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神殿での昼食


 避けられない事についてグダグダと考えたところで仕方ない。人は楽しむ為に生きているのだ。



 ――というわけで、昼食後のデザートタイム。


 引越し直後だろうと甘味は必須。

 私の持ち出しであるエッグタルトを皆で仲良く食しながら、先程も楽しげに話していたカイル達の会話に合流させてもらう流れと相成った。


 各々に与えられた個室についての話題とか早くも心折れそうだけど、ソフィアちゃん頑張る。


 まだろくに自分の部屋とか見れてないけど、前回来た時の知識と妄想で、なんとかこの流れに乗ってみせるよ……!!


「狭いけど悪くはない部屋よね。掃除もしっかり行き届いていたし」


「俺としては中庭に近いのが最高だなー。剣を好きな時に振れるってのは、やっぱ騎士としては抑えておきたい条件だからな」


「そう、だよね。部屋の中で剣を振るのは、危ないもんね……」


 カレンちゃんの言葉に、思わずその場面を想像してしまった。


 部屋の中で剣の素振りをするカレンちゃん。唸りを上げて振り下ろされる剣と、吹き荒れる剣風。


 ちょっと興が乗っただけで壁がオモチャのようにぶち抜かれそうだ。隣の部屋に住んだらさぞかしハートのトキメく体験ができるだろうね。


「そうだね。部屋の中で剣を振るのはやめておいたほうがいいだろうね」


 一応一言だけ、やんわりと注意を促しておいた。放置していたら部屋どころか建物ごと壊される可能性すら否定できない。


 ん、そういえばシェアハウスって大抵決まり事があるよね。神殿に住む者達のルールとして「室内での素振り禁止」というのをキチンと制定した方がいいのかもしれない。

 いや、それを言うなら庭だって壊されたら困るし、庭以外も当然壊されない方がいいに決まっているんだけど……。


 ……もういっそのこと「神殿施設内での破壊活動禁止」とかにするべきか。でもそんな当たり前のことをわざわざ注意するのもどうなんだろう。


 実際に何か壊しちゃった時に「次は気を付けてね」と言えば済むだけの事を、何も壊していないうちから「壊すなよ」と忠告するのは相当性格悪くないかな。少なくとも私が言われる側だったら、そんなことを言ってくる相手の印象は間違いなくマイナスになる。事と次第によっては意趣返しとかしたくなっちゃうかもね。


 まあカレンちゃんは私とは違ってド外道ではないので、ちょっと嫌味を言われたくらいですぐに報復とはならないだろうけど、気分を害するくらいはするだろう。それは私の望むところではない。


 他人が集まれば気に食わないことも当然起こるはずだ。でも誰かに我慢を強いてはどこかで必ず限界が来る。


 限界を迎えた人に待つのは、感情の爆発という喪神病への結末だ。


 …………いや、まあ、うん。


 喪神病が治せる病気となった今、不満を一人に集めて喪神病発症から治療のサイクルに乗せた方が、全体のバランスで見たらお得になることもあるかも、だけど……。


 そういうのはさ。やっぱり健全じゃないよね。


 精神耐性の高い人に不満を一極化させた方が合理的だーとか、どうしても考えちゃうけど、それって自分が蚊帳の外だから言える話で。

「あなたの犠牲で皆は幸せになれます」とか言われたって、そんなの普通は……、……いや、こっちの世界の普通の人なら、喜んで人身御供になる人も結構な割合で出てきそうだなぁ…………。


 って、いやいや、違う。そもそもの前提が違う。


 見知らぬ他人が望んで不幸を引き受けてくれるからって「あ、いいんですか? じゃあ遠慮なく私の不幸もお願いしまーす!」なんて思えるのは、この世界では私くらいのもんだろう。しかもそれが避けられない悲劇の運命でもなんでもなく、日常にありふれた小さな不満や我慢とも呼べない些末な快適さの代償ともなれば、流石の私でも少しくらいの罪悪感は湧くかもしれない。


 そんなことになれば本末転倒。

 多少の快適さを求めて罪悪感と喪神病を治療する手間やらなんやらを背負うことを思えば、多少の不満くらいは抱えて眠りますとも。朝起きる頃には大抵の不満なんか気にもならなくなってるからね。




「――アレ試してみたか? すごかったよなぁ〜!!」


 ――カイルの感嘆の声を聞いて、没頭していた思考から浮上した。


 ……うん? なんで私は人を不幸に(おとし)める算段を考えてたんだっけ?

 まあデメリットが大きすぎてお話にならないって結論が出たから、思考の切っ掛けなんてどうでもいいか。


 頭の片隅に残っていた会話の記憶。それと現在進行形で交わされている会話の内容からカイルの感嘆の理由がベッドの感触にあると理解した私は、念の為に魔法を行使。カイルの部屋にあるベッドが私の推測通りのものであることを確認し、さも自分の手柄であるかのように胸を張った。


「そーでしょ、すごいでしょ。あの弾力ね、スプリングコイルってやつに秘密があって――」



 ――神殿生活、一日目。


 仲の良い友人たちと学院の外で食べる昼食は、想像以上に楽しくて。時間は瞬く間に過ぎ去ってゆくのだった。


神殿の内装は全てアネット商会が手配しました。

とはいえ、まだまだ貴重なスプリングコイル入りの寝具を用意したのはアリシアの手腕。

兄ばかりを見つめる瞳をなんとか自分にも向けさせようと、お姉ちゃんはコツコツと頑張っているのです。

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