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Destino  作者: 一二三六
2.諫山渚
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47話「かったるい大晦日」

 12月31日(金)


 体が重く、だるい。小鳥たちのさえずりが聞こえるというのに、未だ布団から出られずにいた。その根本的原因はもちろん昨日のパスワード戻しのせいだ。睡眠時間がそう多く取れていないので、今もなお眠たくてしょうがなかったのだ。だけれど、どうせ冬休みなのだからもっとゆっくりと眠っていたっていいはずだ。だから疲れた体を癒すため、俺はベッドで体を休めていた。なのにも関わらず、それを妨害するアホがいた。それは俺の予想通りの人物。昨日のアレを見ていたというのにも関わらず、空気も読まずに朝っぱらから着信を入れてくるおマヌケさん。


「あぁー……うるせぇ……」


 嫌々ながらも無視できないレベルで鳴り続けていたので、仕方がなくそれに出ることにした。


「よお、れん。今日、お前ん家で年越すぞ」


「はぁ? てか、なんで確定?」


「まあ、そんなことはどうでもいいんだよ! それよりもみんなで騒いだ方が楽しいから、誰か誘えるヤツ誘っておいてくれ! んじゃな!」


 あまりにも強引で、こっちの言い分など一切聞き入れずに言いたいことだけ言って勝手に切ってしまった。とんでもなく身勝手な友人に、これは流石に怒りを覚えてしまうが、どうせ何言ったところでアイツはどうしようもない。軽く笑って謝るだけだろう。そんなヤツに怒ったって、それこそ怒り損だ。俺はほとほと諦めて、携帯を投げ捨てて再び布団を被って安眠へと戻ることにした。


「――れーん? そろそろ起きなーもう9時だよー」


 と思ったのだが、それをさせまいとやってくる足音が聞こえてきた。そして俺の部屋へと入り、安眠を妨害して起こしに来る明日美あすみ


「あと2、3時間……」


 昨日のこともあって俺は未だに眠たいので、もうちょっと眠らせてもらうことにする。


「『あと5分』みたいな感覚で言わないっ! 今日何日だと思ってんの! 大晦日だよ、大晦日!」


 ただ明日美はそれを許してはくれないようで、ここから立ち退いてくれない。


「あぁー……そうでござんしたねぇー……」


 ものすごくダルいが、一応その明日美の言葉にそう答える。今日が大晦日ということは、昨日の修二しゅうじからのメッセでもう分かっている。1年の最後の日の朝からダラケているというのもどうかと思うけど、たまにぐらいならいいかもしれない。寝正月ならぬ『寝大晦日ねおおみそか』みたいな。語呂悪すぎるけど。


「1年の最後なんだから、大掃除しなきゃっ! 私1人だけじゃ大変なんだから、煉も手伝ってね!」


 明日美だって昨日同じぐらいの時間に就寝したはずなのにも関わらず、俺とは違ってとても元気そうにそんなことを言ってくる。


「ムリ」


 そんなさらに疲れそうな大仕事に、俺はそう即答する。ただでさえ眠たいのに、そんな仕事なんてやっていられない。面倒だし、疲れる。


「あーいいのかなぁー? そんなこと言ってると、お姉ちゃん怒るよー?」


 そんな俺の反応に、もう既に少しばかり怒りオーラを表に漏らしつつ、俺にそんな脅迫をしてくる明日美。


「はい、起きます! 今すぐ起きます!」


 その言葉で俺はまるで軍隊みたいにすぐさま起き上がり、ベッドの上で正座する。1年の最後に、姉の鉄槌てっついをくらうのはマジで御免だ。これから修二たちも来るのに、そんな嫌な気持ちを残したまま会いたくない。悔しいが、ここは俺が折れるしかないようだ。


「うん、よろしい!」


「はぁー……理不尽だ……」


 結局いつもの上下関係となってしまい、俺は思わずため息をついていた。


「言っておくけど、これは昨日遅く帰ってきた罰でもあるんだからね?」


「大べそかいて泣いてた人がよく言うよ……」


 せめてもの反抗と、俺はそんな風に言って明日美をからかう。事実、それで寝るのが遅くなったのだ。ちょっとぐらい文句言わせてもらったっていいはずだ。


「なっ! それは煉が悪いんでしょー!? すぐに帰ってくるって言ったのに、ホント心配だったんだからねっ!」


 それに効き目があったようで、動揺した様子を見せる明日美。その感じからも、昨日のアレからもどれだけ明日美が俺を心配していたかは十分にわかるけど、正直いくらなんでも過保護すぎると思う。


