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Destino  作者: 一二三六
1.岡崎栞
61/120

60話「見つからぬ答え、確かな答え」

 帰ってから早速、俺は父さんに


『俺が預けられる以前のアルバムない?』


 といった内容のメールを送る。俺は以前、記憶喪失の人間が写真を見て記憶を取り戻したというのを聞いたことがある。ついでに過去のことを知ることもできるし、それを実践してみようと思った次第である。また父さんは預けられた時点で俺が記憶がないことを知っている。だとするならば、それを思い出す方法として俺と同じことを考え、そのアルバムを秋山あきやま家で保管しているのではないだろうか。俺はそう推測し、父さんにそんなメールを送った。もちろん仮になかったとすれば、工藤くどう家に行けばいいだけのことだし。流石に息子の写真を一枚も撮っていない薄情な親はいないだろう。だから俺は自分でもアルバムを探しながら、父さんのメールの返事を待った。すると――


『昔のアルバムなら、僕の部屋の棚にあるよ。それで記憶が戻るかまでは保証できないけど、頑張ってね』


 と送られてきた。やはり俺の読み通りだった。しかもこの内容からみるに、父さんも記憶を取り戻そうとしていることがわかったようだ。俺はそれに感謝の返事を送りつつ、父さんの部屋へと向かった。


「――うへー……これ全部?」


 父さんの部屋へ行き、棚を調べると言葉通りアルバムがあった。その背表紙にわかりやすいように『れん○○歳』となっているので、探すのは容易だった。だが、その預けられる以前のアルバムの量が莫大だった。むしろ、それ以降のアルバムの方が少ないほど。これを全部見て行くのは骨が折れるな、と面倒がりながらもそれらを持って自分の部屋と行く。



 そしてアルバム鑑賞会が始まった。俺は自分のベッドに座ってボケーッと見ながら、そのアルバムのページをめくっていく。当然のことながら、そこには小さいころの俺が写っており、どれもこれも楽しそうな顔をしている。そしてもちろんその写真には俺だけではなく、俺の母さんや親父とおぼしき人や、岡崎おかざきも一緒に写り込んでいた。だがそれらを見たところで、俺の脳はなんにも反応を示さなかった。むしろ俺の知らない俺の写真ばかりで、ちょっと変な気分になる。やっぱりそうそう現実は甘くはないようだ。そう落胆していると、ドアからノックの音が聞こえてきた。


「入るよー」


 それは言わずもがな、明日美あすみだった。夜の、こんな時間に、しかもテストが近いのに珍しいなと、思いつつ俺は明日美を見つめていた。


「おう、どうしたの?」


「や、なんでもないんだけど、なんとなく……お話したいなーって」


「ふーん、そっか。いいよ」


「うん、ありがと」


 そう言うと、明日美は俺の隣に腰掛ける。


「なにしてるの?」


「ああ、ちょっとアルバム鑑賞」


「ふふ、急にどうしたの?」


 それに対して、軽く笑ってくる明日美。たしかに俺が思い出鑑賞なんてガラじゃないし。しかもこの時期に、これだけの量だもんな。


「あぁ、それはな――」


 今日の出来事を簡潔に説明する。もちろん、記憶喪失についての話も。


「へぇーだからかぁー……ねえねえ、私にも見せてよ!」


「いいよ、ほら」


 てなわけで、俺は明日美と共にアルバム鑑賞をすることとなった。俺は明日美にも見えるように、2人の太ももの間にアルバムを置き、明日美に写真を見せてやる。


「小さいころの煉かわいいねー」


 明日美は、それはまるで我が子を見つめる母親のような温かい表情でアルバムを見ていた。


「そうか? てか、明日美も小さいころの俺は知ってるでしょ?」


「あの時もかわいかったけど、この頃もってこと」


「ふーん」


「でも、岡崎さんとすごく仲良かったんだね。こんなに写真あるし」


 おそらく、今までにわかっている状況を総合的にかんがみると、岡崎と仲が良かったのはたかだか数年だろう。それなのにも関わらず、一緒に写っている写真の数は尋常じゃなかった。それこそが、当時の俺たちの関係性を物語っているのだろう。


「まあ、親が仲良かったらしいからねー」


「それにしてもこんなに多いってことは、煉のお父さんは写真好きだったのかな?」


「そうかもねー」


 仕事が写真家だったか、もしくは趣味で撮っていたのか。それに加えて、たぶん『初の息子』だったということも理由にあるのだろう。成長していく姿を形として残しておきたい。そんなところだろう。それにしたって、この量はいくらなんでも多すぎる気もするが。そんなことを思いながらも、俺たちはしばらくの間アルバム鑑賞に浸っていた。


「――ねえ、煉」


 時間が経つのも忘れ、2人で談笑しながらアルバムに浸っていた時。ちょっと真面目な声色で俺を呼び、真剣な眼差しで俺を見つめる明日美。


「ん、何?」


「この前さ、ペンダントこと話してくれたでしょ? その時思ったんだけど、もし今小さいペンダント渡すなら……誰に渡す?」


「んー……たぶん同じ人に渡すんじゃねぇかなー」


 少し考えて、やはりその答えが出た。姉とはいえ、この話はちょっと照れくさく、背中がむず痒かった。


「その人は誰かわかってるの?」


「まー『絶対』とまでは行かないけど、たぶん俺の『おもって』いる人で当たってると思うよ」


「ふーん、その人は幸せだね。ずっーと愛されてて」


「……ん? てかさ、これ遠回しに今好きな人訊いてるだけだよね?」


 なんとなく流れでごまかされていたけど、冷静になって考えてみるとそうだ。小さいペンダントは『愛する人』に渡すのだから。それが工藤家の風習。つまり『今好きな人は誰?』ってことだ。


「あっ、バレた?」


 生徒会長にあるまじき、そんな悪そうな顔をする我が姉。


「ったく、明日も学校あるんだし、もう終わり、解散!」


 そんな姉に翻弄ほんろうされつつ、俺は適当な理由をつけて明日美を追い返すことにした。ていうか、明日美はこれを訊くために俺の部屋に来たってことか。そんなに興味あるかね、弟の想い人が。まあ、ただ単に恋バナしに来ただけかもしれんけど。


「ふふ、はいはい。おやすみなさーい」


 そんな風に俺をあしらいながらも、明日美は部屋から出ていった。結局、アルバムは数が多すぎて、今日だけでは全ては見きることはできなかった。また明日にしよう、そう思いながらも俺はアルバムを片付け、ベッドに入る。だが、どういうわけかこういう日に限って、なかなか眠りにつくことができなかった。だから俺は自然とアイツのことを考え始めていた。


「絶対取り戻してみせるからな……」


 そんな誰かさんへ向けた独り言を呟きながら、眠りへと落ちていくのであった。 

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