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無自覚に他人の地雷を弄ぶ少女


 ソフィア、オカーサマとナカヨシ。


 ケンカなんてシナイヨ。


「……それじゃあ、何も問題は無いんだね?」


「はい。驚かせてしまってすみませんでした」


「それはもういいよ。僕の方こそ、驚いちゃってごめんね」


「いえ……」


 とりあえずお兄様には、アネットが泣いていたのは「少し衝撃的な出来事があって驚いてしまったため」と説明してある。「詳しい事情を話すのは女性以外には(はばか)られる」とも。


 その結果、慰めに終始するお兄様とアネットが恋人みたいな空気を醸し出してるのを見てるとなんだかもにょもにょしちゃうものはあるけれど、いいんだ。後で私もお兄様に甘えさせてもらうんだもんねー。


 でも今はいけない。

 お父様とイケおじ執事の「なんでこんな……ッ!」「旦那様がいけないんですよ……」なBL本はアイテムボックスに隔離したとはいえ、それを目にした私たちの精神はまだ隠し事を貫き通せる程に安定はしていない。下手に突っつかれたらしどろもどろな返答をしてしまうのが目に見えている。


 なので。


「ロランド。ソフィアに何か用事があったのでは?」


「そうでした。お兄様、私に用とはなんでしょうか?」


 ――今はこの部屋で話し合われていたことから意識を逸らすよう誘導しつつ、即刻お兄様を追い返すべし。


 その意志の元に団結した私とお母様は、一時矛を納めて、協力体制を築いていた。


 この程度の意思の疎通に言葉なんて必要ない。表情と目線の動きだけで、お互いの考えが手に取るように分かる。


 私とお母様は今、心がひとつになっていた。


「ああ、ソフィアに少し確認しておきたいことがあってね。彼女、ヒナガタさんの生活について何か困っていることは無いかい?」


「あ、あります」


「あるのですか!!?」


 お母様が裏切りを受けたような悲鳴をあげた。

 心が通じ合っていたと感じていたのは、どうやら私の勘違いだったようだ。


「ソフィアは本当に、彼女達に関する認識が甘すぎます!! 彼女達の生活環境を整えるのは何よりも優先されるべき使命です!! それを――」


「その相談をしようと思って来たら突然怒られて今に至るんですけど」


「〜〜っ、なら来た時にそれを言えばいいでしょう、言えば!!」


 えー、お母様ってばちょっと無理めなこと言ってなーいー?


 それにさぁ、癇癪起こすなんてもうそれ自分の非を認めちゃってるようなものだと思うんだよね。いわゆる語るに落ちるってやつ?


 まあ元々お母様に相談するつもりではあったのだし、別に隠すようなことでもないのだけれど……これ、話すとまた怒られる気がするんだよなぁ……。


 ……チラリ。


 お兄様を窺うと、ニッコリ笑顔で微笑まれた。私もにへらと笑顔で返す。


 ……私たちのやり取りを見たお母様の目が据わった気がした。


 はいはい、話しますよー。そんな怒んないでくださいな。


「えっと、彼女の魔力って実は凄く特殊なんですよ。周囲の魔力を吸収する特性があってですね……」


「吸収? ……それは、…………まさか、人からも意図せず魔力を奪ってしまう可能性がある……と?」


 おおう、流石はお母様。

 今日はポンコツ気味かと思ったけど、ちゃんと物事の本質を理解する能力は健在なようで安心したよ。


「はい。……残念なことに、可能性ではなく確定事項ですが」


「そう、既に誰かを……、っ、!? まさかソフィア、あなた!?」


「お察しの通り、私の身をもって体感しています」


 困ったものだよね、と肩を竦めたら、その肩をガッと掴まれた。急に来たからビックリしたぁ。


「身体はっ! 身体は大事無いのですか?」


「ご覧の通り大丈夫ですよ」


 今はね、と言う注釈がつく事は当然、心の内に秘めておく。言ったところで得なんかないからね。


「……あなたが問題ないと言うのでしたら、そういうことにしておきましょう」


 読むな読むな、私の心を!

 お母様なら気づいちゃっても気づかなかった振りくらいできるでしょ! もっと私に気を遣ってー!


 ぷんすこぷんぷんと怒ったふりをしていると。


 ――不意に。


 ――ゾクリとした寒気が。


 ――身体の心を寒からしめていった。


 ……え? 何いまの? うっわ何今のこわぁ!! めっちゃゾクゾクしたわーお母様に睨まれるより怖かった!!


 一体何が起きたのか。

 原因を探ろうと首を巡らせ――その寒気の正体と目を合わせてしまった私は、一瞬にして凍り付いた。


「――ソフィア、危険な目に遭っていたのかい?」


「…………え、いや、その」


 え、なにこれ。


 お兄様が、なんか、めっちゃ怖いんですけど……?


「危険な目には遭っていない?」


「えーっと……」


 あ、ダメだこれ。


 なにか分からないけど、私はお兄様の逆鱗に触れてしまったらしい。


 いつもは「今日も色っぽいなぁ」としか感じない細められた目が、流し目が。

 今日はなんか……実験中のモルモットを眺めるような視線に思える…………。


 もうね、身体中ゾクゾクしすぎてやばい。鳥肌が永遠に出続けて鳥になっちゃいそう。煮るなり焼くなり好きにされちゃうぅ〜。


 いやぁ、マジでやばいね。お兄様のこの圧力(プレッシャー)、本気でやばい。


 ……気を抜いたら変な性癖が目覚めちゃいそうだねっ!


ピンチになればなるほどお気楽な思考を捻り出すことで精神の安定を保つ。それが彼女の保身術。

だが、気をつけろ。この兄は、そんな君を見続けてここまで育った。

安易な逃避は通じないぞ!どうするソフィア!?

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