


「あれ、そういえばカイル、髪が濡れてないよね?」

「ああ。……今はロランド様が入ってるよ」

「様て」


男二人の間で、何やら特別な会話があったらしい。

お兄様は過保護だからね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