52話「謎から繋がる意外な事実」
頭を使ったせいか、はたまたお昼で腹が満たされたせいか、午後の授業は眠たくてしょうがなかった。何度もこっくりこっくりと船を漕いで、睡魔に襲われていた。これはまた誰かにノートを借りて写さしてもらう必要がありそうだ。そんな眠たい授業を終え、放課後を迎えていた。訳すのは普段から英語の授業をやっているおかげか、そう時間はかからなかった。ただやはりこういうものは訳してもよく分からないことがあるようだ。俺は放課後だと言うのに、席を立たずその文章の意味を考えていた。
「ねえ、煉くん。訳終わった?」
そんなことをしていると、高坂が俺に話しかけてきた。
「ああ、まあ、殆ど直訳だけど」
「ごめんね、訳までさせちゃって」
「ああ、いいよ。楽しかったし、久々に頭使ったし」
「でも、すごいね、なんでもできちゃうんだもん」
「や、なんでもじゃないよ、所詮俺ができることだけだって」
「でも、それがスゴイんだと思うよ」
俺たちの話を隣で聞いていたのか、岡崎は会話に入ってそう言ってきた。
「そうか?」
「うん、料理にスポーツ、勉強まで出来て……スゴイよ……煉くんは」
急に真面目な顔をして俺を褒め称える岡崎。ホント、同世代の女子にそんなことを言われると、照れくさくてしょうがない。
「そりゃ、どうも」
俺は照れながらもその褒め言葉をありがたく頂戴し、岡崎と別れた。それから俺はこの文章の謎を解くべく、図書室へと向かうことにした。
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訳した文章にはこう書いてあった。
『私はこの島の王で、名前はKudoだ。私はSagamiがこの島を作るのを手助けした。私はかの山の奥にある祠に、誰かが隠したであろう財宝を見つけた。それが隠されていた理由はおそらく、それを使用するのはあまりにも危険だからだろう。私たちはそれをDestinoと呼んだ。その祠にあった、それについて記載された暗号を解読すると、こうあった。
『それは1つでは存在できず、3つとして存在する。一番大きいもの、一番小さいもの、そして中間ぐらいの大きさのものに分かれている。その3つのピースにはそれぞれの役割がある。特に中間のものは「ある能力」を秘めている』
その能力を知った私はこれが悪用されないためにも、私の一族でこれを受け継いで行くことに決めた。中間のものは今もなお、我々の一族が持っているだろう。一番大きものはとても1人で持てるほどの重さではなく、山に置いてきた。一番小さいものは私の妻に渡した。おそらく子孫に愛されたものが今も持っていることだろう。最後に、私の子孫がDestinoを正しく使えることを祈り、ここに記す。』
となった。
ここで疑問に思うのは『Kudo』と『Sagami』と『Destino』だ。まず1つ目は、多分『工藤』だろう。そして2つ目はこの島の名前にもなっている『相模』で間違いないだろう。そして最後に、
『Destino』
これはおそらく英語ではないと思う。『Destino』は文から、『何かしらの能力を秘めている物』ということが分かる。でも、それは何かが記載されていない。なので俺は図書館にて、まずここにある西洋方面の辞書を片っ端から持ってきて『Destino』の意味を調べ始める。おそらく、これは英語でなければよっぽど特殊な言語でない限り、どこかの言語なはず。ならば、片っ端から手当たり次第に探していけばいずれどこかで見つかるだろう。
「あっ、あった!」
スペイン語の辞書のところで、その単語を発見した。意味は『運命』と記されていた。
「運命?」
これで何か糸口が掴めるかと思ったが、結局余計にわからなくなってしまった。『運命』ならば、なぜ英語の『Fate』ではダメだったのか。訳す際にまんま運命と翻訳されてしまうからなのだろうか。おそらく、その財宝の名称を『Destino』としたのだから、訳さずこのまま呼ばせるためなのかも。未だに疑問が残りつつも、辞書を全て戻す。
次は『Sagami』及び『Kudo』についてだ。『相模』はこの島の名前『相模島』の由来にもなっている、この人工島を作った人間だ。これはまだわかるのだが、問題はその次『工藤』だ。これは俺にも分からない。そいつは自分のことを『王』と呼んでいた。もっとも、『King』に意訳を込めたのかもしれないが。おそらくこの島に関わった人物であろうから、俺は図書室にあるこの島の歴史に関する本を調べ始める。
「ほーん、なるほどねー……」
調べていくと、どうやら『工藤』と言う人は文章通り、『相模』が島を作るのを手伝った人らしい。この相模島は元々小さい無人島だったらしく、それが今の北側のあの山のあたりになるのだが、計画が始まった頃はこの島を軍事施設として利用するための人工島を作る予定だったらしい。だがその計画の途中、第二次世界大戦が始まり、そして敗北した。その結果、軍事施設の計画は破綻。よって『居住するための島』に計画が変更されたらしい。その後、なんと『相模』は途中で島を作る計画から外れたらしく、『工藤』がリーダーとなって後を引き継いだようだ。そして紆余曲折を経て、なんとかこの島は約60年前に完成した。そのまま『工藤』はその島の長となり、島の発展にも協力したらしい。だが島の名前は『工藤』の案で計画から外れる前の『相模』に敬意を表す意味を込めて、『相模島』になったらしい。
そうか、だから『工藤』は『King』なのか。そしてその開発の途中、あの山の中で祠を見つけ、『Destino』を手にしたと。これである程度の謎が解けたな。
それから俺は『工藤』の子か孫がいないか探すため、歴代の卒業アルバムを見ていた。その人なら、この『Destino』関連のことを何か知っているかもしれない。もしかするとこの学園出身じゃないかもしれないが、その時はその時だろう。俺は何か少しでも情報はないかと、血眼になって必死に探し始めた。すると――
「えっ? なんで……」
『工藤』の子らしき人を見つけたはいいが、そのページの中身に俺は驚かされていた。そのクラスには『工藤肇』を筆頭に、俺と明日美の父『秋山真司』、渚たちの父『諫山士郎』、さらには『岡崎光也』という名前の男子が写っていたのだ。どの苗字もそう多くはないはず。特に『諫山』なんてのはまずいないだろう。一応念のために他のクラスも見てみるが、同じ苗字の人間はいなかった。この『岡崎光也』が仮に岡崎栞の父だとすると、どのタイミングで島を離れたかは定かではないが、最低限父親はこの島出身だということだ。いくらなんでも偶然にしてはデキすぎているだろう。まさかあの歴史的価値がありそうな石版から、俺たちの親に繋がってしまうとは。とりあえず、事情を『あの人』に訊いてみよう。そうすれば何かわかるかもしれない。俺はその卒業アルバムを今日は一旦戻し、家へと帰ることにした。当然、その卒業アルバムの年数は忘れないでおこう。もしかすると、まだまだ驚きの事実があるかもしれないから。
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それから俺は1人で下校することにした。その道中、父さんに電話にするか、メールをするか迷っていた。メールでは感情を伝えるのには限界がある。だが、電話ではそもそも父さんの時間があいてなければできない。なので、俺はメールでとりあえず電話のアポを取ることにした。
――が、しかし結局のところ、その日に返答が来ることはなかった。やはり父さんも仕事で忙しいのだろう。俺の方も急ぎの用じゃないし、単に興味本位なのだ。今はじっくり待つことにしよう。