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VIP待遇


 一般のお客さんの「メルクリス様ってなんだ?」「あの子、もしかして聖女様じゃないか?」なんて声も気になるけれど、私にとってはそれよりも何よりも、カイルの「またお前なんかやったのかよ……」とでも言いたげな呆れた視線がとても痛い。こっち見んなって感じ。


 私はただ自分の名前を名乗っただけですよーだ。


 アネットから「もし私のお店に来ることがあったら名前を出してください。そうすれば、後は従業員があらゆるご要望にお応えするようにしておきますので」って言われてたから、実際名乗ったらどんな感じになるのかなーって軽い気持ちで試してみただけなんですよう。


 ほら、やっぱりこーゆーのってロマンじゃん? VIP待遇的なやつ、一度は経験してみたかったんだよね。


 聖女の立場でも似たようなことはできるけど、あっちだとお母様の耳にも入る上に変態的な服を強要されたりするからね。創造神も女神も女の子なのにエロ服が正装な意味がわからん。


 ……まあ確かに私だって、リンゼちゃんがどこぞの踊り子みたいに露出度の高い服着てた時には「わぁ〜本物の妖精みたい〜」とか思ってたけどさ。私の銀髪にあのシャラシャラしたふわふわな服はさぞかし似合ってただろうけどさ。あれ着てるのが私じゃなかったら風邪ひいてたんじゃないかと思うんだよね。


 腕も肩も胸元も出して、背中も出してお腹も出して、当然のように太股も素足も大解放って、それもう服じゃなくない? 局部に布巻いてるだけじゃんね。


 なんなら児童性愛者が特別な欲望を満たす為に作られた服が間違って紛れ込んでました〜とか言われた方がよっぽど信憑性ある。あるいはお母様みたいな着せ替え大好き人間が王宮側にもいたんじゃないかと思うんだよね。


 ……とまあ、そんな一生物の恥となりうるリスクを背負うことなく、ただ「メルクリスです」と名乗るだけで特別待遇を受けられるのがこのお店なのですよ。私の承認欲求をビタビタに満たしてくれるありがたーいお店なのです。


 どうしようね。私神殿に暮らし始めたらここのリピーターになっちゃいそうだわ。神殿から徒歩で来れる距離っていうのも実にいい!


 唯一の問題点と言えば――ここはプライベートな空間ではないから、一般のお客さんからの好奇の視線にどれだけ耐えられるか、といったところかなー。

 ほら私、結構人目とか気にしちゃう(たち)なんでね!


 まあそれも私以上に知名度が高いミュラーを連れてくれば問題なさそうではある。


 今もほら、お姉様のとこに集まってたお嬢様方の一部が「ミュラー様、この間の試合素敵でした!」とか言って集まってきてるしね。やはり世間的な人気は剣姫>聖女であるらしい。戦ってる時のミュラーは私でもドキリとしてしまうくらいにカッコイイから、彼女達の気持ちも分からないでは無い。


 ただし自分が対戦相手として対峙している時を除く。


 ミュラーに剣持って向かい側に立たれるとね。なんかね、急に息がし難くなるんですよね。あれ完全にトラウマになってると思うの。


 ミュラーは本当にねー。バルお爺ちゃんみたいな同種を相手に一生戦ってて欲しい。戦闘興味ない人に余所見なんてしてないでさ。


「ソフィア」


 っと、いけない。今は私が余所見してる場合じゃなかった。


 リンゼちゃんの呼び掛けに意識を取り戻した私は、急に黙った私の対処に困ってる店員さんを目にして猛省した。どうやら私もこのお出掛けが楽しくて気が抜けていたらしい。


 普通、店員に話し掛けたお客さんが急に妄想し始めたりとかしないよね。せめて話し掛けずに妄想するよね。


 弱り切った顔をしている店員さんに「すみません、少しぼうっとしていたようです」と謝罪をして、改めて皆を呼び集めた。


 カイルたちに唯ちゃんとお姉様。


 うん、みんないるね。


「それでは、案内していただけますか?」


「はい! それでは皆様、こちらへどうぞ」


 ゾロゾロと連れ立って、案内されるまま扉の奥へ。


 人の気配溢れる奥の通路でも冒険心をくすぐられる地下への階段でもなく、普通の階段を上がって上がって左の部屋。中々御立派な応接室へと通された。


 ……が、ここで問題が発生した。

 この部屋には三人掛けのソファが二つと一人用の椅子しか置いていないが、それに対してこちらの人数は七人。


 椅子の数はピッタリとも言えるが、それだとお店の人の座る場所が無くなることになる。


 案内してくれた店員さんもすぐにその問題に気付いたようだ。


「担当の者が呼んで参りますのでこちらで暫くお待ちください。椅子もすぐにご用意致しますね」


「ありがとうございます。でも椅子は足りてますから大丈夫ですよ」


「え? ……いえ、失礼しました。お待ちになられている間、もしよろしければこちらのカタログをご覧になっていて下さい。こちら当商会で取り扱っている商品の一覧になります」


「拝見させて頂きますね」


 スマートなやりとりで店員さんが退出するまでやり過ごした私に向けられたのは、同級生たちの生暖かい視線。その意味するところは、恐らく「相変わらず大人相手には態度が違うなぁ」といったところだろうか。


 相手によって態度を変えるのは当然のことだ。これは猫被りではなく礼儀というのですよ。分かるよねキミタチ。


「……で? 椅子を断ったのは俺への意趣返しか? まあ言われなくても初めから立ってるつもりではあったけどな」


「違うよ?」


 何故か突然卑屈になったカイルに濡れ衣着せられたけど、私にそんなつもりは毛頭ない。


 私が椅子を断った理由。それは――


一人分の椅子が足りないと聞いた時、ソフィアはピーンと閃いた。

――これは合法的に唯ちゃんorリンゼちゃんを膝上に乗せられるチャンスなのではないか、と。

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