お姉様にカイルとの話をしよう
何故かお姉様とカイルと一緒に卓を囲む羽目になった。
……どうしてこんなことに。
「それで? カイルくんはソフィアにどんな用事だったの?」
「用、って程のことじゃ、ないんですけど……」
そんな前置きをして、しどろもどろに。
学院を前に私が緊張してるんじゃないかとか、入学時の試験は大丈夫なのかとか、実に当たり障りのないことを話すカイル。
絶対そんな用事で来ないでしょ。
どうせ入学前の腕試しとかだよ。そいつ脳筋だから。
「そう、ソフィアを心配してくれたの。優しいのね」
そしてお姉様の勘違いも加速するというね。
でも聞く限りそうとしか聞こえないこと言ってたし、カイルは自分の言ったことを後から省みて恥ずかしくなるとか考えないんだろうか。僕ソフィアのことがすごく心配で〜って、私はアンタの妹じゃないんだぞ。
「ま、まぁ……はい」
まぁじゃないが。はいでもないでしょ?
お姉様の前で借りてきた猫みたいに大人しくなってるの見てるのも楽しいかと思ったけど、ダメだな。
お姉様にデレデレしてるの見てたらムカついてきた。
「初対面の時には暴力振るわれましたけどね」
「おい! それは……」
お姉様もお姉様で、カイルの好感度がちょっと高すぎる気がするんだよね。ここで少し下げておこう。
そう思って発した言葉は、予想以上の威力があったようだ。
「は?」
ピシリ、と。
その一言で、空気が変わった。
今までの柔らかな笑みとは明らかに違う。獰猛な本性を覆い隠したような、作り物の笑み。
背筋を伝う汗がヒヤリとした感触を残す。
お姉様から冷気が放出されているように思うのですが、気の所為でしょうか?
いつもどおり体を巡らせた魔力で体感温度は一定に保たれているはずなのに寒気がするんだ。不思議だね。
「それどういうこと?」
錯覚じゃない、これ絶対錯覚じゃない室温下がってるってだってみてこの腕トリハダ立ってる!
怒ったお姉様怖い。
お姉様は癇癪起こすタイプだと思ってたけど本気の怒りだとこうなんだ。だってこれお母様そっくり。
あ、いけない。カイルが泣きそうになってる。ここまでやるつもりはなかったんだごめん。フォローするから許して。
「お姉様、大丈夫です。ちゃんと仕返しもしましたし、傷が残るようなものでもありませんから。双方納得して解決済みですし、今では笑い話みたいなものです」
まさかここまで怒ってくれるなんて。ちょっと軽率だったな。
お姉様の怒った顔がお母様みたいで苦手ってこともあるけど、お姉様にはいつも笑顔で見守っていて欲しい。だってやっぱり、私に向けられてなくても怒った顔怖いし。
私はお姉様の笑顔が好きなんです。いつものお姉様に戻って。うるうる。
「私はお姉様の笑顔が好きなんです。私の為に怒って下さるのは嬉しいですけど、お姉様にそんな顔は似合いません」
折角だから口にも出してみた。
思ってるだけじゃ伝わらないよね、口に出して伝えないと。
いや、さっきの「は?」はめちゃ伝わったけどさ。
感謝は口に出して損がないと思うわけ。安売りするくらいで丁度いいよね。
「……ソフィアったら」
ふ、と笑みが零れた。
良かった、お姉様の修羅モードを無事に解除できたみたいだ。
室内に漂っていたひんやりした空気も元に戻った気がする。
「でも、後でその時の話は聞かせてね?」
あ、やっぱ気のせいだったかも。
笑みは幾分か柔らかくなったけど、カイルを見る目が冷ややかなままだ。
すまんカイル。
初めからラスボス感。
ソフィアの屋敷にはまだまだソフィア派の幹部級が勢揃いしているぞ!
カイル少年は果たして、無事に屋敷から脱出できるのか!?
乞うご期待!