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みんなで行こう!アネット商会


 イラついた時は美味しいものを食べるに限る。


 つまりは、そう。私は一刻も早く、チョコレートを食べねばならぬのだ。



 ――というわけでやって来ました、巷で噂のアネット商会。


 私からしたらこんなおやつタイム真っ只中にお菓子屋さんが混雑してないとか考えられないんだけど、こちらの世界にはティータイムという概念はあれどおやつタイムという概念は存在しないし、そもそもアネット商会はお菓子屋さんじゃないから混んでないのも当然だった。飲食できるスペースも無いしね。


 それでも常に一定のお客さんが出入りしてるっていうのは、やっぱり凄いことなんだろうなぁと思ったりもする。


 ……というか、お客さんたちの半分くらいが奥の部屋に消えて荷物持って出てくるんだけど、もしかして荷物を自宅まで届けてくれるサービスって貴族限定? それとも私たち限定かしら。


 まあどちらにせよ、これからも便利に使わせてもらうことに変わりはないからいいんだけどね。


「……お菓子は焼き菓子が多いみたいね。チョコレートは見当たらないみたいだけど」


「あ! このシャンプー懐かしい〜! そうそう、こんな形してたわ〜。最初にソフィアが持ってきた時はまた新しい玩具でも作ったのかと思ったものだけど、これがもう今では手放せない存在なのよね〜」


 そう華やいだ声を上げたお姉様は、購入を迷っていたらしきお嬢様方に声をかけられると綺麗に整えられた長髪を惜しげも無く披露し、一瞬で店内の注目の的となっていた。


 声を掛けられてからの流れが予定調和のように淀みない。

 お姉様は相変わらず、コミュ力のパラメータがカンストしていらっしゃるようだね。


 ――そう、声を聞いて分かるとおり、唯ちゃんとお姉様は私達にに同行している。チョコレートを買いに行くにあたり誘ってみたところ、快く了承をもらえたのだ。


 ……ただ非常に残念なことに、お兄様は不参加だった。


 しかし断られる際、お兄様から「ソフィアの選んだチョコレート、楽しみにしてるね」と期待されてしまっているので、ソフィアちゃんは今回ちょっぴり本気です。必ずやご期待に沿うチョコレートを用意してご覧に入れましょうという気の入りようなのでありますよ!!


 ……とまあ、気合いだけなら充分以上にあるのだけれど。


 唯ちゃんの言うように、残念なことに店頭にチョコレートは陳列されてはいないようだ。この季節だと日によっては溶ける可能性もありそうだし、それも仕方の無いことなのかもしれない。


「へー、こんなお菓子もあるんだな」


「この薄い生地を丸めた焼き菓子は私も食べたことがあるわ。食感が軽くて独特なのよね」


「こっちの……! このマドレーヌも、味が濃厚で美味しかった……! あとこっちの――」


 お菓子コーナーを見ていたカイルたちが、他のお客さんと同じようにお菓子の品評を始めている。どうやらカイル以外はアネット商会のお菓子を食べたことがあるみたいだ。


 ……あるみたいというか、カレンちゃんに至っては……なんだろう。ファン、なのかな?

 なんだかテンションがおかしな事になっているように見受けられる。


 まあ友達とお菓子を選ぶのって楽しいしね。ちょっぴり興奮してしまう気持ちも分からないでもない。


 あちらに混ざるのも楽しそうなんだけど、私としてはもう気分的に今日のおやつはチョコレートで確定してしまっているので、とりあえず今日食べる分だけは確保してしまいたい気持ちが強い。並んだお菓子に目を輝かせるのはそれからでも遅くはないだろう。


 なのでちっちゃくて可愛くて優秀さ極まる私のメイド、リンゼちゃんが店員さんと話しているところに割り込んだ。


「リンゼちゃん、どうだった?」


「どうだった?」などと聞いてはいるが、魔力で強化された私の耳は二人の会話を最初から最後まで聞き取れている。このやりとりは店側に対するポーズにすぎない。


「本日分のチョコレートは全て売り切れ。欲しければまた明日、確実に欲しいのなら開店前から来るのがお勧めだそうよ」


「そっか」


 うん、そうね。売り切れなら仕方ないよね。

 それで優しいリンゼちゃんは家名を出すことも無く大人しく引き下がろうとしてたんだよね。欲しかったらまた明日の朝にでも来れば済む話だもんね。


 いつもならそれでも全然構わないのだけど、今日の私はちょっと、カイルに意地悪されたせいで虫の居所が悪いからね。糖分が早急に必要なのです。お兄様に期待されちゃってる件もあることだしね。


 なので店員さんには悪いけど、ここは無理を通させてもらおうと思う。


 ――人、俗にこれを「八つ当たり」と呼ぶ。


「ねぇ、店員さん。私の名前『ソフィア・メルクリス』って言うんですけど、聞き覚えありませんか?」


「メルクリス様、ですか?」


 貴族様……と小声で呟くのが聞こえたけれど、この反応じゃもしかしたら知らないのかもしれない。


 だったらもう少し上の立場の人に取り次いでもらって――と考えていたら、急に「メルクリス様!?」と目の前で叫ばれて身体がビクゥッ! ってなってしまった。あーもー、びっくりしたぁ。


「た、大変失礼致しました!! あああの、ここではなんですので、奥の部屋までおいで願えますでしょうか? あっ! もちろんお連れ様方もご一緒で結構ですので!」


 ……なんかこれ、思ったよりも罪悪感がクるね。新人バイトイジメてる気分っていうの? そんな感じで。


 でも……ごめんね? 店員さん。


 この媚びへつらわれてる感じ。私、案外悪くないかもって感じちゃってるんだ……♪


メルクリス家に卸される商品は全て最先端の品々。シャンプーボトルだって例外ではない。

……ただ、お菓子関係だけは「あればあるだけ消費してしまう人がいますので」という理由で定期購入はしていないらしい。

ちなみに過去、それらのお菓子が消えていった先はソフィアのお腹の中ではなく、ソフィアのアイテムボックスの中である。他人から見れば同じことですけどね。

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