急転
何と数か月以上間が空いてしまいました><
ご指摘などありましたらお願います!!
アルが教室に入った瞬間に静まり返る。期待を裏切らない露骨な反応に朝から辟易しつつ自分の席へと足を向けた。その途中、横から現れたクラスメイトに前を塞がれ立ち止る。
「よぉ、悪魔くん。朝っぱからその気持ちの悪い色の髪晒すな気分が悪い」
大柄な赤髪のイケメン、アイザック・L・ラザフォードは言いながらアルの肩を突き飛ばす。
「何しに来たんだ、帰れよ人間未満」
コレが自分を見る普通の反応だ。家族やクレア達のような人たちの方がマイノリティなのだ。夢見は良かったがやはり、この世界は『悪魔の落胤』には厳しい事に変わりはない。
「俺はここに目的があって来てるんだ。帰れと言われて帰るわけにはいかない。…………です」
「あぁ? テメェ誰に向かって口聞いてんだ?」
「(ミスったぁ……)」
取って付けたような”です”で誤魔化されるような男ではなかった。普段から言葉使いには気を使っていたアルだったが、昨日のクレア達との会話と夢見の影響で気が緩んでいたのだろう。しかも、典型的な傲慢貴族であるアイザックに対してタメ口を発するなど愚の骨頂である。内心で激しく後悔するも時既に遅く、アイザックはアル胸ぐらを掴み上げると片腕で持ち上げる。
「『悪魔の落胤』のクセに舐めた口聞きやがって。学院に入れて調子に乗っちゃったか? 昨日の対等だ、なんて言葉を本気にしちゃったか? なら、分からせてやる」
言ってアルを力任せに放り投げる。机や椅子をなぎ倒しながらけたたましい音を響かせた。
「ガッ! 痛っつぅぅぅ!」
背中を強打したアルは苦悶の表情を浮かべる。既に教室にいる面々はさっと距離を取り、昨日の二の舞を避けるべく防御術を展開をし始めた。助けようとする素振りを見せる者は皆無、しかし非情なクラスメイト達だとは思わない。これが世界の縮図で、アルのような『悪魔の落胤』にとっての普通なのだから。
「今、この場でテメェは退場だ。淡い夢だったな」
痛みに顔が歪むアルに大股で近づくと、嗜虐的な笑みを浮かべると共に足を振り上げ「身体強化は使わないでいてやるよ」そう言うとアルの顔面に振り下ろした。
「あぁ……?」
「さ、流石にそれはちょっと嫌です」
眉間にシワを寄せるアイザックの足元には、顔をガードした腕の隙間からアルが伺い見ていた。
「言い方が気に触ったのなら謝ります。ごめんなさい」
「舐めやがってクソが!」
受け止められた足でアルの腕を抑えると逆の足で鼻先を打ち抜く。
「ッ!?」
驚きの表情を浮かべたのはアイザックだ。ガード出来ないよう両腕を押さえたにも関わらず放った蹴りは、首を僅かに傾けただけで容易く躱され空を切った。
「お、落ち着いて下さい。もう何も言いませんので!」
弁明をする余裕を見せるアルに苛立ちを募らせる。加えて二度の攻撃を防がれたアイザックを見ていたクラスメイト達が、僅かに嘲笑を浮かべている事が更にイライラに拍車をかける。
「フザケやがってクソ野郎がっ! 『悪魔の落胤』のクセに生意気なんだよ!!」
身体強化は使わない。そう言った舌の根も乾かぬうちに雷属性の身体強化を施すと右腕を振り下ろす。赤い紫電を纏った拳は机や椅子を木っ端微塵に吹き飛ばし、床にクモの巣状のヒビを発生させたがその場にアルの姿は無い。
「チッ……そうか『龍脈制御』の身体強化か。程々に使えるレベルらしい」
床に打ち込まれた拳を引き抜きながら視線を背後へと転じる。その先にいたのは冷や汗を流すアルトス・マスグレイブ。
「ホ、ホントにやめましょう。俺、死んでしまいますよ?」
「上等だ。丁度いい、テメェの実力見定めてやる」
好戦的な微笑みを浮かべ駆け出したアイザックは、片腕ずつ炎と雷を纏い両手をハンマーのように握り合わせ振り下ろした。炎と雷が教室に爆散すると共に窓やランプなどが全て弾け飛ぶ。パラパラと舞い散るガラスの破片は、アイザックが醸し出す炎雷の光に乱反射し煌びやかに輝く。
「フン……すばしっこい猿め!」
眉間に皺を寄せて呟くと同時にアイザックは、背後に向かって蹴りを放つ。
「グッ!?」
