プロローグ
あらすじ以上の展望皆無ですが、主人公が好き勝手してくれると信じてます。
なんてことのない夜だった。
コンビニにお菓子を買いに出た帰り道。何の前触れもなく、背中に刃物が突き立てられた。
あまりに突然のことで衝撃だけが強く印象に残っている。
あれ、なにかぶつかってきたな。
あれ、体に力が入らないな。
あれ、あれあれあれあれ。
無為な思考が空回りする。
心臓が二つになったようで背中がドキドキとうるさい。
痛みを感じ始めた頃には地面に横たわっていた。立ち上がる力は入らない。なのに頭だけは現状を把握しようと動き続ける。
なにが。どうして。お母さん。お菓子の袋が。
混乱してるうちにも体が急激に冷えていく感覚が続いている。
(これって刺されたん? 刺されてるよね? 救急車呼んでも怒られないレベルだね?)
漸く今取れる行動に思い至る。
状況に際して些か暢気すぎると我ながら呆れるが、腕を持ち上げることすらできやしなかった。
これじゃ携帯使えないじゃん。
あれ、もしかして詰んでる?
諦観が過ぎった途端、もともと早くもない思考が殊更ゆっくりになり。
冷え切った体はもう凍ったように動かない。
視界が段々と黒く染まっていく。
目の前が真っ暗になった。ってこんな感じなのかな?
ははっ、……と乾いた笑いをその場に残し、私は死んだ。
◇
はずでした。
そう、死んだ記憶がある。
私は死んだ。
だけど目が覚めるとそこは、知らない天井でした。
つまり夢オチ。おーけー?
いやいやいやいや。
脳内で忙しなく一人ツッコミを展開するのも仕方ないと思うの。
だって目の前に広がるのは知らない天井。
動くけど、動くけど思い通りには動かない身体。
そして極めつけはこれだ。
「だうー」
喋ると自動的にあかちゃん言葉になる。
なんて呪いだ。私が何をしたというのか。
こんな面白い状態になっているのがお母さんにバレた日には、私は人殺しの称号を得てしまうだろう。
死因は抱腹絶倒死。
ニュースで全国放送だって狙える。
この女性は笑いすぎて死んでしまったようです。とか。
高校二年になる娘があかちゃん言葉を使いだしたことが原因のようです。とか。
我が家が恥ずかしすぎることになる。
一瞬でそんな妄想がよぎった。
ちょっとお母さんに物言いたくなったけどさすがに妄想内での行動に文句をつけるのは理不尽すぎるので我慢するとしよう。
それに私はこの呪いを何よりも先に解かなければならない。
なにせこの呪い。
「だー」
喋ればあかちゃん言葉になるだけじゃなく。
「うー」
腕だってあかちゃんになってる。
「あー」
足だってぷくぷくのあかちゃん。
「あーう」
目に映る家具はみんな巨人族用。
……なわけないよね。
私はあかちゃん。
私は今、あかちゃんになってる。
ねぇ、女子高生の精神のままあかちゃんになって、何が一番怖いか、分かる?
それはね。
「だー! だー、あーう!」
催したのを我慢できないことだよ!!
誰かきてええぇぇぇ!!
遺されたドデカバーは犯人さんの好物だったので美味しく頂かれました。