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その笑顔、無限にください


 ――パッチリと目が覚めた。珍しく爽快な目覚めだった。


 ……いや、普段から寝起きは良い方ではあるのだけども。それでもこんなにスっと目覚めることはそうそうない。いつもはもうちょっと寝惚けてる時間があるというか、目が覚めてから数秒くらいは「……んぁー?」みたいに微睡んでる時間があるものだけど、今日に限ってはそれが全くと言っていいほどになかった。


 スイッチのオンとオフが入れ替わったみたいに曖昧さの無い、スムーズな起床。


 ……これは、あれかな? 遂に私の優等生遺伝子が極まってきた証かな?


 寝起きまで完璧になっちゃったら数少ない私の欠点がいよいよ無くなってしまうじゃないか。いやぁ、参っちゃうよねぇ。


 これは身長が伸びる日も近いかも、なーんて妄想に一人にまにまと笑み崩れながら身体を伸ばしていると、部屋の中にいたもう一人の人物から声が掛かった。


「あ…………おはようございます」


 リンゼちゃんがデレただとぅ!!?


 あまりの衝撃にバッ!! と声のした方を振り返れば、そこには驚いた様子で固まるリンゼちゃん……ではなく。


 私が一昨日、若干強引に連れ帰ってきた前世の異母妹、唯ちゃんがいた。


 …………。


 ……………………。


 …………………………………………ふむ。


「おはよう、唯ちゃん」


「はい、おはようございます」


 唯ちゃんが淑やかに微笑めば、その背後には可憐にして慎ましやかな華が、一斉に次々と咲き乱れる映像が見えた気がした。


 天使かな。控えめに言っても天使だな。


 創造神で天使とか私の妹最強すぎる。その可愛さで天下を取ろう、お姉ちゃん俄然応援しちゃう!


 内心の興奮をおくびにも出さず、仲睦まじく朝の挨拶を交わす。

 今の唯ちゃんの表情を写真集にして出せば世のロリコン共が殺到すること間違いなし。限定販売にでもすれば購入権を求めて屍山血河が築かれることは避けられないだろう。


 それほどの価値ある笑顔が!! 今! 私ひとりに向けられているッ!! これが唯ちゃんの姉としての特権ッッ!!


 あーー……興奮しすぎて鼻血出そう。これはちょっと、ポーカーフェイスを続けられないかも分からんね。


 それもこれも、唯ちゃんの笑顔が可愛すぎるのが悪い!

 なんなのこの子、昨日から笑う度に可愛さが増してるんですけど!? 唯ちゃんの可愛さには際限がないのっ!?


 このままじゃ私、唯ちゃんの笑顔に殺されてしまう。


 死因が「唯ちゃんの可愛い笑顔にやられました」とか、そんなの現実では許されないでしょ。ちょっと落ち着こう、朝からこの興奮は身体に悪い。


 落ち着く為にも一杯お茶を……と部屋を見回したところで、いつもは起きた時には必ず控えているリンゼちゃんがいないことにようやく気付いた。


 姉妹水入らずを演出するなんて、リンゼちゃんも意外と気が利く……ってあれ? そもそも私たちが前世では姉妹だったと伝えたっけ? 伝えてないよね? ん? まさかリンゼちゃんもエスパーかな??


 お母様みたいのが増えるのは正直勘弁して欲しい……とか思いながら手遊びでベッドを撫で回していたら、どうにも違和感を覚え始めた。


 ……なんだろう。なにかがいつもの朝とは違う。……ような気がする。


 朝日? 窓? 調度品……あっ、フェルたちのベッドが無い。それに私が寝ていたベッドだって、感触がいつもとは違ったような……?


 注意深く観察し、記憶との相違点を洗い出し、ようやく違和感の正体に行き着いた。


 ここ、私の部屋じゃなくて唯ちゃんの部屋だ。


「見てくださいソフィアさん。魔力、動かせるようになったんですよ!」


「おぉ〜、凄いねぇ! たった一晩でもうそんなに……。頑張ったんだねー」


「えへへ……」


 ――天使かよ。ああ天使だね、違いない。


 心をずっきゅんこされて思わず一句詠んでしまった。


 唯ちゃんの部屋? お母様に挨拶もせずに寝てしまった? それがどうした。


 唯ちゃんが嬉しそうにはにかんでいる以上に大切なことなんて、この世にあるわけないでしょォ!!?


 この笑顔は永久保存版だ。誰であろうとこの笑顔を曇らせることは許されない。


 唯ちゃんのこの笑顔を守るために、私に出来ることはなんだろうか?


「――《おいで》」


 使用した魔法は慣れ親しんだ《アイテムボックス》。

 私の部屋の机の上、もっと厳密に言えばフェルとエッテの寝床に直通のアイテムボックスを開き、相手の了承も得ずに引きずり出した。


「キュッ!? キュッ、キュキュウ!」


「キュイッ。キュッキュイ〜」


 ……うん、今のは「おいで」って呼び方じゃないよね。そこはちょっと反省してる。


 抗議の声を甘んじて受け止め、今度特製ビスケットを献上することを条件に許しを得て、呼び出した本来の目的の遂行を承諾させた。


「唯ちゃんが頑張ってくれたから、私もようやくこの子達を紹介できるよ。フェル、エッテ、ご挨拶して」


「キュウ〜」


「キュイ〜」


 私の声に合わせて「よろしくね!」とばかりに片手をあげるフェルとエッテ。


 その愛らしい姿に、唯ちゃんの目は釘付けだ。


「この子達、私のペットなんだけどね。魔力を感知する能力に優れてるんだ。唯ちゃんの練習に役立つと思うよ」


「え……この子たちが?」


「「キュッ!」」


 自信満々な鳴き声は、さしずめ「まかせてよ!」といったところかな。

 最初の頃はもう少し謙虚だった気がするんだけど……全く、一体誰に似たことやら。


「魔力を動かすことに慣れたら、後は無意識でも制御できるようにするだけだからね。この子らと遊びながら魔力制御の練習をするといいよ」


「そっか……。えっと、よろしくね?」


「キュイッ」


「キュウゥッ」


 うーむ、かわいい。かわいいぞぉ。


 少女と小動物ってなんでこんなに似合うんだろうね。

 ソフィアさん、唯ちゃんたちを見てるだけで心が浄化されてしまいそうだよ〜。


フェルとエッテが一日の中で最も長く接するのがソフィア。次いでロランド(お兄様)。

他の家族や使用人たちにもたっぷりと頼られ、甘やかされれば、増長してしまうのは自然なことですよね。ペットは飼い主に似るとも言いますしね。

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