空虚の戦争
3千字程度の少ないお話です。サラッと読み飛ばしちゃって頂いても大丈夫な話ですw
創造神『ルーフェン』が創りしこの世界は大小様々な島々があったが、地殻変動や天変地異など大地を揺るがすそれらの影響で形を変え、長い年月を経て徐々に纏まり幾つかの大陸を形成した。その中でも一番巨大な大陸は『ルベント』と呼ばれ五つの国家が存在していた。
北の大国『ガロン』
東の皇国『ジ・ドレ皇国』
西の宗教国家『イルガルド』
南のギルド国家『サランバ』
そして、大陸の中央に位置する魔術大国『リエメル』
領土で言えば五カ国の中で最も小さい『リエメル』だったが、その存在感は絶大だった。というのも『リエメル』の位置するこの場所は、魔術の元となる『マナ』が濃い濃度で存在する場所、間欠泉のごとく『マナ』が湧き出るいわゆる霊地に建国されていた。魔術が理と言わんばかりの世界においてそれは大きなアドバンテージと言えるだろう。
そして、逆にリエメルのような『マナ』の濃度が高い霊地があるならば、逆に濃度の低い死地も存在している。それは、大陸の末端近くに広がっており、異形の生命体『捕食種』が跋扈する魔境となっていた。
そんな魔力が安定して存在する環境は、魔術が生活の基盤となるこの世界でその場所はどの国も喉から手が出るほど欲しいスポットだ。それこそ力づくで奪ってしまおうと思うほどに。
――幾度となく『リエメル』は侵略戦争を仕掛けられた。なにせ領土で言えば北の大国『ガロン』の僅か二割程度でしか無い小国だ、侵略などたやすいと考えたのも頷ける。しかし、そう簡単にはいかなかった。
それは一重に魔術大国は伊達ではなかったと言える。霊地に建てられたこの国は、どこよりも魔術の研究が盛んであり術の扱いにも長けていた。ともすれば年端も行かない子供ですら初級の攻撃魔術を扱えるほどだ。熟練した魔術師ならば一人で一個中隊程度ならば相手取ることができ、中には大隊とすら戦える猛者もいる、小国でありながら強力な武力を有する国だった。
そんな強国を侵略する事はもはや得策ではないと判断したのか、手籠めにしようと数々の政治的戦争を繰り広げられていた。霊地の正確な場所や魔術のノウハウ、王国騎士団や銀戟師団といった優秀な術師の正確な人数と主な任務など、ありとあらゆる国情を多種多様な手段を用いて得ようとする静かなる争いは唐突に終わりを迎えた。
東の皇国『ジ・ドレ皇国』の皇太子であるモハメラ・サンバスがとある外交目的で『リエメル』へと向かう道中、進路先の平原にて捕食種が大量発生しそれを避ける為、迂回を余儀なくされ北の大国『ガロン』を経由した。その『ガロン』への国境付近にて何者かに襲撃され、殺されるという事件が発生した。皇太子を殺された皇国は、現場に残されていた魔術痕から『ガロン』の術の特徴を見つけるや否やかの国に攻め入った。
最初こそ否定をし対話を求めていた『ガロン』だったが、問答無用と言わんばかりのやり方に遂には反撃を開始した。
そうして勃発した戦争は最初こそ北と東での争いだったが、その戦火は次第に広がり大陸全土を巻き込む大戦となっていた。その戦争は苛烈を極め、誰が何のためにどうして自分達は戦っているのかすら分からない混沌としたものとなっていた。
理由すら曖昧となった戦争は、何をもっての決着とするのか分からないままに、来る日も来る日も『自国以外の誰かを』神からの贈物である魔術を使って殺し続ける日々が続き、この争いは永遠に続くものだと誰もが思っていた。
しかし、この無益な戦争は唐突に終結を迎えたのだった。
それは、魔術大国『リエメル』から放たれた兵器と呼んでも差し支えのない五人の人間だった。