腕をクロスさせ何とか防ぐも勢いは殺せず壁に激突し「ガハッ!」と息を詰まらせ床に蹲る。直後、教室に姿を現したクレアとニアは、殺伐とした教室に一瞬絶句し「これは何事!?」と叫んだ。
「この程度で学院に入れるわけがねぇ……。何を隠してやがる?」
新たな外野が現れた事に気づいた様子は無い当事者二人の距離は縮まり、アルの数歩手前で立ち止まったアイザックは睥睨しながら油断なくアルを見つめる。
「な、何も隠してなんかないです……買い被らないでください」
「そうか、ならいい」
興味が失せたような能面の表情となり蹲るアルに向かって再び拳を振るった。
「いやいや、よくねぇから。お前ら何やってんだ」
拳がアルの顔面を捉える寸前、その間に割って入った半透明の白い膜は僅かに波紋を浮かばせ強化されたアイザックの拳を完璧に受け切っていた。
「昨日に続き今日もか? ねぇ、君ら俺の話聞いてなかったの? そこまで無視されると先生もちょっと悲しいんだが?」
入口に佇む疲れた表情を浮かべるホワイトは、頭を掻きむしりながら首を振る。
「あのねぇ、こんな事してるヒマがあるんなら少しは勉学に励めよ。お前ら学生だぞ」
「んなこたぁ分かってる。ただ、納得がいかねぇだけだ」
拳を引きながらアイザックはホワイトに食って掛かる。
「実力をしっかり示せばアンタの言う通り、この学院に置いては存在くらいは認めてやる。だが、今んとこその実力は俺の予想以下だ。学院にいる価値は無い」
アイザックから放たれたまさかの言葉にアルを始めとするクラスの面々は、驚きの表情を浮かべた。それは、ホワイトも同様のようで「実力があれば認めるのね……なんか意外」と呟くと「だったら」と続けた。
「ちょうどいい機会がある。取り敢えず全員席に戻れ」
ホワイトは言いながら指を一つ鳴らし床全体に広がる魔法陣を出現させると、破損した窓やランプ、机などを淡い光とともに修復させる。まるで巻き戻しのような光景にアイザックを含めた生徒全員が惚けた表情を浮かべていた。そんな呆然と立ち尽くす彼らに向かってホワイトは「早く座れ」と促し、教壇の前に立った。
「さて、最近とある事件が頻発しているのはお前らも知っているな?」
「事件って言うと捕食種連続襲撃の事?」
ニアがホワイトの問いに答え、それに頷くとホワイトはさらに続ける。
「概要はギルドから出回っている情報通り、リエメルと周囲の地方領地を繋ぐ街道を往く定期商隊や流れの商人や冒険者が捕食種に襲撃されている。今月に入り既に十件はゆうに超える」
襲撃件数に目を瞑ればよくある話で済むが、この襲撃は件数以上に不自然な点がいくつか存在していた。
「不自然な点一つ目は、襲撃の場所」
リエメルと地方領地のちょうど中間地点。救援要請を受けた場合に助けに入るには、どちらからでもそれなりの時間が掛かる場所である事が第一に言えた。よくある捕食種による襲撃は場所を弁えず、見かければその場で襲いかかるのが常だ。狙い澄ましたかのような中間地点で毎回毎回襲撃がある事は妙であると断言できる。
「二つ目、同じ場所で異なるタイプの捕食種の痕跡が見つかっている」
捕食種は複数のタイプに分けられている。主に猿人型、獣型、怪鳥型、蛇型、蟲型の五種類だ。それぞれに固有の特性がある為、同タイプで群れを成すことがあっても異種タイプは滅多に行動を共にすることはないと言われている。しかし、この襲撃事件の場合は話が違っており、ホワイトの言葉通り別々のタイプの捕食種が一同に会している痕跡が多々あったのだ。
「三つ目。これはまだ外に出回っていない秘匿情報だが、魔術痕が一切みられない」
「え?」
反応を示したのはアル。眉間にシワを寄せ訝しむアルはホワイトの言葉の真意を探るように「それは……どういう意味で?」と続けた。
「あぁ……言葉通りだ。襲撃されたその場に魔術による防衛、ないし攻撃の痕跡が一切無い。無抵抗で喰われた事になる」
意外な人物からの反応に少しばかり面を喰らいつつもそう説明をしたホワイトは、さらに説明を重ねる。
「うちに定期的に出入りする商隊には規模によるが護衛の術士が付く。しかも最近の捕食種襲撃は活発になってきている事も周知の事実、通常以上の護衛を付けていたにもかかわらず一人残らず喰われている。この事からあくまで想定の域を出ないが、何かしら術が使えないような状態に陥っている可能性がある。人に宿る魔力を一瞬で消せるようなうな事象は考えづらいから……恐らくマナの喪失だろう、と言うのが王城の見解だ」
