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モテモテベッドさん


 寝具というものは、家具の中で一番所有者と接する機会が多いものだと思う。機会が多いと言うより接する面積が広いと言った方が、より私の言いたいことが伝わるかもしれないが。


 まあ要するにだね。

 簡単に言えば、寝具は家具の中でも格段に、所有者の汗を吸い込んでいる物だということだ。


 乙女の汗が濃厚に染み込んだ物体。そんな場所に男子を座らせるだなんて……おおお恐ろしい! 考えただけでも恐ろしい!!!


 この羞恥心を理解し共有してくれていたはずのカレンちゃんは、今やすっかり堕落した。みんなで訪れたカイルの部屋にて、はしたなくもベッドの一角を占領し、楽しげに腰を弾ませるまでに理性というものを駆逐され尽くしていた。見るも無惨な光景だ。


 え? カイルの上で腰を弾ませてないだけマシじゃないかって? いやいや、それがそうとも言いきれないんだよね。


 たとえ腕力で人の頭を握り潰せそうな存在とはいえ、私にとってのカレンちゃんは未だ純粋可憐にして心清らかというネムちゃんに並ぶ癒し枠。そんなカレンちゃんがカイルのベッドで楽しそうに遊んでいる姿は、まるでお気に入りの白磁のカップにマジックで「俺専用」と落書きされたかのような不快感があるんだよね。


 これが油性マジックだったり消せない傷跡だったりしたら「カイルぶっころ」ってことで諦めもつくんだけど、普通のマジックなら洗えば落ちちゃうじゃん。未遂みたいなもんじゃん。でも落書きされたって事実だけは残っちゃうじゃん。


 なんかそれって、もう私の脳内が凌辱されてるのも同義じゃないかと思うんだよね。消せない記憶ってホントに厄介で困っちゃうよ。


 それにね? あのベッド、確かにカイルの部屋にあるカイルのベッドではあるんだけど、まだ「カイルの」ってほど使われては無いわけじゃん。そこもまた判断に困るところって言うか、カイルが悪いのは確実だけどまだ誰のベッドでもないベッドを皆で使って遊んでるだけと考えられなくもなくて……でも私たちが使用した(あそんだ)ベッドでカイルが寝るってのも……うむむ……ってなっちゃうでしょう!


 まあ使用期間が数時間程度のベッドを未使用判定するかの結論はともかくとしても、女の子が男の部屋にあるベッドで、その、腰をバヨバヨさせる動きをするのは……ちょっとどうかな、とは思いますよね。


 ……うん。とりあえずあれだけでもやめさせようかな。


 せめてカレンちゃんの清純イメージだけでも死守しとこうと決めたところで、カレンちゃんとは反対側のベッド脇にいたミュラーが、おもむろに剣を動かす姿が見えた。


 いや、動かすっていうか……なぜ室内で剣を抜く??


「これ、本当に凄いわね。ソフィアはなにか、中に沢山入ってる物に秘密があると言っていたけど……ちょっと斬ってみてもいいかしら?」


「いいわけないだろ!? せめて自分のベッドでやれよ!」


 凄いなミュラー。ベッドの販売セールスマンみたいになってたカイルを一瞬で元に戻したぞ。


 なるほど、ベッドに夢中になってるならベッドを人質にとるのが有効、と。心のメモ帳にメモしておこう。


 さすがはミュラー。普段から戦い慣れてる人は人の急所を突くのもお得意なようだね。ついでにミュラーが私の目を狙わなくなる急所も教えてくれたら言う事なしなんだけどな〜。


「んっ。んっ、んふふっ。こ、これっ、……楽しいねっ」


「だろ! めっちゃくちゃ楽しいよなー!」


 あっといけない。ミュラーの方に気を取られていたらカレンちゃんがますます危ない感じになってる。

 ああっ、そんなに激しく腰を振ったら危険が危ない!!


 ……なに、危ないのは私の思考の方だって? いいえそれは違います。かわい子ちゃんが「んっ、んっ」なんて弾んだ声を出していたらいけない妄想をしてしまうのは世の理というものです。なんなら礼儀と言い換えてもいいね。


 男とか女とかカンケーなく、エロいものはエロいのです。私がむっつりスケベだとか、そーゆー話ではないのですよ。


 てかぶっちゃけ、こんなにエロいカレンちゃんを見て何も感じないカイルがおかしい。胸とかばるんばるんですよ見ちゃうでしょ普通。


 疚しい気持ちがなくたって意識しちゃうのが普通だろうに、こんな状態のカレンちゃんに何の気負いもなく声を掛けられるとか、カイルって実は男にしか反応しない人だったりするんじゃないかと心配になるよね。


 ……ええ、これは心配しているんですとも。

 決して「本当にそうだったら面白いのになー」とは……ほんのちょぴっとしかオモッテナイヨー?


「カレン、ちょっと落ち着いて。……見た目が凄いことになってるから」


「見た目? …………ひゃッ!?」


 後半部分を小声で伝え、視線で「凄いことになってる部位」を凝視すれば、最初はキョトンとしていたカレンちゃんにも私の注意の意図が伝わったようだ。


 うむ、気付いてくれてなにより、なにより。

 無邪気に跳ねるカレンちゃんがどれほど危険が危ない存在であったのか、後で動画で見せてあげようね。うふふのふ。


 今以上に恥ずかしがるカレンちゃんを想像してニマニマしそうになる顔を必死に抑えていると、そんな私の顔を見たカイルが一言。


「……お前、そんなことばっかしてるとカレンに嫌われるぞ」


 嫌われませんー! なにせ私はカレンちゃんの窮地を救ったんだもんね! むしろ感謝されますぅー!!


 カレンちゃんに恥ずかしいことさせたカイルの方こそ嫌われてしまえ!!

 ていうかコイツ、なんで私の顔なんか見てるんだ。こんなに可愛いカレンちゃんに目を奪われて無いとか、やっぱりカイルは感受性が死んでるのかもしれないね。


 ……それともまさか、カイルは伝説の貧乳派なのか? やはりロリコンだったのか?


 マトモそうな顔して実は変態って、それはそれでカイルらしい気がしなくもないよね。


「ベッドってエロ要素の塊だよね」


ソフィアは新たな妄想の種を手に入れたようだ。

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