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私は空気になりたい


 教室へと戻る道すがら。……というか、剣聖対ミュラーの対戦映像を見せてから今までずっと。


 三人は飽きることなく、あの戦いについての考察を延々語らい続けていた……。


「やっぱり反省すべき点は多いわね」


「ミュラーはもっと、速さを生かすべきだったんじゃないのかな……? 剣聖様にはミュラーがどう動くのか分かってたみたいに見えたから、それを上回る動きをしないと、攻撃は届かないように見えたよ」


「簡単に言ってくれるわね……。でも確かに、私の攻撃は全部完璧に見切られてた。お爺様の教えを忠実に守って頑丈な護りを一枚一枚丁寧に剥がすやり方よりも、速さを極めて防御を掻い潜る戦い方のほうが勝率は高かったと思うのよね」


「ミュラーは頭使うの苦手だもんな」


「……そういう話はしてないわ。今しているのは、お爺様の護りがそれだけ磐石だったという話よ!!」


 結局、ヘレナさんの研究室では唯ちゃんに関する話は(ほとん)どしないまま解散する流れとなった。


 戦い好きの三人に剣聖対剣姫の対戦映像を見せて盛り上がらない方がおかしいというのは分かるのだけど、当初は私の心配をして着いてきてくれたはずの三人が今や私の事情なんかそっちのけで盛り上がっている様には少しばかりの寂しさを覚える。


 気遣わせるのは申し訳ないと思いつつも、全く気にされないとそれはそれで気になっちゃうよね。


 私が自己中心的な性格だという自覚は多分にあるけど、そうでなくともこの扱いはそれなりに堪えるのではないだろうか。


 ……だが、悲しいことに。この疎外感には覚えがある。


 あれは確か……そうだ、テスト明けに打ち上げでも行かないかと話をしていて――。


 元の世界で「どうしても一緒にカラオケに行きたい!!」と請われたから付き合ったのに、行った先で私を除いた集まりで盛り上がった時の話を延々聞かされ続けたあの時に似ているんだ。いやー、あれは実に不愉快だった。


 あの時は結局「集まって騒ぐ楽しさを知って欲しかった」というお節介に便乗した悪意の権化が元凶だったと判明した為、その性格の悪さを嫌味ったらしく褒め称える曲を贈ってやったら、あざとく男に媚びる女の歌を意味ありげに歌い返されたりして。なんやかんやとそれなりに楽しく騒いだ気がする。


 ……いや、私達以外は時間と共にえげつなさを増す嫌味の応酬に怯えてたかな?


 まあ私達を二人揃えた時点である程度の言い合いが発生するのは確定事項なので、あの怯えた表情も、きっとホラー映画を見るような気分だったりするんじゃなかろうか。


 たぶん、きっと。恐らくメイビー?


 ……と、昔の話はともかくとして。


 その時の経験からいけば、今ミュラー達の会話に混ざればそれなりに楽しい未来が待っているようにも思える。これは経験に裏打ちされた確度の高い予測である。


 だが待とう。思い出なんてものは大抵「今思えば楽しかったよね」と振り返ることが出来るものだが、その「今思えば」の部分が重要なのだ。


 当時、その出来事の最中にあった私はどう感じていただろうか。時が経ってもまるで色褪せない小憎らしい嘲り顔しか浮かばないとはそういうことではないのだろうか。


 さて、それを踏まえてもう一度。冷静にミュラーたちの話の内容を検分してみるとあら不思議。考えるのも恐ろしい別の可能性が待ち構えている可能性がいとも簡単に浮上してくるのですよねー。


 例えばね、私がさり気なく会話に参入するとするじゃん。「いやいや、ミュラーの強みは戦闘を展開する上手さだよ。速さを決め手にするにしても先ずは相手の意識を守りに向けさせるのが最も有効な手段だと思うよ」とでも言ってさ。


 するとミュラーはこう返す。「確かにそうね。実戦で試してみたいから後で相手をしてくれない?」


 あーら不思議! 私が会話に参加した途端にミュラーが私を対戦相手として指名する未来が見えるんだ! しかも台詞を変えたところでその結末を回避できる未来が想像できない!!


 どんな言葉を並べ立てたところで、想像上のミュラーは二言目には「相手してくれない?」と言う! なんなら文脈を無視してでも唐突に対戦を申し込んでくる!! そしてカレンちゃんは期待に満ちた目で私の退路を絶ってくるんだ!!


 ――これはあくまで想像だ。私の妄想に過ぎないことは理解している。


 だけど、なんでだろうね。「まさか本当にそんなこと起こるわけないあはははは」と楽観視が出来ないんだ。私にはこの想像が、既に確定した未来のようにしか感じられないんだよ……。


「……? どうしたソフィア?」


「なんでもないよ」


 だから今だけは私に声を掛けないでくださいお願いしますカイルこの野郎。


 気配を殺しながらカイルにだけピンポイントで圧をかけると、何かを感じとったカイルは訝しげにしながらもすぐに会話に復帰した。これが長年に渡る調教の成果である。どやぁ。


 っていうか、もういいから。私はもう並んで歩かないし会話にも入れなくていいから。私はいないものとして扱ってください。


 思考が戦闘モードに切り替わってるミュラーとカレンちゃんを相手にするの怖いんだよぅ。なんならカイルが相手してあげればいいんじゃないかな。


ミュラーにとってのソフィアとは、唯一全力を出せる同世代。即ち好敵手のような存在である。

代わりの存在しない練習相手なので、必要とあらば対戦を願うのは当たり前。気配を消しているとか関係が無い。

ソフィアはミュラーに見逃されているだけとは露知らず、無駄に緊張しながら教室への道のりを歩いたのだった……。

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