「…………!?」
ホワイトの説明を食い入るように聞いていたアルは、静かに殺意を滾らせる。そんな様子に気付くものなど居らず、ホワイトから語られる事実に全員が驚きに目を見開いていた。
「ちなみにSレート捕食種の姿も確認されている」
「「「「「「――――ッ!?」」」」」」
付け足されたホワイトの補足にアイザックも含める全員が戦慄に慄いた。
「そ、それは本当ですか?」
クレアが怖ず怖ずとホワイトに確認を取る。
「あぁ、事実だ。恐らくは『ジキル』と思われる捕食種だ」
「そんな……」
絶望に顔を歪めたのはクレアだけではなかった。ホワイトがさっと視線を巡らせればその殆どの生徒達が同じ様に項垂れていた。しかし、この反応は正しい。理由はSレートという捕食種の存在だ。この世に存在する捕食種はレート評価で強さが表されている。Dから始まりC、B、Aと強さが上がりSレートにもなれば少なくとも『銀戟師団』の隊長数人、もしくは二個大隊が出動するレベルの評価だ。
過去にリエメルが最後まで討伐が出来なかった捕食種『キュリオス』はSSS+のレート評価となっているが、最早このレベルの捕食種は天変地異が起きる脅威度を誇る。最もこの捕食種は滅多に姿を見せる事は無く、直近の目撃情報は数百年前と言われているのが救いと言えた。しかし、Sレートでも十二分過ぎる脅威を誇っているのは間違いなかった。
「そんな事もあって随分前から『王国騎士団』が調査に出向いているが一向に事態は変わらない。そのせいで定期商隊の足取りが重く物資が上手く回っていない状況だ」
リエメルという国の立地は魔術的観点から見れば恵まれているかもしれないが、それ意外の視点でこの国を見た場合話が変わってくる。というのもこのリエメルという国、内陸部にあり時季による気候変動が少ない。言い換えれば安定した気候が続くことが多く、ある特定の果物や野菜といったものが安定して収穫する事が可能となっている。聞こえはいいが、自国栽培による食材はそれしか無く、また土壌そのものも豊富とは言えず、むしろなけなしのという前置きが付く隠れプチ貧国でもあった。
魔術で何とかしようにも超長期的に術を行使する労力、または大金をかけて同様の効果が得られるマジックアイテムの開発をするべきかという論議は交わされた。結果その価値があるとはみなされず、輸入に頼る事となったのは自然な流れだった。
多様な物資がリエメルにもたらされる様になり市場は潤い、様々な物に溢れ、人やお金が回るようになる、その代わりにリエメルが提供できる唯一のモノである魔術的要素を提供するようになった。それにはリエメル魔術学院の他国への開放なども含まれるが、そのうちの一つが商隊への護衛だ。この護衛には少なくとも『王国騎士団』レベル以上の術士が付くため、余程の事がない限り安心して巡行出来ると評判だったが、ココ最近の捕食種による被害を防げない体たらくを連発しているリエメルへの不信感は大きく、最近になって商隊の本数が激減するという事態に陥っていた。
「てな訳で王城からお達しが来た。それがちょうどお前らの不満を解消するのにおあつらえ向きってわけ」
「……おいおい、まさか?」
いつもの勢いは無く神妙な顔つきのアイザックは暗に「Sレートを討伐しろと?」と語る。
「ハッハッハッ、そんな”まさか”はない安心しろ。そんな高レートの捕食種は『銀戟師団』やギルドに任せて置けばいい」
快活に笑って否定するホワイトの言葉に皆安堵の表情を浮かべると同時に過るのは、”では何をすると?” という疑問。それに答えるようにホワイトは「――だが、」と続けた。
「近からず遠からずだな。現在のウチの状況としては、学院の教師陣は当然のことながら、お前らの先輩達も既に現場に出て低レートの捕食種を討伐しに行っている。ちなみに俺も直ぐに出向かなきゃならん」
「分かった! それに続けって事ですね!?」
「いや違う」
速攻で否定されたニアは、意気揚々と掲げた手の降ろし場所に迷いつつ静かに後ろ手に手を組んだ。
