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視界は天国、心は地獄


 バカと天才は紙一重って言葉があるじゃないですか。私ね、今その言葉がやけに頭に浮かぶんだ。


 別に彼女たちがバカだとかそーゆー話じゃなくてね。


 ただ、バカと天才が紙一重だと言うのなら――天国と地獄も、もしかしたら紙一重なのかもしれないなって。そんな風に思ったんだ……――。




「――ソフィア? どうかした?」


「……ん、いや別に? どうもしないよ?」


「そう? ……まあなんでもいいけど。先に入ってるわよ?」


「うん了解〜」


 ミュラーとの軽いやり取りを経て、私は意識を取り戻した。


 ……いやぁ。あれは衝撃……でしたね。


 分かってはいたことだけど、まさかカレンちゃんだけでなくミュラーまでもがあんなに育っていただなんて。私としたことがすっかり騙されてしまいましたよ。



 ――お姉様たちの入浴後。いざ私たちの番だと脱衣所で服を脱ぎはじる段になって私はようやく気がついたのだ。カレンちゃんたちとの入浴には利点だけではない、多大なるデメリットも附随するのだという当たり前の事実に。


 まあ要は、カレンちゃんたちの成長著しい肢体を見て私が極大精神ダメージを受けるって話。想定以上の攻撃力(成長ぶり)で一瞬意識飛ばしてたからね。


 ねぇ、信じられるかい? 彼女たちと私って同い年なんだよ? 世代を共にする級友なんだよ??


 ただでさえ頭一つ分以上の差があったってのにここに来て更に突き放しに来るとか信じらんない。ていうか自分の身体が信じらんない。

 成長を阻害してた魔法を止めてから暫く経つのになんで未だに一ミリ足りとも背が伸びないんじゃおらぁあああ!!!


 ……あーもー、悲しすぎて涙すら出ないよ。

 マジでなんで成長しないの? 魚か? 魚を食べてないのがいけないのだろうか。って、その条件ならミュラーたちも同じ条件だよねー。あはははー。…………はあ。


 ……嘆いたところで現実は何も変わらない。


 私の背も伸びなければミュラーたちの背だって縮まない。私が全裸になる未来が覆る訳でもない。既に選択の時間は終わっているのだ。


 今はただ、自ら選んだ結果を受け入れるしかない。


 ――とりあえずお風呂に入って温まろう。嫌な気分は全部まとめて洗い流すに限るさ。


 そんな気分でポポイと衣服を脱いだ私が湯煙の中へと歩を進めれば、そこでは――予想を上回る光景が繰り広げられていた。


「……え、ミュラー? 何、してるの……?」


「あらソフィア、やっと来たのね。それがね、聞いてよ。カレンったら自分の身体を自分で洗ったことが無いって言うのよ? 家ではいつも使用人に身体を洗ってもらっているんですって」


「え、そうなの!?」


 え、一度も? 生まれてから今まで一度もナシ? そんなことってありうるの!?


 いやでも、ミュラーが嘘を言ってるとも思えない。無理やり迫ってるって雰囲気でもないし、カレンちゃんはどう見てもなすがままで、その様は確かにお世話され慣れてるように見えるけれど……。


 ……え、本当に? 生まれてこの方ずっと他人に自分の身体洗わせてきたの? へえ……。


「そ、そんなに変……かな?」


「変というか……」


「変に決まってるでしょ。私たち再来年には成人するのよ?」


 ちょっとミュラー、空気読んで!! 貴方の言葉には思い遣りが足りないと思うの!!


 あぁっ、ほらぁ! ミュラーが意地悪なこと言うからカレンちゃんが見るからに落ち込んじゃっちゃったじゃん! 変って言葉は言われた方は結構傷付くものなんだからね!?


 濡れた床面を気をつけて歩きながらカレンちゃんの傍へと向かう。


 視界に否応なく入ってくる格差の象徴(おっぱい)を極力視界に入れないように努めながら、カレンちゃんの手をぎゅっと握った。


「大丈夫だよカレン。ミュラーが言うほど変じゃないよ。私だって許されなかったから自分で洗ってはいるけど、もし許可が降りるならリンゼちゃんに毎日洗ってもらいたいと思ってるからね!」


 瞳を見つめながら熱烈にフォローをしてみたものの、カレンちゃんの表情は晴れてはいない。


 不安げに揺れるその瞳は一体何を恐れているのか。


 安心させるように頷くことで、カレンちゃんの固く引き結ばれた唇が綻んで――


「あのね――」


「ソフィアは少しあの子に頼りすぎじゃないかしら?」


 ちょっともぉおおお!!!

 タイミングぅ!! お願いだから空気を読んで!!?


 ミュラーはもう、黙って! 黙ってカレンちゃんの身体でも洗っててくださいな!!


 ミュラーのインターセプトが神懸ってたせいか、カレンちゃんはまた口を閉ざしてしまった。

 物事には流れというものがある。こうなっては次の機会まで、カレンちゃんの本心を引き出すことは出来ないだろう。


 んー……。お風呂に漬かってリラックスした状態でなら、なんとかいけるか……?


 全くもう、ミュラーのせいで無駄な気苦労が増えちゃったよと非難する視線を向けてみたところ。


「なに? ソフィアも私に洗って欲しいの?」


「……………………」


 違う。全然違うけど、その提案はちょっとアリかも……?


 折角のお泊まり会だもの。やっぱりこういうイベントは体験しておかないと……などと、気持ちをグラグラ揺り動かされていると。


「ソフィアは、自分で洗えるんだよね……」


 そんなふうに呟くカレンちゃんの独り言が聞こえてきた。


 ……え、えーっと。これはどう受け取るべきだろうか……?


「……そう、だね。折角だし、皆で洗いっこでもする?」


 とりあえず、無難な提案でもしてみることにした。


 もうあれこれ考えるのもめんどかったので!


成長の阻害をしていた魔法を止めてから、毎日のように身体の情報を精査してきた。

やがてその魔法こそが悪影響を及ぼしているのではないかと思い、必要のない時にしか身体の情報を取得しないようにした。

――だが足りない。それでも足りない。

ソフィアの身体は、身長も、体型も、何一つ変わらない。変わる兆しすら見えないままだ。

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