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おやつは合理


 アネット商会の商品巡りをしている最中、何故か空き部屋の片隅に放置されていた全自動ホコリ吸い取り機、通称『掃除機』を発見した私達は、ブォンブゥォンと独特の排気音を響かせるその機械で面白おかしく遊んでいた。


 そんな中、「私が触ると、壊しちゃいそうだから……」という理由で掃除機遊びに参加していなかったカレンちゃんが、腕に抱いたエッテと戯れながらふと呟いた。


「そういえば、アネット商会って美味しいチョコレートもあったよね……?」


 ――カレンちゃんってばなんて罪な事を言うのだろうか。


 昼食後に神殿内を歩き回って、折しも小腹の空く時間帯。


 それは所謂おやつタイムと呼ばれる時間帯に相違なかった。


「今日のおやつはチョコレートにしようか」


「今日の、って……まるでいつも食べてるみたいな言い方だな」


「? おやつは毎日食べてるけど?」


 マジかよ、と愕然とした表情を浮かべるカイルに首を傾げる。


 え、おやつって普通毎日食べるもので……え、これ普通だよね? え? 普通はおやつって食べないものなの??


 そんなバカなとミュラー達を見れば「毎日は食べないわね」と無情な宣告。カレンちゃんからも「で、でもお客さんとか来てたら、毎日でも食べるかも……!」とフォローになってないフォローを頂いた。


 そっか。おやつはお客さんが来てなかったら普通は食べないものなのか。そっか。


 ……それおやつと違うのではないかな?


 なんか、みんなのおやつの認識が私とは違う気がする。


 掃除機を威嚇する遊びに興じていたフェルを呼びつけ「おやつが決まったからリンゼちゃん呼んできて」と指令を出してから、念の為に確認してみた。


「みんな、何か『おやつ』ってものを勘違いしてない? 朝昼夜と決まった時間にご飯を食べるのと同じように、お昼の前の時間帯と、お昼の後の時間帯におやつを食べることは、医学的に見ても極めて合理的な行動なんだよ」


 そうとも、これは単に私が無類のお菓子好きだとかそーゆー話ではないのだ。

 これは生物としての人が、効率的に活動するためのエネルギー補給に関するお話なのだ。


 人が食事をするのは生きる為だ。……が、この「食事をする」というのは「日々活動するのに必要なエネルギーを経口摂取により補う手段を『食事』と呼ぶ」ということを意味する。


 通常、この食事で得た糖分が吸収されて血糖値が下がるのが大体二時間から三時間前後。これはつまり、食後三時間が経過した頃には既に糖を栄養源としている脳の働きは低下しているということだ。


 ――お分かり頂けただろうか。


 毎日毎時毎分毎秒魔法の展開を片時も切らさず続けている私の脳には、必然的に糖分が必要だということを。


 寝ている時でさえも常に頭の片隅を働かせ続け魔法を継続して発動している私の脳には、おやつによる多量にも思える糖分摂取が、もはや無くてはならない必要最低限の栄養摂取に過ぎないということをご理解頂けだだろうか!?


 まあカイル達に「脳が必要とするブドウ糖がー」とか「インスリンとアドレナリンがー」とか言っても理解されないと思うので、分かりやすく簡潔にした言葉が先の説明になるのですよ。


 でね。そのさっきの説明に対する反応がこちらです。


「昼前にも食ってたのかよ」


「え? 朝もご飯を食べてるの?」


「あ、あんまりお菓子ばっかり食べてると、そのうち病気になっちゃうよ……?」


 誰も理解してくれない!!!!


 私の話聞いてた? ねえ? 生物としての理にかなった食事サイクルだって言ってんでしょーが!


 こちとら科学の世界からやってきた文明人だぞ!! 虫歯対策に糖尿病や高血圧のことだってキチンとしっかり考えておるわー!!


 憤る内心とは裏腹に、私はにっこりと笑顔を浮かべた。


「ご飯ってね、身体に必要な栄養なんだよ。肉体労働をする人は塩っ辛いものが好きだし量も食べるでしょ? 反対に書類仕事ばかりの人は、量は食べないけど甘いものを食べたがったりとかしてるよね。全部身体が求めた結果の正常な反応なんだよ」


 無知は罪じゃないからね。


 知らないのなら仕方ない。これからゆっくりと知っていけば良いのだ。


 そう思って心の余裕を取り戻したのだけど。


「でもソフィアは甘いものが好きなだけだよな」


「ねぇ、朝にも食事をするって本当なの? それはソフィアだけの習慣? それともあなたの家ではみんな普通に食べているの?」


「そっか……。ソフィアが言うなら、きっと、本当にそうなんだよね……?」


 私カレンちゃん大好き。

 私のことを信じてくれるのはいつだってカレンちゃんだけなんだもんなぁ……。


 とりあえず近づいてギュッと身体を抱きしめてみたら、一瞬ぴくんと警戒されたけど、すぐにそっと私の背中に手が回された。


 ふっふっふ。どうだカイル、羨ましかろう。豊かなふくらみがふっかふっかだぞう。


 だが私の予想と反してカイルは全く羨むことなく、それどころかこちらを見てすらいなかった。私が悲しみのあまり放置したミュラーに「あいつの家は昔から……」と朝食の話をしているようだ。


 あいつ女の子なら誰でもいいのか? 全くけしからんやつだな。



 そんなことをしている間に呼んでいたリンゼちゃんが来たので、おやつ用にチョコレートを用意してくれるようお願いしておいた。カイルとミュラーに聞いたら、二人とも「食べる」とのこと。


 ……だったらなんで私に突っかかってきたんだ!? 結局みんなもおやつ食べるんじゃんか!


 まあチョコレートは美味しいからね。


 食べられる機会があるなら逃したくないという気持ちは、分からなくもないかな!


頭脳労働には糖分が必要。その知識はあるが、かと言って適切な糖分の量など知るわけもない。

だがソフィアには、そんな知識など必要ないのだ。

「糖分を求める正当な理由」だけが彼女の欲するものだからである。

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