「これだけ頻発して襲撃が起きているとなれば、捕食種の絶対数を減らす事は重要だ。特に主要街道周辺は緊急を要する。しかし、全員がそれに力を注ぐのは効率が悪い。だから、お前らにはある調査をしてもらいたい」
「魔術が使えなくなった原因ですね?」
「その通りだアークライト。入学した直後にこんな事を頼むなんて申し訳ないんだが、如何せん人手が足りていなくてな……スマン」
「いいえ。むしろ学院は実践的な授業を行うと聞いていますし覚悟はしてましたよ」
「本来の意味とは違うんだがな……そう言ってくれると助かる」
「それで、私達は何をすれば?」
「あぁ、とりあえず四人一組か五人一組のチームを組んで俺が今から言うポイントに向かって欲しい。そこで何でもいいから妙な痕跡を見つけたら逐一報告。確認だが『遠話』はお前ら使えるな?」
『遠話』は属性魔力に左右されない基本魔術の一つだ。自身の魔力を会話をしたい任意の相手の空間にあるマナに干渉させ声を飛ばす術。当たり前だがこの任意の相手というのは、何も無差別にという訳ではない。互いに同意の上で『スペル』と呼ばれる個人が持つ固有の言葉を教え合い居場所が分かる仕組みとなっていた。例えばクレアの場合『聖騎士』がスペルとして設定されている為、『遠話』をする場合は『聖騎士・遠話』と指定した後魔力を飛ばせば通信が可能となる。しかし、この術は遠すぎると使えないというデメリットがあるのは言わずもがな。そして、稀に同じスペルを設定している場合もあるが、その時は通信をしたい相手の容姿をしっかり思い浮かべることが出来れば正しい人物に繋がるようになっている不思議術である。
閑話休題。そんな基本魔術と数えられている『遠話』の確認をするホワイトの言葉に一人を除いて全員が頷いた。
「あのぉ『遠話』すら使えないクズが居るんですけどどうするんですか~?」
アイザックがわざとらしく間延びした敬語でそう言うと「ハハハッ」と所々で笑い声が溢れる。
「あぁ、だからチームを組むんだ。互いが互いをフォローしろ」
「フォローってこいつの場合は負担にしかならねぇじゃん。なぁ?」
そう言ってアイザックが目配せをすれば同意するように皆が頷き「使えねぇ」「役立たず」と嘲笑混じりの言葉が充満した。そんな様子のクラスの雰囲気に眉をしかめたクレアが口を開き何かを言い掛けた時、ホワイトがこれ見よがしに溜息を吐いた。
「あのねぇ、お前ら笑ってるけど状況分かってる? お前らがこれからする調査ってのは術が使えなくなった原因だぜ? 何ならお前らがそういう状況になるかもしれない、さらに言えば捕食種と遭遇して戦っている最中にって事もありうるのに……よく笑っていられるな。むしろ、マスグレイヴに頼る状況になるかもしれないぜ?」
「「「「「「「――――ッ!?」」」」」」」
驚愕に目を見開くクラス一同にホワイトは首を振りながら疲れた表情を作ると口を開いた。
「分かってくれて何よりだ。ただの調査だと思って油断すると命取りになりかねん危険な依頼であることを理解して、それを肝に銘じておけ。まぁ、そんな危険な依頼を学生のお前らに頼むしかない状況を作っちまった不甲斐ない大人たちで申し訳ないとは思っている。すまない」
言いながらホワイトは頭を下げた。
「それはさておき、サクッとチームを組んでくれ。昨日の自己紹介んときで属性と得意魔術はある程度把握しているだろうからバランス考えて組めよ?」
途端にクレアとアイザックの元へ殺到するクラスメイト一同の行動は当然と言えるのだろう。学院の主席と多種属性の貴族様である、誰だって誰と組むのが安牌か分かっていた。しかし、当の本人達は近寄って来たクラスメイト達を押し退け、俯向いたまま一向に身動きをしないアルの元へと歩み寄り、
「アル、私達と組みましょう」「おい、クソ役立たず。お前の価値を俺に示してみろ」
二人同時にそう言った。
「ねぇ、どうしてあなたがアルを誘うの? 散々バカにしたのだから切って捨てるのかと思ったのだけれど?」
「あぁ? 俺ぁこいつの実力を確認するいい機会だからってだけだ。そういうテメェは何なんだ?」
「私は彼の友人だから声を掛けたに過ぎないわ」
