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夕食の準備中に何が……?


 お姉様とカレンちゃんを愛でて遊んでいる内に夕食の時間になってたらしい。呼びに来たカイルがイチャつく私たちを見て「……何やってんだ?」と呆れた声を出していた。


 そんなカイルに、お姉様は「まだまだね、少年」と慈悲に溢れた言葉を掛けたのだけれど、カイルにはその言葉の意味するところが分からなかった様子。


 ふっ……。そんなことだからお姉様に「まだまだ」なんて言われてしまうのだよ。要はもっと女の子に優しくしなさいってことだよ。



 ――などと、カイル相手に優越感に浸りながら向かった食堂で。私は信じ難い出来事に直面したのです。


 あのねあのね。先に席に着いてたお兄様の前にリンゼちゃんがオーソドックスなパンとかスープとか配膳してたんだけどね。なんだかリンゼちゃんの様子がいつもよりもお疲れ気味な様子だったの。


 だから聞くじゃん。「どうしたの? やっぱり家事一人でやるのは無理があった?」って気遣ったの。

 そう思うんなら口動かす前に今すぐ手伝えよとかそーゆー屁理屈はおいといてね。


 そしたらなんと、あのいつでも無感情で毒吐きまくるリンゼちゃんからまさかの発言!! 何の脈絡も無く唐突に「ソフィアって案外優秀なのよね」とお褒めの言葉を頂いたのだ!!!


 これはアレですよ。ツンデレのデレが! デレ期がついに来たのですよー!!


 ぅひゃっほう! と心の中で歓喜の喝采をあげていると「普段はこんなに馬鹿っぽいのに……」と今度は即座に貶められた。だが残念、今の私にはそんな言葉なんて何の痛痒にもなりはしないのだよ! ふはははは!!


 なぜなら! 今の私は! 恥ずかしがり屋なリンゼちゃんの本心を既に知っちゃっているからだー!!!!! ふっははははは、いぇいいぇーい!!


 いやあ、改めて言われると照れますなぁ!! んふふ、要はあれでしょ? リンゼちゃんったら疲れてたから思わず本音がついポロッと零れちゃったんでしょー? それでそれで、慌てて憎まれ口叩いて「ほ、ホントはそんなこと思ってないんだからねっ」てことでしょなんて可愛らしいんでしょうまったくもうっ!!


 はー、堪らん。ご飯食べる前から胸がいっぱい、満足感だけでご馳走様といいたくなっちゃう気分だよもー。


 そうとも、リンゼちゃんのご主人様は優秀なるこの私。

 かわいくて美人で可憐で優しくて超々優秀なこのソフィア様なのですよ。それをようやく理解したようだね。


 ……んふ。んふふふ。んっふふふふふ。


 やっばいよね。もうにやにやが止まる気がしない。


 でもそれもしょうがないよね、だってリンゼちゃんから褒められるのなんて一年に一回あるかないかくらいだもん。それも強要したわけでもないのに自発的に褒められるなんて、これはもう天変地異の前触れかもしれない。


 いや〜、そうか〜。リンゼちゃんも遂に私の優秀さが理解出来てしまったか〜、そっかそっか〜。


 満面の笑みで配膳を続けるリンゼちゃんを眺めていると、配膳の役割をカイルに引き継いだリンゼちゃんが私の方へと寄ってきた。


 ってかカイルってばいつの間にリンゼちゃんの下僕になったの?

 待って、これからご飯なのにそれどころじゃない。小さい子の言いなりになってるカイルが面白すぎて、このままじゃ夕食が食べられないよ!


「ソフィア。勘違いしてそうだから言っておくけど、私がさっき言ったのは『ソフィアは料理の腕が優秀』という意味よ。それ以外ではちゃんと頭の弱い子だと思ってるわよ」


 ――真顔でそんなこと言わないで。私だって普通に傷付くんだよ?


 若干のイラつきさえ感じさせるリンゼちゃんの言葉で、調子ノリノリだった私の心は見事に鎮火させられた。心がシューンと落ち着いていくのを感じる。


 未だに思考の一部では「いやいや、これもリンゼちゃんの照れ隠しに違いない……!」と主張する一派は存在するが、リンゼちゃんの瞳がその可能性を否定する。「まさか言葉の理解できない程の馬鹿ではないわよね?」と言ってるようにしか読み取れないその瞳に見つめられると、身体がゾクゾクするというか、心が屈服したがるというか……。

 とにかく、舞い上がっていた時とは違う興奮で落ち着かなくなってしまうのだ。


「料理と言うと……確かミュラーとカイルが手伝ってたんだっけ?」


 これ以上あの瞳で見つめられるとイケナイ扉を開いてしまいそうだと判断した私は、出された料理を見つめることで自然とリンゼちゃんから視線を外した。


 私の狙い通り、リンゼちゃんも私の視線を追って冷たい視線を外してくれた。


「そうね。……手伝うつもりでは、あったみたいね」


 …………り、リンゼちゃんをここまで疲れさせるって逆に凄いぞ。あの二人はいったい何をやったんだ?


 ――料理。手伝い。私が優秀。


 言葉の端々から感じ取れる料理ベタな雰囲気から想像し、当てずっぽうで聞いてみた。


「もしかして定番のやつ? お米を洗剤で洗ったとか? なーんて、洗剤なんてここには――」


「そもそも野菜の洗い方すら知らなかったのよ」


 …………ん? 野菜の洗い方……、え、洗い方? 洗い方って……え、洗うだけでは??


 言っている意味が分からず首を傾げていると、そんな私の様子を見てリンゼちゃんは、まるで魂が抜け落ちたような遠い目をしながら呟いた。


「知識って大切よね」


「……そ、そうだね?」


 調理場で一体何があったというのだろうか……。


「野菜ってこれ?洗うってことは擦ればいいのよね?垢擦りは何処?」

「泥を落とすって叩けばいいのか?あれ、地面に叩きつけたら木っ端微塵になったけど……力加減が難しいな」


――リンゼは悟った。普通に料理ができるソフィアこそが異端だったのだということを。

そして何より「そのくらいできる」という言葉が何の担保にもならないことを。

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