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カレンちゃんは鋼鉄系乙女


 美味しいご飯をぷりぷりしながら食べるのって大変な労力ですよね。


 っていうか気が付いたら自分が怒っていた事実なんて忘却していた。ヘレナさんの手料理が美味し過ぎたせいだと思う。



 ――一人だけ先に食べ始めるという通常ではありえない無作法を犯したために一足先に手持ち無沙汰になった私は、皆の記憶から私の非礼を消却する為にとある魔法の行使を決定した。


 名付けて「人生初! テレビを見ながらご飯を食べて、直前のつまらない記憶なんて忘れちゃおうね☆」作戦である。


 ……ネーミングセンスは作戦の合否に関係しないから! どんなに酷い作戦名だろうと成功すれば官軍なのだよ!!


「そういえばカレンはここに来るのは初めてだったよね。カイルもミュラーも最近まで来たことは無かったんだけど、実はこれを――」


「それが噂の!?!!」


 もはや慣れてきた感のある闘技場の映像を流そうとした途端、ガンッ!! と大きな音が鳴り、不意の衝撃を受けた机が並んでいた食器に不協和音を奏でさせた。唯一倒れたヘレナさんのカップから、派手に紅茶が零れ出す。


「あっ、ああぁ、ごめんなさい……! えっと、あの……そうだ! このハンカチを……!」


「それには及びません、お任せ下さい。それよりも……膝を強く打ったようですが、お怪我の具合は? 打撲程度であれば治療はできますが、裂傷が出来ていればすぐにでも治療に向かわれた方が……」


「あ、えとっ、このくらい大丈夫ですっ! その、本当にごめんなさい……!」


 ……テレビをつけるくらいの軽い気持ちで映像を流そうとしたら、なんだか大惨事が起きてしまった。私もついでに「驚かせてごめんなさい……」と謝っておいた。


「そうだな。今のはソフィアが悪いな」


「カレン、驚きすぎよ。嬉しいのは分かるけど……」


「うぅ、ごめんなさい……。でも、本当に私、ミュラーに聞いた時から、見るのをすごく楽しみにしてて……。なのに今日はソフィアが、なんだか大変そうだから、お願いするのは迷惑かなって諦めてたから……」


 なんだミュラーが話したせいか、と思ったものの、よくよく聞けば朝からうんうん唸ってた私のせいという見方が強いようにも思える。そもそも誰のせいとか考えるのが不毛だよね。うん、この思考やめやめ。


 カレンちゃんの膝が机を震撼させたにも関わらず、超反応で自分たちのお皿を守ったカイル達には少ぉしばかり思うところもあるのだけれど、うん。あえて気付かなかったことにしておこう。というかミュラーなら実際、予期してなくてもそれくらいできちゃう可能性はあるし。カイルだって偶然カップを持ってただけと言い張れなくもないからね。


 ……でも、カイルだけが私を責めたことは絶対に忘れないからな……。


「カレン様、無理をしてはいけません。どうか傷の確認をさせてください。カイル様には申し訳ありませんが、暫しの間だけこちらの目隠しをして頂いて……。はい、ありがとうございます。それではカレン様。お恥ずかしいでしょうが少しだけ我慢をお願い致します」


 机を流れる紅茶に応急的な対処をしたシャルマさんがテキパキと動き回る。


 カイルが目を塞いだのを確認し、冷水で湿らせた布を手にカレンちゃんのスカートを申し訳なさそうに、けれど躊躇なく捲り上げると、痛めただろう膝小僧に目を……目をやって……?


「あ、あの……」


「……失礼しました。あの、ぶつけたのはこちらの膝ではなかったのでしょうか? もしや別の場所を……?」


「い、いえ。ここで、合ってます。この、この辺りを……その……」


 うん。私も見てたから知ってる。カレンちゃんは確かに、いま指で指し示したあたりの部位を強かに机に打ち付けていた。


 が、痛々しく皮が剥けていてもおかしくない程の衝撃があったはずの箇所は傷一つ見当たらない滑らかな白い肌。病的な白さでちょっぴりエロティックな感じさえする。アザなんてどこにも存在しない。


 カレンちゃんの身体は鋼鉄製なのかな?


 戦闘スタイルを鑑みるに、可能性としては有り得なくもなさそうだけど。


「…………傷はつかなかったようで何よりです」


 あ、シャルマさんが疑問を呑み込んだ顔してる。


 呟く寸前、チラリとこちらを向いた視線から「ソフィアさんの友人ならありうるかも……」みたいな感情が伝わったのは気の所為だと思いたい。いや、きっと気の所為だろう。


 私の知る慈愛のシャルマさんは私をそんな色眼鏡で見たりはしない。彼女は優しく、慈しみに満ちた才媛なのだ。


「ソフィアちゃんのお友達は面白い子が多いのねぇ」


 汚れた机の上を整えたヘレナさんがそんなことを言ってきたけれど、果たしてその発言は誰を見ての言葉だろうか。


 カイルにミュラー、カレンちゃん……。


 誰のことを指していたとしても、ヘレナさんはまだまだ彼女たちの恐ろしさの片鱗も味わってはいないと思うのだけど。


「……そうですね。みんな良いお友達です」


 まあみんなが良いキャラしてるってのには同意する。


 一目見て分かるくらいの特異性が無かったら、私だってこんなに仲良くなってはいなかっただろうからね。


神殿騎士団のメンバーはだいたい皆どこかがおかしい。

その中でも一番ソフィアに性質が近いのは、実はカレンなのかもしれない……。

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