「ハッ! 友人? キモッ! 友達ゴッコとかお前余裕あんだな、流石主席様は『悪魔の落胤』の面倒見ながらでも生きていけるってか。あぁ、凄い凄い」
「……あなた人をイラつかせる天才ね」
「その言葉そっくりそのまま返すぜ?」
どうしてか一触即発の状況になる二人を冷ややかな目で見ていたホワイトは、背中を掻き毟りながら「メンドクセェからお前らで組め」そう言った。途端に周囲から不満の声が溢れるが「ウルセェ、担任権限だ文句言うな」と一刀両断にすると不承不承ながら面々は各々でチームを組み始めた。
「……不本意だけれどしょうがないわね。ニア、アルいいかしら? 余計なものが付いてきたけど」
「うん、まぁしょうがないよね。この人くらいじゃないとアル君入れてのチームに来てくれる力の有る人いないだろうしね」
散々な物言いの二人を睨みつけながら「テメェ等いつか殺す……!」と静かに呟く。
「えっと……アル? 聞いてるかしら?」
青筋を浮かべるアイザックを尻目に、クレアは未だに反応を示さないアルの肩を叩いた。
「え、あぁ……うん、大丈夫だ。それで何だっけ?」
顔を上げたアルは視線を彷徨わせながらそんな事を聞いてきた。間違いなくホワイトの話を聞いていない様子だ。
「えっと、これから城からの依頼で魔力喪失の原因調査をしに行く事になったんだけど……」
「あぁ……分かってる大丈夫、依頼は確実にだ」
「そ、そう……ならいいけど」
未だに心ここにあらずといった様子のアルに不安を覚えつつも視線をホワイトへと戻した。
「ヨシ、チームは決まったな? それじゃぁ、これから向かって欲しいポイント行っていくぞぉ。まず、グラント班は『ミッシュガルド街道』、 バーナード班は『アイア湖』、クルーガー班は――」
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淡々とそれぞれのポイントが言い与えられ、最後にクレアの班が学院から程近い『リーリエの森』に向かう事になった。全てのチームに場所を伝え終えたホワイトは、神妙な面持ちで自身が受け持つクラスをサッと見渡す。緊張に強ばる者達も居るがヘラヘラ遊び感覚の物は皆無。皆一様に引き締めた表情でホワイトを見つめ返している。その様子に頷くとホワイトは言った。
「いいか? 無茶だけはするな。常に『遠話』の術を誰かしらが発動させておくんだ、それが消えた瞬間がマナの喪失を意味する事になる。そうなったらすぐに引き返せ、全力で逃げろ。それが無理な状況になったのならコレに魔力を込めろ」
そう言ってホワイトは各チームに一つずつ手の平サイズの鉱石を手渡した。
「これは『魔鉱石』。名前くらいは知っている奴もいるだろう。コレに魔力を込めればマナの変わりになる作用がある。一回限りだが擬似的な術の行使が可能だ。これで最大威力の術を使ってその場を離脱してくれ……まぁ、これを使わないで済むのが一番良いんだけどな。期間は原因が分かるその時まで、と言いたいがお前らの本分は学生だ。それを考慮して取り敢えず一週間だけという話だ」
「一週間……」と、誰かが小声で呟いた。この期間を長いと感じるか短いと感じるかは個人差に委ねられるが、ほとんどの生徒が不安そうに瞳を揺らす。
「それから、俺のスペルは『清潔』」
「いや、それはねぇだろ!」
咄嗟にツッコミを入れたアイザックに向かって「ガチですけど何か?」と答えたホワイトに戦慄を禁じ得ないアイザックは 「マジか……」と呟いていた。
そんな二人のやり取りに不安そうな表情を浮かべていた面々は、僅かに微笑みを浮かべ大きく息を吐き出し握り拳を解く。その様子をぼさぼさの髪の下から見ていたホワイトは、満足気に頷くとクラス全体を見渡し締め括りの言葉を送る。
「一週間と言っても、それよりも早く解決出来ればそれまでとするらしいから頑張れ。それじゃぁ、一週間後また会おう。健闘を祈る」
矢継ぎ早にそう言うとホワイトはパチンと指を一つ鳴らし白煙を上げて消え失せた。一瞬の静けさが訪れ呆然とするクラスメイトに声を掛けたのはクレアだった。
「とりあえず、こうなった以上は全力を尽くすしか無いわ。不安だろうけど、皆気をつけてね。とにかく無茶はしないことよ」
クレアの言葉に頷いて答えると、続々と教室を後にするのだった。