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半分くらいは間が悪いのが原因


 ――そもそも、お母様がエロ本を見つけてしまったのは完全に事故だったらしい。


 アネットは商会長である。そして同時に、我が家で暮らすお兄様の嫁でもある。


 その為、普段はお店の方で処理をしている商会の新商品やら試作品やらが、稀に家に届けられる事がある。私やお兄様、お父様やお母様などに感想や意見を貰うためというのがその主な理由だが、アネットが個人的に頼まれた品物や、それらとは別口で家として注文した品が届けられることも当然あって、我が家とアネット商会は割とズブズブの関係にある。


 つまり、我が家の使用人とアネット商会の従業員はとても仲がよろしい。たとえ仕事の最中であっても、お互いに言葉を省略してしまうくらいには。


 その結果、アネットの「個人的な」荷物とお母様の頼んだ「個人的な」荷物が入れ替わるという悲しい事件が起こった。……起こってしまった。


 お母様の荷物はなんてことない、ちょっとお高い試供品の化粧品だった。


 以前試した時にその効果に感動したらしい。非売品なのは理解しているが、またなんとか調達してもらえないだろうかと要請していたところに承諾の回答。品物が到着したと聞いてすぐに受け取りに向かったそうだ。


 だが届けられた荷物を開封してみれば、そこにはとても化粧品には見えない一冊の本。

 そこで踏みとどまっておけば良いものを、私の生み出す様々なデザインに触れていたお母様は「これが正式品の容器なのでしょうか……?」とその本の表紙を捲った。捲ったのだ。


 ――目に飛び込んでくるのは読者の心を掴むインパクト。


 ページの半分を丸々ぶち抜いていたのは、お父様に似た男性がベッドの上で半裸に剥かれている危ういシーン。その男性を押し倒し、耳元で「旦那様がいけないんですよ……」と囁いているのはこれまた我が家の執事長によく似た老紳士。

 恍惚と嗜虐の入り交じった表情は、情欲の溢れ出る様を実によく捉えていると褒め称えたいレベルの出来だった。


「そこまでは言っていません!」


「……私も何も言ってませんけど」


 心の中で呟いた感想にツッコミ入れるのやめてくれません? 私も割と恥ずかしいので。


 ともかく、そんなこんなでハレンチ極まる物体Xを手にしてしまったお母様は、すぐさまアネットに尋問を開始。


 アネットを捕まえ事情を聞いている間に犯人は私だと確信したお母様は、その時たまたま呼び出しをかけた私の伝言を聞いて「これだけのことを仕出かしておきながら私を呼び付けるとは、良いご身分ですね」と怒り心頭。ふざけんなてめぇが来いやと私に伝言を寄越したわけである。


 私タイミング悪すぎィ!!


 っていうかお母様がこれだけ怒ってる最後の後押し私のせいかよ!! そんな事になってるなんて予想できるわけないでしょ!


 だって私、この件に関してはホントに何も関係ないもん! 完全に誤解だもんね! もんもんもん!


「何度も言いますけど、これには本当に、私の関与は無いです。本当です。絶対です。お兄様にだって誓えます」


 なので自信満々に無罪を主張した私に対して、お母様は悪魔でも選ばないような極悪な選択肢を提示してみせた。


「ならロランドをここに呼びましょうか。ロランドの口から問われれば、貴女なら真実を隠すことを躊躇うでしょう」


「……本、気で言っているんですか?」


 ――……悪魔だ。この人は、悪の大王だ。


 閻魔様よりなお悪い、悪魔軍の大幹部様であらせられるぞーっ!!?


「ロランドに誓えるのでしょう? なら問題ないではありませんか」


「問題しかありませんッ!!」


 この人はッ、……ああもうっ! こーゆー時だけポンコツだなぁ!!


 エロ本だとか同人誌だとかの知識がないからこうなるのか!? いやっ、お母様は元から割とポンコツでしたね! 表情に出ないからわかりづらいだけで!!!


「お母様!! お兄様がこの本を見るということは、それ即ちお母様がアイラさんとソワレさんが睦み合う本を見るのと同じだけの衝撃を与えることになるのですよ!? よくそんな酷い事を真顔で言えますね!?」


「……やっぱりこの本は貴女が作ったのでは無いですか?」


「だから違いますってば!!」


 っていうかなんで今の流れで私が疑われてんの!? 今はお母様が自らの罪深さを認めるシーンでしょうがッッ!!


 疑り深い目を向けるのもいいけど! 断固として! 絶対に!! お兄様にこの本を見せるのだけは許容できないッッ!!


 その為なら、ソフィアは修羅にだってなります! お母様だってぶっ倒してみせますとも!!!


「……貴女が本気でロランドの心配をしているということだけは、よく分かりました」


 ふーふーと鼻息荒く訴える私の必死さが伝わったのか、お母様は終始放っていた怒りの波動を引っ込めた。


 でも違う。今私が欲しいのはお兄様を呼ばないという言質なんだ。


「ではお兄様は呼ばないということでいいですね」


「……それは貴女次第でしょう」


 はあー!? まだ私のこと疑ってんの!? ありえねー!!


 聞き分けのないお母様に痺れを切らした私は、対お母様用の強カードを切る事にした。


「ではお父様も呼びましょう。お父様ならこれが私の作ったものではないと理解してくれるはずです」


「あの人は関係ないでしょう」


 それ! 私がお兄様呼びたくないのも同じ理由だから! 関係ない人巻き込まないでよね!


 強さを取り戻したお母様の視線と真っ向から睨み合う。


 私にかかった疑いは、まだしばらく、晴れることはなさそうだった。


アネットは申し訳なさで消え入りそうになっています。

ロランドは盗み聞いた内容を聞いて苦笑しています。

創造神様は歳の近い友人との穏やかな時を楽しんでいるようです。

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