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緊急事態ではありませんでした


 コン、コン、コン。


 コン、コン、コン。



 ――規則的な音が鳴る。


 それはまるで、木の板に釘を打ち付けるような。或いは彫刻刀を、金槌で叩いている時のような。

 軽くて小気味の好い音がいつまでも鳴り響いている。



 コン、コン、コン。


 コン、コン、コン。



 ――ふむぅ。部屋にキツツキでも迷い込んだのかな。


 そして何処かしらで拾った五寸釘で、藁人形を壁に打ち付ける遊びにでも興じているのだろうか? 私の部屋が呪われちゃうから勘弁しちくり〜。


 寝起き特有の支離滅裂な思考を経て、ゆっくりと意識が浮上してゆく。


 寝ぼけ眼で見回せば、明かりの落ちた暗い部屋と、未だに朝日の差し込まない窓際が目に入る。


 そして先程から続いている、控えめながらも決して鳴り止まない扉のノック音が来訪者の存在をしつこいくらいに主張していた。


 …………まだ夜じゃないですかぁ。


 誰よこんな時間に非常識な、と一瞬不機嫌に思ったものの、もしこれが唯ちゃんの「寂しいから一緒にいてくれない……?」的な可愛らしいおねだりだったらと考えた途端に元気が出た。


 ふむ。唯ちゃんと長く同じ時間を過ごすために眠らなくても健康を害さないような魔法を研究する必要があるかな。そしたら今日はその実験初日ということだね!


 妹の世話を焼くのは姉の役目。

 唯ちゃんも気丈に振舞ってはいるけど、やっぱり見た目相応の子供なんだなぁと微笑ましく思いながら扉を開けると――


「ソフィア。すみません、もう寝ていましたか? 夜分に申し訳ないとは思ったのですが――なんです、その露骨に残念そうな顔は?」


「いえ……何せ寝起きなものですから」


 なんだお母様か。


 なんか唯ちゃんじゃないと思ったら一気に眠気がぶり返してきた。ふあーあとはしたなく欠伸(あくび)をしても、お母様は一瞬不快げに眉をしかめただけで、いつものように叱ってはこない。


 そうだよね。眠ってる人を起こしてまで叱りつけるほどお母様は自己中でもないよね。一応とはいえ、手で口を隠す気遣いは見せていたしね。


 だが如何せん私は我慢とかしたくないタイプなので、欠伸をするとなったら全力でする。めっちゃ大口開くし大抵一回じゃ収まらない。三回くらいは平気でする。


 そうなるとお母様でも流石に物申したくなるのが簡単に想像がついたので、次の欠伸の波がくる前にさっさと用件を言ってもらうことにした。


「それでぇ。えっと……何か御用ですか?」


 にゃむにゃむと眠い目をこすりながら問いかけると、お母様はすぐにいつもの調子で簡潔に答えた。


「ヒナガタ様の件です。ソフィアが危惧していた魔力が漏れだしました」


「すぐ行きます」


 ちょっとちょっと大事件じゃないですかヤダー!!


 一瞬で目が覚めた私は、お母様に案内されるまま急ぎ足で屋敷内を駆け抜けた。



◇◇◇◇◇



「唯ちゃん!!」


「あ、ソフィアさん」


 唯ちゃん用の客間を開け放った私は、思ったよりも緊迫感の無い現場を見て、己の魔力感知能力が狂っていなかったことを確信した。


 ていうか……唯ちゃんが、あの唯ちゃんが魔力を制御してるぅー!? うおぉおすげー!!


 まだちょっぴり眠気が残ってはいるせいかテンションが若干おかしいけども、魔法の行使に影響はない。自然界に存在する魔力に干渉し唯ちゃんの魔力を探査探査。問題の魔力がこの部屋どころか、唯ちゃんの傍の一部分に留まっていることを再確認した。


 うーん、やっぱりこの部屋に来るまでに調べたのと同じ結果だ。


 緊急性皆無。

 唯ちゃんの魔力は、きちんと統制されて無差別に魔力を奪ってはいないようだ。


「……これ、私を呼ぶ必要ありました?」


 全然やばい状況じゃないじゃん。下手したら数名の被害者くらい出てるかと思ったのに、この様子を見るに被害も皆無でしょ? ……私寝てても良かったんじゃね?


 不満を隠さずにお母様を見つめるも、呆れた様子で嘆息された。


「もちろんです。でなければソフィアの恨みを買うと分かっていてわざわざ呼びに行ったりはしません」


 ……いや別に、恨むって程のことでもないけどさ……。


 被害が無いのなら、それはまあ、いいことではあるし? 文句なんて言いませんよ、言いませんとも。


 うんむむ、なんだかお母様に上手くやり込められてるよーな気がしなくもないのだけども、具体的にどうというのが説明できない。やはり夜中にお母様に口で勝とうと言うのは無茶が過ぎるか。


 さっさとやることだけ済ませて寝ちゃいましょうかね。


「それで、唯ちゃんはこれどーゆー状況なの?」


 お母様との言葉遊びを切り上げた私が改めて問えば、唯ちゃんは初めに見た時と同じ体勢のまま、(かす)かに震えながら答えてくれた。


「魔力が、出ていかないようにしようとしたの……。そうしたら、動けなくなっちゃって……」


 はあ。動けなく。


 ……いやこれ、普通に魔力制御の仕方を教えればいいんじゃないのかな? と思ってお母様を見れば、無言で首を横に振られた。


 ああ、落ち着いた状況じゃないと無理? まずはこの半端に漏れ出た魔力をどうにかしないといけないわけね? 了解でーす。


 この場に呼ばれた理由を理解した私は、とりあえず望まれた役割を果たすことにした。


 ……ふわーぁ。眠いしさっさと終わらせますかね。


ソフィアちゃんは普段から夜の九時くらいにはぐっすりすやすや夢の中。健康優良児です。

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