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Destino  作者: 一二三六
1.岡崎栞
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54話「導き出される結論」

 ダルい授業も終りを迎え、放課後となった。テスト期間で、部活は活動停止中。なので残って勉強するもの、さっさと帰っていくもの皆様々だった。俺も一応は勉強しておこうと思うので、さっさと帰ることにした。カバンに勉強するため必要な教科書類を入れ、いざ席を立とうとしたその時だった。


「ねえ、れんくん。一緒に帰らない?」


 隣の席の岡崎おかざきがそんな誘いを申し出た。


「おう、いいよ」


 なんだろう、最近岡崎はえらい積極的になった気がする。こういう誘いだって以前は全くなかったのに。これも仲良くなった証、ということなのだろうか。そんなことを思いながら、俺は岡崎と共に教室を後にした。


「――そういやさ、ずーっと気になってて言えなかったことがあるんだけどさ、いい?」


 今日の調べもので、あることを思い出した俺は岡崎にあることを訊いてみることにした。岡崎に関する1つの謎。それがミスコンの時から引っかかっていた。


「うん、何?」


「ミスコンの時にさ、ウェディングドレス着てたじゃん? 首になんかペンダントみたいなの着けてたよね? それ、今もたぶん着けてると思うんだけど、見せてもらっていい?」


 普段の制服では見えない部分だったのでわからなかったのだが、ウェディングドレスでは胸元や肩の部分が露出しているため、それに気づくことが出来たのだ。たぶんミスコンの時はそれが完全に表に出ていて、装飾品の部分まで見ることが出来たのだろうが、如何いかんせん俺はあの状況で緊張しまくっていてまともに岡崎の方をみることができなかった。だからそれがどんなペンダントなのかまでは確認できなかったのだ。


「い、いいよ」


 そう言って岡崎は制服の首元からペンダントを表に出し、それを露わにする。


「やっぱり……岡崎も俺と同じのなんだ……ねえ、それってどこでもらったの?」


 ペンダントのチェーン部分が俺のそれに似ていたので、もしかすると、と思っていたのだがやはりそうだった。俺の同じ色の、形は細く、一欠片ほどの大きさの四角錐。俺のよりも小さいが、同じものと見て間違いないだろう。


こんな偶然って普通あるか?


 転校してきた人が、俺と同じペンダントと着けている確率って相当だぞ。もしかすると、岡崎はこのペンダントのことを知っているかもしれない。そうすれば、俺の記憶にないこのペンダントの謎がわかるかも。


「え、えとー……」


 俺の質問に、どこか答えにくそうにしながら言い渋る岡崎。あまり言いにくいような経緯いきさつでもらったものなのだろうか。そうなると、自動的に俺のもヤバイものになるんだが。まさか昔の俺が相当ヤバイ人間だったとか、勘弁してくれよ?


「俺、これに関する記憶がないんだ。いつ手に入れたとか、どうして持ってるとか。だから何か情報があれば教えてほしいんだけど」


「えと……ごめん……それは秘密」


 ちょっと気まずそうにしながら、どういうわけか俺の口に人差し指を当て、そう言う岡崎。


「そ、そっか、秘密かー……」


 その仕草に驚き、照れてしまう俺。岡崎は普段そんなことする人じゃないのに、まるで凛先輩みたいなことをしてドキッとした。でも、結局のところペンダントのことは分からず仕舞いだ。


「あれ、でもこの形……あっ!」


 ペンダントの秘密が分からずに残念がりながらも、その岡崎のペンダントを見つめていると、ふと既視感を覚える。そしてあることに気がついてしまった。


「これってもしかして俺のペンダントにハマるんじゃねーの? ずっと気になってたんだよねー、この底にあるくぼみ」


 俺のペンダントの方にあった底のくぼみ。これがなんのための穴なのか、ずーっと気になってしょうがなかった。俺は好奇心にかられ、岡崎に許可も取らずにその2つのペンダントをハメようとしてみる。


「あっ、ダメッ!」


 合体させようとした直前に、慌てるようにして岡崎は自分のペンダントを俺から奪い取った。その必死な表情は、今までに見たこともないそれだった。


「あっ、あ、ごめん」


 そんなまずない表情に驚きながらも、謝罪する。


「ううん、でもこれは私にとって大切なものなの。ごめんね」


 それからというものの、このくだり のせいか、2人で帰っているというのにも関わらず、全く会話がない下校風景となってしまった。そんな中、俺は1人で今のことを振り返り、考えていた。


 何かが怪しい、おかしい。


 まずこのペンダントと岡崎のそれが合わさりそうな時点で、この2つには関連性があるということだ。俺の合わせようとしたその行動を止めた時点で、その2つは合体するということが明らかだ。


 じゃあなぜ転校生の岡崎と、昔から住んでいた俺が意外な接点を持つ?


 それに、そもそも岡崎は普段の生活を見ている限り、ペンダントを学園にまでつけているなんて子じゃない。さらに彼女は『大切なもの』とまで言っていた。またしても岡崎についての謎が増えた。でも、あの卒業アルバムの『岡崎おかざき光也みつなり』という人物と今までの岡崎の行動を鑑みると、なんとなく1つの仮定が予想される。


 岡崎栞は元々この島出身だったのではないか?

そして俺と岡崎は記憶をなくす以前に会っている。


 この説を正しいと仮定して、今までの岡崎の行動を振り返れば、全て辻褄つじつまが合う。初日に俺のことを知っていたこと、俺が最初に感じた既視感。俺が彼女の誕生日を知っていたこと、彼女が俺のチョコレートの秘密を知っていたこと。全てが『昔に知り合いだったから』で説明がつく。もちろんこれは俺の仮定でしかない。だから実際はどうなのかは分からない。でもそれを岡崎本人に直接訊くのはあまり得策には思えない。もし間違っていたら俺が恥ずかしい人になってしまう。逆に当たっていたとしても、俺にはその記憶がないのだから、また傷つけるだけだ。たぶん彼女は最初に俺に話しかけてきた時、俺が記憶にないことに気づかされ、傷ついた。それは転校初日以降の岡崎を態度を見れば、一目瞭然だ。もしそうだとしたら、それを今また繰り返してしまうのはあまりにも酷すぎる。だから俺は岡崎には何も訊かず、あくまでも普通に下校し、並木道で別れた。相変わらずどこか気まずそうにしていた岡崎だった。またこれで仲良くなる前に逆行しなければいいが。そう願いつつ、俺は自宅へと帰っていった。

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