「だからって何も泣くことはないだろ? 携帯に連絡ぐらい入れればよかったのに……」


 それなのに、何の連絡も入れずにただただ家の玄関前で待っていたという矛盾っぷり。普段の明日美ならすぐに思いつくことだろうから、たぶん頭が混乱しててまともな判断ができてなかったんだろう。それにしたって誰かに相談するぐらいは思いつかなかったのだろうか。そんな疑問が俺にはあった。


「と、とにかく! 朝食とったらまずは自分の部屋の掃除して? 私は他のところやってるから」


 このままでは分が悪いと思ったのか、明日美はそれをごまかして俺に指示を出す。

もうそれは過ぎたことなのだし、ああだこうだここで言っていてもしょうがない。


「りょーかい」


 なので明日美への反抗はここら辺で終えて、俺は明日美の指示に従い、それから朝食をとって自分の部屋の掃除をしていた。とはいっても自分の部屋はさほど汚れてもないし、普段から俺自身も掃除している。さらに加えて明日美もたまに俺の部屋も掃除してくれるから、言うほど掃除するところがなかった。ただここですぐ済ませて明日美の方へ行くと、何か大変な仕事を任されそうなので、適当に時間をかけることにした。


「あっ、そういえば――」


 そういえば修二が朝の電話で『誰か誘っておけ』と言っていたのを思い出した。時間かけるついでに今ここで誰かを誘っておこう。とは言え、この年末に誰を誘うべきか。みんな忙しいだろうし、下手すれば実家に帰っていてこの島にいない可能性もある。だとすると、自ずと選択肢は狭まってくるのだが――


「そうだ! アイツなら……」


 思い当たる節があったので、俺はすぐさま行動に移す。彼女なら家も近いし、忙しくなければ大丈夫だろう。俺はそう思い、彼女が電話に出るのを待っていた。


「――もしもし、渚?」


「どうしたの?」


「今日ウチで年越しパーティみたいなことすんだけど、よかったらこないか? 人多い方が盛り上がるしさ」


「まあ、いいけど……煉がそういう企画するの珍しいわね」


「あぁ、これ企画したの俺じゃないよ、修二」


「え……」


 それに対して声からも分かるぐらいに、ちょっと警戒するような風になる渚。


「おいおい露骨に嫌がんなって」


「だってアレ……でしょ?」


 たしかに渚は付属の時に修二とクラスが一緒だったこともあって、アイツのことはよく知っている。だからそれだけ警戒心が強くなっているのも分からなくはない。でもいくらなんでもその嫌がり方はちょっと可哀想だった。


「『アレ』って……まあ明日美もいるんだし、大丈夫だろ。それに俺もいるしな」


 それに今回は明日美と俺というストッパーがいる。もちろん明日美先輩に興奮して暴走し、さらに嫌われることになるかもしれないが、渚に被害が及ぶことはまずないと考えていいだろう。


「そうね、明日美先輩がいるなら安心かな。わかった、澪と一緒に行くわ」


「うん、ありがと」


「何時ぐらいからなの?」


「いやー特に時間指定はなかったし、いつでも大丈夫だと思うぞ。それに向かいだし、すぐ来れるだろ」


 それこそそっちの融通が利けば、いつでも来られるはずだ。それが理由で俺は渚たちを招待したわけだし。この年末に、しかもこの寒空では遠くから来るのは大変だろう。それに渚たちならほぼ家族と言っても過言じゃないくらいに一緒にいるし、一番気心の知れた人たちだから。


「そうね。でもそれにしても無計画ね……アイツ何も考えてなさそう……」


「だろうな」


 おそらく何か企んではいるのだろうけど、それ以外のことは一切考えていなさそうだ。昨日の肝試しからもそれが覗える。


「てかさ、煉も煉でお向かいに電話で誘うってのもどうなの? 直接来れば済むことなのに。それこそすぐそこなんだし」


 そんな渚の言葉を聞きながら、窓からふと向かいの家の方へと目をやると、

ちょうど俺と同じように窓の外を見たのか渚がこちらの方を見ていた。目が合って、軽く合図しながら、


「んー純粋に行くのがめんどい」


 俺はそう答えた。正直、外に出たくない。それに今はこうして携帯という文明の利器があるのだから、有効活用しないと。


「はぁー……煉ったら……まあいいわ。じゃあ夕方ごろ行くから」


 向こうの部屋で呆れたような表情をしながらため息をこぼしつつ、渚はそう言った。


「了解、待ってるわ」


 再度、窓から合図を送り、俺は電話を切った。とりあえずこれで修二からの頼まれ事は消化した。そしていい感じに時間も消費できたので、俺はいよいよ覚悟を決めて明日美の元へと向かった。おそらく力仕事とか、高いところの掃除とか色々と任されることだろう。今から気が重くて仕方がないが、明日美に怒られるのも面倒なのでやることはやろう。そう意思を固め、自分の部屋を後にしていった。

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