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カイルの頭が茹で上がってる件について


 私にとっては、それはもはや当たり前すぎてわざわざ気にするまでもない日常の一部と成り下がっていたが、今日初めてそれを体験したカイルにとっては、その存在は正に世に革命が起きたが如き凄まじい衝撃をもたらしたらしい。


 今までこんなに素晴らしい物が存在することを知らずに生きてきた自分の人生を嘆いた程だと言うのだけども、私としてはそんなことより、自分の目の節穴具合を真っ先に嘆いた方が良いのではないかと思う。


 ――これは、カイルが自身に宛てがわれた部屋のベッドを使った感想である。



 第一印象は特に無し。

 けれど、一度触れれば直ぐにもわかる特別感。


 恐る恐る身を任せれば返ってくるのは固い感触。なのに勢いよく飛び込んでもどれほど強く飛び込んでも、加えた以上の力で強く身体を押し返してくる。

 

 その感触の心地良さがまた格別で、まるで長年共に剣の腕を磨き続けてきた兄弟相手に打ち込んでいる時のような安心感すら感じられる。

 それどころか、厳しくも愛情深い母のような包容力と、豪胆にして頼り甲斐のありすぎる父のような力強さすらも感じられて……。


 要はめちゃくちゃスゴいから、お前らも早く試してみろって!! ということらしい。



 ――繰り返しになるが、以上が、カイルくんが興奮した様子で語ってくれたスプリングコイル入りベッドの感想である。恍惚とした顔でベッドについて語るカイルは、正直ちょっとキモかったです。


 そして現在。


 片付けに集中していてベッドの感触なんか確かめてなかった女子二人と、恐らくベッドの素晴らしさを共有できる唯一の存在ということで目を付けられた私は、揃ってカイルの部屋へと連れて行かれている真っ最中なのであります。


 まだ一泊もしてない部屋とはいえ、部屋に女の子を三人も呼ぶとかなんたる傲慢。


 これから同じ屋根の下で暮らすことになるんだし、早いうちにちょっと躾なおしておかないとな……と思っていた私のやる気は、スプリングコイル入りのベッドをあまりにも気に入り過ぎたカイルの熱意によって見事に消沈させられていた。今のカイルとは本気で関わり合いになりたくないと思い始めていたのである。


 いやだって、本気でうるさいというか、うざったいというか。


 今だって、ほら……。


「お前さあー、教えろよなぁ! どーりでソフィアの部屋のベッドはなんか変な音がするなぁと思ってたんだよ! 俺が座ろうとするとお前めちゃくちゃ怒るしさぁ、なんでそんなに怒るんだよと思ってたらこーゆーことかよ。どうせ今日俺が羨ましがるのを見越して嘲笑うために隠してたんだろ。お前ってホンッットに性格悪いよなぁ〜!!」


 こんなんよ。堪らないでしょ。こんなのがさっきからずぅーっと続いてるの。


 なんだろうねこれ。私の口が軽かったのが悪かったのかな。


 へーそんなに気に入ったんだと思って何も考えずに「私の部屋にも同じのあるよー」と話した途端、カイルくんったら激おこ状態。普段カイルを怒らせて遊んでる私がドン引くレベルで怒り始めちゃったのよね。


 つーかコイツ、普段から私のことをどんな目で見てるんだろうね。

 私みたいな可愛くて麗しい幼馴染みに対してこれだけの暴言を吐けるその思考回路が、私にゃ不思議でならないよ。


「……いや、普段自分が寝てるベッドに座らせるわけないでしょ」


 勢いに押されて小声になっちゃったけど、どーせ聞こえてたところでカイルは理解しないでしょ。普段から汗かいてる女の子にも平気で距離詰めてくる無遠慮の権化だもんね。


 普段なら意趣返しも込めて話の不備と勘違いを取っ掛りに、ネチネチネチネチと他人を根拠なく貶めるカイルの性悪さを事細かに説明してあげちゃうところだけど、今日のカイルはちょっと聞く耳持たない無敵感漂ってるっていうか、普段とは別の方向で面倒くさそうな感じだからね。頭がハッピーになっちゃってる狂人の戯言として、今の話は聞かなかったことにしてあげるよ。せいぜい感謝するんだね。


 まあ私が許したところで、この場には他の人間もいるのだがね。


 正直に言おう。

 私、これまでの付き合いでミュラーの性格を大分把握してきたと思ってたけど、それでもまさかミュラーに「あなたも大変ね……」みたいな目を向けられることがあるとは今の今まで思ってなかった。


 ていうか大変なのは狂ってしまったカイルであって私ではない。


 私は別にカイル担当という訳では無いので、ここは同じ剣術バカとして、是非ともそちらの方で引き取ってもらいたいと思っている。


 私が収めようとするとね。今でもいっぱいいっぱいのカレンちゃんがもっといっぱいいっぱいになっちゃうからね。


 お兄様やお姉様がいないのをいいことに、ここぞとばかりに私への暴言を吐き散らすカイルに、あわあわしたままのカレンちゃんが近づく。


「あの……あの、カイルくん。お、女の子はね。自分のベッドに、男の子を乗せたりは――」


「ん? なんだ、どうしたカレン? まさかお前までソフィアが俺を異性として意識してるとか言うつもりか? ハハッ、ないない! だってあいつ、俺の股間っいってぇ!! なにすんだソフィア!?」


「カイルこそ、何言うつもりだったの? また喋れなくしてあげようか?」


「お前すぐそうやって脅すのやめろよな!? そんな性格だから大好きなお兄様にも構って貰えないんじゃないのか!?」


 脅しのために集めていた魔力がピタリと止まる。

 過度な反応は言い分を認めることと同義だと分かってはいるけど……ふーん、そっかぁ。


 あーそう。カイルはそーいうこと言っちゃう悪い子なんだァ。へぇ……?


 ――今決めた。やっぱカイルは、今日中にいっぺんシメとくべきだね。


今では身体も成長し、男女としての差異が大分目立つようになってきた二人ですが、幼い頃は性差が僅かな上にソフィアの意識は未だ高校生のままだった時分でした。

つまり、女子高生が男子小学生をからかって遊んでいたんですね。ソフィアの感覚からすれば、という注釈はつきますけれど。

……カイルくんにとっては衝撃的な体験が色々とあったようです。さて、どんなことをして遊んでいたんでしょうね。

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