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お姉様いるところに笑顔あり


 ――私のヒーローはお兄様だ。


 それは運命(うんめい)。それは運命(さだめ)


 この世界に生まれ落ちた時から決定づけられた絶対不変の(ことわり)にして、未来永劫変わることのない、私の心の拠り所。



 ――お兄様にさえ任せておけば大丈夫。


 ――お兄様に助けて貰えるなら大丈夫。



 何も心配はいらない。だって、お兄様なら必ず助けてくれるから。


 そこに疑いが入る余地はない。

 これまでだって必ず約束は果たされて来たし、これからだって、必ず、お兄様は私を助けてくださるだろう。


 ……けれど、お兄様は私のヒーローではあっても超人ではない。一人で出来ることには限界がある。


 私を襲う脅威はひとつではない。お兄様が身を呈してヒロインたる私を守っている時、背後から私を攫おうとする新たな敵が現れるかもしれない。


 だからね、これは浮気じゃないんだ。

 言わば共闘。ニューヒーローの登場で三角関係に突入といった激アツ劇場版のような展開なのだよ!!


 ……いや、ごめんなさい。お姉様はヒーローじゃなくてヒロインですよね。



 まあとにかく。


 そんな感じで、王妃様とお兄様がバトリ始めた現場から、私はニューヒロインとして参戦したお姉様に無事に救出されたのであります。


 お姉様大好きっ!



◇◇◇◇◇



「助かりました、お姉様」


「ふふふふ、そうでしょう。お礼はほっぺたにチューでいいわよ」


「ぎゅーってしてあげますからこれで満足してください。ぎゅーっ」


「ふふ、ふふふふ。やっぱりいい事をしたあとは気分がいいわね!」


 私を助けてくれた時には凛々しさのあまり後光さえ見えたお姉様だったけど、やっぱりお姉様はお姉様だったよ。残念かわいい。


 ぴっとりと張り付くだけで満足そうにしているお姉様を見て感謝は充分に示せたと判断した私は、念の為、先程の件について確認してみた。


「ところでお姉様。あれ、放置してきて良かったんですか? 王妃様は一応、新聖女への激励という名目で来てたと思うのですが……」


「いいもなにも、ソフィアってば完全に蚊帳の外だったじゃない。もし問題があってもロランドが解決するから問題なし!」


 いや、それ問題がなくなってるんじゃなくて問題をお兄様に押し付けてるだけですよね? お兄様に苦労を押し付けてるだけですよね??


 やっぱり私も居た方が、微力でもお兄様のお力になれる可能性が……と思ったのだけど、続くお姉様の言葉でそんな意気は挫かれた。


「ソフィアもよくお母様に問題丸投げしてるじゃない。あれと同じよ〜。やっぱりこういう事は慣れてる人に任せるのが一番よね〜」


 ……お、同じじゃないもん。私は一応、自分で解決しようとしてるもん。


 ただその度にお母様に怒られて「貴女は余計なことをしないように」って…………あれ、それってもしかして、ただお母様の後始末を面倒にしてただけの可能性がある、かな……? 本人はお手伝いのつもりでも、実際は親の仕事を余分に増やしてるだけの子供的な……?


 ……お、おおぅ。気付けてよかったような、よくなかったような……。


 身体は子供でも心は永遠のJK(女子高生)である私としては、実際の子供と同レベルの行動をしていたという事実は、ちょっと、受け止めるのに、心の準備がいるというか……。


「? どーしたのソフィア? やっぱりお母様に丸投げするのは平気でもロランドに丸投げするのは気になるの? 大丈夫よぉ、あの子はあれで好きでやってるところあるから。本当に気にすることないのよ?」


 ちょ、やめて。今はお母様への罪悪感で割といっぱいいっぱいだから。お兄様分の罪悪感まで追加しないで!!


 今更私が罪悪感を抱いたところで過去に起こった出来事は何も変わらない。変わらないのだけれど、これから起こりうる出来事に対する意識は変えられる。……変えられる、けど……。


 ――さっきまで、応接室で起こっていたことを考える。


 何かに怒っていた王妃様。同じく、何かを牽制していたようなお兄様。

 私は同じ場所で同じ言葉を聞いていたにも拘わらず、(つい)ぞ二人が何について話していたのか理解できなかった。


 ……やっぱり私って、お母様の言うように余計なこと考えない方がいいんじゃないか? 何も考えずにお母様やお兄様の言うことだけほいほい聞いてた方が、誰の迷惑にもならない気がする。


 私は勉強ができる。頭もそんなに悪くない……と自分では思っているが、お兄様やお母様と比べると負けてそうだし、多分あの二人とは物の見え方が違うのだと思う。二人が何を考えているのか分からないことが結構ある。


 ……まあ、つまりだね。


 私は変に変わろうとせず、今のままで良いのではないかと思うわけさ。


 ――けれど、そんな心とは裏腹に。気づいた時には口が勝手に動いていた。


「――お姉様。私は今のままでいいと思いますか?」


 やっぱりさ? 見て見ぬふりって意外と勇気が要るというか。

 知らなければ無視できたことでも、知った上で無視するのはちょっと意味合いが違ってくるよね。


 理想なんて聞くまでもない。正解なんか聞かなくたって分かる。


 だから、これは質問の形をとった要求だ。

 私がお姉様に求めているものは、心を欺く優しい嘘だ。


 私に甘いお姉様に、ただ一言「それでもいいんだよ」と許して欲しい。そんな弱さが言葉になって漏れ出ただけだ。


 ……なので本来、お姉様の返答の内容にはそれほど意味はないのだけれど。


「ええ、ソフィアは今のままでいいの。今がいっちばん可愛いわ!!」


 …………こうも笑顔で断言されてしまうとね? 流石の私も、ちょっぴり照れてしまうというかね?


 お姉様はやっぱり、周囲の人を笑顔にする天才なんだなぁとか思っちゃったりするわけです。


「それって明日には可愛くなくなってるってことですか?」


「何言ってるの! ソフィアはいつだって一番可愛いに決まってるわ!!」


 うん、やっぱお姉様といると楽しーわ。間違いないね。


アリシアによるソフィア救出のタイミングが、しゃがみっぱなしで足が疲れた+つまらない会話ばかりで聞き耳立てるのに飽きたというしょーもない理由で決まったことは、誰も知らない。

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