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入浴の相談会


 楽しかった昼食の時間とは違って、夕食はどことなく暗い雰囲気に包まれていた。


 その原因は見るからに質素な食事だろうか? それともカイルとミュラーが一言も発しないことが原因だろうか。


 その真実は、(リンゼちゃん)のみぞ知る――。


 なんちゃって。えへ。



 ――作ろうと思ってた料理が失敗したから慌てて簡単なメニューに変更した。そう言わんばかりの簡素な夕食を終えた私たちは、これから各々の部屋で自由な時間を過ごす事になる。


 だがその前に、神殿に暮らす全員が集まっているこの場で決めておかなければならないことがある。そう、入浴の順番を決める必要があるのだ。


 これをしっかりと取り決めておかないと、何処ぞの誰かさんが女性陣の入浴中にうっかり乱入とかして来かねないからね。何処の誰とは言わないけどね!


 キッ! とカイルを牽制しながら話を持ち出した結果、入浴の順番は女性陣で好きに決めて良いことになった。

 流石お兄様は弁えてらっしゃる。カイルも今回はちゃんと空気を読めたようだね。


「どうしましょうか?」


「広さを考えると三人くらいなら一緒に入れるよね。どう振り分けよっか」


 口火を切ったお姉様に便乗し、自然な流れで一緒に入浴することを既定路線へと組み込んでみたが、幸い誰からも反発されることはなかった。一瞬リンゼちゃんから冷たい視線がジト目を送られたくらいだ。


 ふふふ、いくらリンゼちゃんでも多数の意見には逆らえまい。


 大人しく長い物には巻かれてるといいと思うよ!


「そうね〜。それじゃあ今日は私が小さい子二人の面倒を見ようかしら。明日以降はその都度相談。どう?」


「いいと思います!」


「私もそれで構いません」


「私も、それで……」


 力強く賛成した私の勢いに押されたのか、同クラ組からの反対もない。ここまでの流れは笑っちゃうくらいに順調だ。


「そう、良かった。二人はどう?」


「……異論はありません」


「よろしくお願いします」


 ――私も唯ちゃんによろしくされたい。


 という個人的な感情は置いておこう。どうせすぐに一緒に入る機会はあるだろうしね。


 それよりも私としては、お姉様に対して若干の警戒を見せたリンゼちゃんの方が面白そうに感じられる。


 リンゼちゃんは私の傍で暮らしてるからお姉様の本性知ってるもんね。

 お姉様は無類の可愛い物好きでその欲望のほとんどは普段私に向けられているけども、リンゼちゃん達だってその対象であることに変わりはない。沐浴場ではリンゼちゃんの懸念するとおり、お姉様の欲望がいくらかは解放されてしまうことだろう。


 ……リンゼちゃんが標的にされるならともかく、唯ちゃんがお姉様の毒牙に掛かったら危なかったりするかな?

 精神集中が乱れて魔力が溢れ出したりなんかしたら、周囲の魔力が枯渇する非常事態になったりして……?


 ……い、一応お姉様には釘をさしておこうかな。「唯ちゃんには手加減しないと人生終わっちゃうかもしれませんよ」とでも言っておけば、流石に無理はしないんじゃないかな……多分。


「カレンはいつもはどれくらいの時間に入ってるの?」


「私は、いつもは寝る少し前の時間帯に……。あっでも、別に何時でも大丈夫だよ……?」


 っと、既に入浴時間の相談が始まっていた。私も会話に混ざらなければ!


「私も何時でも大丈夫。いつもは夕食の後、早めの時間に入ってるけどね」


「ふうん、そうなの。それじゃあアリシアさん達に先に入ってもらいましょうか。あちらは子供が多いものね」


「そうだね」


「うん、それがいいと思う……」


 ミュラーってこういう時にリーダーシップを発揮するタイプだよね。キチンと行動に理由を付けられるのは実に統率者向きの能力だと思う。


 ただまあ、今回に限って言えば、お姉様の組に子供が多いからといって先に入ってもらう理由にはならないのだけどね。リンゼちゃんとも唯ちゃんとも親しくないミュラーがそれに気付けないのは仕方の無いことだと分かってはいるんだけどさ。


 子供は寝るのが早いから寝る準備を早めに済ませるってのは当然の考え方なんだけど、その子供の内の一人は睡眠を必要としない創造神様だし。もう一人の方だってメイド業に専念するあまり私よりも夜更かしが得意になっちゃった幼メイドちゃんだ。


 つまり寝る時間から考えるのなら私が一番に入るのが正解。


 ……と、本当ならそうなるところなのだけど。今日から私は不眠魔法の実験をしようと思ってたから、やっぱりミュラーの判断が正解なのでした。引っ掛け問題に騙されたと見せかけて、その実正解を引き当てていたという見事なキャプテンシーを発揮したミュラーさん。お見事ですね〜パチパチパチ〜、っと。


 まあぶっちゃけ入浴の順番とかどうでもいいんだけどね。後でも先でも精々一時間くらいの違いしかないだろうし。

 眠くなる前に入れるなら、私としてはいつだっていいのよ。汚れ自体は魔法で完全に落とせるからね。


 だから、入浴に際しての私の懸念事項はただひとつ。


 ……今も私たちの話に聞き耳立ててる、むっつりスケベくんの動向が気になるだけだ。


「……なんだよ」


 私がじーっと見ていると、カイルが不機嫌そうな声をあげた。


「何で部屋戻んないの? 私たちがいつ入るかがそんなに気になる?」


「俺の入る時間はいつになるのかと思って待ってただけだよ!!」


 へー、そーお?

 でもそんなの、「決まったら教えてくれ」の一言で済むんじゃないかなぁ……。どう思います、お姉様?


「もしもソフィアの裸を見たら……どうなるか分かってるわよねぇ?」


 剣呑な雰囲気を撒き散らすお姉様を見て、カイルはブンブンと首を振った。


「だから見ませんって! 信じてくださいよ! それにソフィアのなんか見たって大して……あっ」


 ――ほー? 大して……なんだい? 続きを言ってみろやこんちくしょう。


 お前の顔面もつんつるてんの真っ平らにしてやろうか。


 絶壁の悲しみなんてなぁ……男のお前には分からないだろうよ!!!!


見せる気なんてさらさらないけど、見る価値も無いと言われると何故か許せない乙女心。

怒れるソフィアは気付かない。

自らが望んで手に入れた桃源郷への入場権は、その実、絶望の双丘が待つ奈落への招待状と同義だという悲しい事実に、彼女は結局、その時が来るまで気付くことは出来なかった……。

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