彼らは東西南北の国家に散らばり混沌と化していた戦場を自分達が有する力を持ってそれを鎮めた――圧倒的な暴力を以て。
大隊を相手取る事ができる者を猛者と定義するならば、彼らは人の皮を被った化物そのものだった。それ程までにその力は絶大。腕を振るえば一個師団が吹き飛び、足を踏み鳴らせば大地が割れる。空に手を翳せばそれだけで空は荒ぶり万雷を落す。
牙を向けてくる者には、どこのどんな人間かは関係ないと言わんばかりに持てる力を振るいそれを物理的に黙らせる。彼らの歩いた後は荒れ地だけが残るのみだった。そんな彼らを止めるべく否、殺すべく四方に向けていた矛先が『リエメル』の五人へと向けられた。
『敵の敵は味方』――期せずして連合をなしたかのような形となったがそれでもなお彼らの足を止めることは叶わず、その歩みを緩ませるのが関の山で被害は拡大していく一方だった。
程なくして宗教国家『イルガルド』が白旗を上げた。
宗教国家と名のついていることからその国民性は、信仰心が強く熱心な崇拝者が多く存在している彼の国は、元より神からの贈物を争いのために使用するのをあまり快く思っていなかった。ましてや自衛の為でなく私利私欲の為とは論外とすら考えている信者までいるくらいだった。
そのせいもあってか宗教流布を謳っていたとは言え国民の協力を得ることが難しく、ギリギリまで国力を注ぎ込んで争うほどの理由は無く、また被害もまだ立て直しの効くうちにと余力を残した状態で戦線を引き上げ白旗を上げた。
あっさりと降参の意を示したイルガルドが侵略され属国になったのかと言えば答えは『NO』だ。そもそも、『リエメル』は、侵略戦争をしていたわけでも領土拡大を求めたわけでも無く、勝手に余所の国同士が始めた戦争に巻き込まれ、自国の民と領土を守護するために戦っていたに過ぎなかった。
ところが戦火は留まることを知らずに広がり続けた挙げ句、引き際すら見失った無益な戦争と成り果てた争いに引導を渡してやらんと言わんばかりに、その火消し役を買って出たに過ぎないのだ。戦う意思を示さないのなら手出しはしないと無言の主張をするかのように、『リエメル』から放たれた人間兵器はあっさりと『イルガルド』から手を引いた。
そして、四つの国が手を結んだからこそギリギリのバランスを保っていたこの戦争は、『イルガルド』が一抜けしたことにより均衡が崩れ、僅か数ヶ月で第二の国が白旗を上げるとそこからは一気に戦火は縮小され、彼らが投入されてから僅か半年足らずで全ての国が争うことを止めたのだった。
終戦後に残されたのは荒れ果てた土地と疲弊しきった兵士たちだけ。得るものなど何も無くただ失っただけの二年足らずの戦争は『空虚の戦争』と呼ばれるようになった。そしてこの『空虚の戦争』を終結させた五人の化物は、終戦と同時に姿をくらました。
詳しい情報は何もないまま唐突に消えた彼らは何者で、どこに消え、何をしているのか、実は彼らは人ではなく人体実験で造られた魔人である、はたまた捕食種を魔改造した『リエメル』の兵器である、などと様々な憶測が飛び交い、彼らを放った張本人である『リエメル』の国王ですらも「第三者から紹介されたギルドの傭兵として雇った者で、詳しいことは分からないし知らない。創造主『ルーフェン』に誓って」と断言したのだった。
当時、この発言は利益を独占するための虚偽で、虎視眈々と大陸統一を狙っている思われていたが、あれ程の力を持つ人物が手札にあるのなら虎視眈々もなにも一気に侵略出来るという結論に至り、それをしないのは本当に”知らない”のだという答えに辿り着いた。そして、国王連名で一応の名だけは設定されたが詳しい情報は無く、彼らは誰で、何処から来て、今はどこで、何をしているのか。
終戦してから一年。誰もが抱いている想いだった。