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眠かったけど頑張りました


 ――掌握。変換。取り込み。吸収。


 唯ちゃんがガッチガチに取り押さえている魔力を端っこから少しずつ切り崩し、私の制御下へと染め直してゆく。


 ――変換、吸収。変換、吸収。


 同一の工程だけを処理する魔法を行使し、私自身は唯ちゃんの魔力の切り崩しに注力する。


 はーい、怖くないですからね〜。

 そのぎゅぎゅっと握りこんでる魔力を、ゆ〜っくりとこちらに渡してくださ〜い。


 慌てなくていいですからね〜。


 鍋で煮込んだじゃがいもが時間をかけて柔らかくなるように、じっくりゆっくり固さをほぐして〜。


 唯ちゃんの魔力を撫でるようにして解きほぐしながら、緩んだ先から魔力を奪う。


 触れた魔力を片っ端から取り込んでしまうという厄介な特性を持つ唯ちゃんの魔力ではあるが、唯ちゃんに魔力を変質させられた私の魔力は唯一その影響から逃れることができる。


 つまり唯ちゃんの魔力を直接魔力で触れてどうこうできるのは世界で私だけということになる。女神(ヨル)にだって不可能な、正真正銘のオンリーワンだ。


「……ふぁ」


 ……とはいえ、それだけを理由に私に任されるのも善し悪しというか。


 仕方のない事だと分かってはいるけど、私がいなかったら世界が滅びそうなお仕事を任されるのはちょっとね。私みたいな小娘に頼りきりなのはどうかなーって、思わなくもない。


 ……これ、困ってるのが唯ちゃんじゃなくて小汚いおっさんとかだったら、何かしらの理由をつけて寝に戻ってたんじゃないかと思う。


 私ってそーゆー人間だからさ。できれば私と同じことができる人間を、用意しておいて欲しいというか。


 あーでもそうなると、私の価値が無くなって、今ほど好き勝手にはできなくなるかぁー……。


「んん……」


「どうしました? 何か問題がありましたか?」


 眠気を押し殺した声を聞きとがめられ、静かに見守っていたお母様から声がかかる。


 問題なんか初めから判明している。私の就寝時間はとっくに過ぎているという大問題だ。


「すいません、ただのあくびです」


「……そうですか」


 そんな目で見ないでよ。眠いものは眠いんだからしょうがないじゃん。


 眠くたってやることはきっちりとこなしている。


 作業も八割方終わったし、他に魔力が漏れてる兆候も無し。

 むしろ丸一日以上持った対策がなんで急に綻んだかの方が問題で――あー、でも原因が分かったらまた私が頑張らなきゃいけないパターンですよねー。


 リスクを考えると、安定するまでは私が唯ちゃんの近くにいた方が絶対いい。それは分かる。

 分かるんだけどぉ、眠いんだよーう!


 えいやっ! と最後の魔力を回収した。


 私が漏れ出した全ての魔力を回収したことで、唯ちゃんもようやく一息……ってあああぁ、漏れてる漏れてる! 気を抜いた瞬間から漏れてるよ唯ちゃん!!


「唯ちゃん、もっかい。もう一回、ぎゅってしといて」


「え、えっと、あれっ? んんっ!」


 魔力の漏出元である右腕が振り回されるのに追従して魔力を操作し、拡散しようとする魔力を先んじて捉える。


 ちょっぴり焦ったけど、この程度の量なら問題ない。何より危険なのはこの魔力がお母様に触れてしまうことだ。


 その可能性もお母様を魔力で囲えばゼロになる。


 眠くてもちゃんと頑張る私、偉くない? 褒めてくれたっていいのよ!


 ドヤ顔でお母様を見遣るも、反応はいまいち。

 いつもの読心術めいた勘の良さはなりを潜め、ただ不思議そうに小首を傾げられるに留まった。うーん、解せぬぅ。


 あー、そういえばこの魔力、周囲の魔力を吸うから普通の魔力視じゃ見えないんだっけ?


 それならお母様の反応も納得だけど……頑張りが正常に評価されないってのは寂しいものよね。


 ――なんてことを考えてる間にほい完了。


 今度はちゃんと穴も補修しといたから、気が緩んだ程度で漏れ出したりはしないでしょ。……多分。


 とはいえこの程度の処置は当然、唯ちゃんを家に連れ込むと決めた段階で施している。


 突発的な思いつきであったとはいえ、不備があった際のリスクは莫大。それでも私が安心して今まで過ごせていたのは、それだけこの魔力漏出対策に自信を持っていたからに他ならない。


 単純構造っていいよね。

 仕組みが単純だから施す際のミスが発生しにくいし、壊れる時だってワンパターン。原因の究明なんてするまでもなく、一目見ただけで壊れた原因が分かっちゃう。


 今回の場合はどうやら唯ちゃんが魔力を使おうとしたことが原因だったみたいだね。右手の辺りの障壁がぐっちゃぐちゃに歪んでたからすぐ分かった。


 ――だが、私は知っている。


 唯ちゃんがもしも本気で魔力を操ろうとしてたなら、こんなに可愛らしい痕跡では済まなかっただろうことを。周囲一体の魔力は根こそぎ消失させられていただろうことを。


 そして何より――私はその危険性をあらかじめ唯ちゃんに伝えている。彼女が自ら障壁を壊すような真似をするとは考えられない。


 つまり、唯ちゃんは犯人であって犯人じゃない。


 この事件の真犯人は…………あなただぁ!!


「お母様、唯ちゃんに魔法を使わせようとしましたね?」


 名探偵になった気分でお母様を問い詰めれば、お母様は表情を固くして肯定した。


「……魔力制御のやり方を請われて、教えていました」


 ……んー、んー。そうきたか。


 でも子供の責任は親の責任。

 つまり唯ちゃんの責任はお母様の責任……というのは、やはり無理があるかな。


 うん、まあ誰の責任とかはいいや。


 大事にならなくて、ホント良かったよねー。


結果良ければ大体良しなソフィア。

自身の行動の尻拭いをソフィアにさせていることに、少なからずショックを受けているアイリス。

メルクリス家の支柱様のメンタルがそろそろ心配ですね。大丈夫なのでしょうか。

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