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Destino  作者: 一二三六
1.岡崎栞
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50話「普通の正月風景」

 2078年1月1日(土)


 昨日遅くに帰ってきたし、昼近くまで寝ているかと思いきや、意外にも朝7時に起きてしまった。新年早々、二度寝するというのもどうかと思ったので、このまま起きることにする。新しい年の初日なんだし、たまには俺が料理をしてみるか。どうせ明日美はまだダウンしているだろうしな。そんなことを思いながら、俺はキッチンへ向かい、朝食を作り始めた。他のみんなは誰一人として起きてはこない。俺とは違ってぐっすりと眠っているのだろう。そんな彼女らを羨ましく思いながら、俺は冷蔵庫を開け朝食のメニューを考えていた。そしてある程度メニューが固まったところで、早速朝食作りに取り掛かる。


「おはよう……れん


 しばらくして後ろから物音がしたので、振り返ってみるとそこにはなぎさがいた。まだ眠そうで、目をこすっている渚だった。そこにはいつものクールな感じな見られず、子供のような愛らしい感じだった。


「おう、おはよう渚、眠そうだな。朝食できるまで寝てていいぞ」


 寝たのは今日なのだから、無理もないだろう。渚はお客様なのだし、ゆっくりしてもらおう。


「そう、ごめん……ね、なにも……できなくて……」


「いいよ。できたら呼びに行くからな」


 それに対し、渚はゆっくりと歩いて部屋へと戻っていた。他のみんなも眠っているだろうから、俺はゆっくりと朝食を作ることにした。



 それからしばらくして朝食が出来上がった。人数が多いからか、割りと時間を食ってしまった。ただそれで渚たちの睡眠時間が延ばせたなら、御の字だろう。俺は朝食をテーブルに並べた後、渚たちのいる1階の客間へ向かった。


「おーい、みんな飯出来たぞー! おきーろー!」


 予想通り、みんな爆睡していた。俺は大きめな声を上げてみんなを起こす。その声で目が覚めたのか、皆眠たそうに体を起こす。


「うーん、煉……できたのー……?」


 渚は未だ眠たそうにしながら、俺に確認する。


「そう、できたから、冷めないうちに来いよ」


 俺はそう言って、今度は明日美あすみの部屋へ向かった。やはり俺の予想通り、昨日の酔いのせいで渚たちと同じように爆睡していた。しかも、何度起こそうとしても一向に起きる気配がなかった。それにしても、まさか甘酒だけでこんなになってしまうとは思わなかった。一応、念のために明日美の体温をおでこで確認してみるが、特に問題はなさそうだ。風邪やその他の病気にかかっているわけでもないようだし、このまま寝かせておこう。というわけで俺は明日美を起こすことを諦め、渚たちと朝食を食べることにした。それから俺たちはリビングでこたつにくるまり、テレビを見ていた。番組は正月だからか、特番ばかりだった。まあそれでも暇つぶしにはちょうどよく、渚たちとそれを見ていた。


「――なあ、テレビもつまんないし、散歩でもいかね?」


 それからしばらくしていい加減にテレビにも飽きてきたので俺はそう提案してみる。


「あーゴメン。私たちもう帰らないと。ちょっと用事があるから」


「ゴメンね、煉くん」


「そっか、んじゃ岡崎おかざきは?」


「私はまだ大丈夫だよ」


「んじゃ、岡崎、行くか」


「う、うん」


 俺はテレビを消し、出かける準備を始める。渚たちも同じように客間へと戻り、出る準備をするようだ。


「じゃあ、また学校でね」

「じゃあね、煉くん、しおりちゃん」


「おう、じゃあな、渚、みお

「じゃあね、渚ちゃん、澪ちゃん」


 それから家の前で諫山姉妹たちと別れ、俺たちはとりあえず目的もなく公園へ向かうことにした。やはり正月だからか、外には人はとても少なかった。それはまるで世界に俺と岡崎しかいないみたいな、そんな雰囲気だった。そんな静けさの中、俺たちはいつもの見慣れた道を歩いていた。


「静かだね……」


 岡崎も同じように感じたのか、ポツリとそんな言葉を漏らす。


「そうだなーま、正月だしなー」


「ね、また話さない?」


「ああ、いいよ。んじゃ、あそこに座ろっか」


 俺は近くにあった公園のベンチを指差してそう言った。そして2人隣同士でベンチに腰掛ける。


「最近、多いね。こうやって話すの」


「んま、いろいろあったからね」


「うん、そうだね」


「そういや、もうテスト近いけど勉強してる?」


 とりあえず、そんなどうでもいい内容から会話を始める俺。


「うん、人並には。煉くんは?」


「ははは……話を切り出した俺がこんなんいうのもなんだけど、全く……」


 冬休みに入ってから明日美に連れ回されっぱなしだったこともあったし、その疲れのせいで全くと言っていいほど勉強をしていない。ぶっちゃけ冬休みの宿題すら手付かずな状態だ。


「大丈夫なの? もう2週間ぐらいしかないけど……」


 岡崎は心配そうに俺に訊いてくる。岡崎の言う通り、テストはもうすぐそこまで来ている。休みが明けたらすぐだ。進級試験も兼ねているから、割りと大事な試験でもある。


「ま、まあ、まだあるし、大丈夫でしょ?」


 だが、俺はそんな気楽に考える。『まだ』2週間もあるんだし。それに所詮それは定期テスト、そこまで難しいものでもないだろう。

 

「そういえば、煉くんって勉強できるんだよね、いいなー」


 どこで訊いたのか、そんな俺情報を言って羨ましがる岡崎。岡崎がどれほどの学力なのかは定かではないが、普段の授業風景を見ている限りそう悪くはなさそうだが。


「や、そんなことないって、全然普通だよ」


「でも、学年1位なんでしょ?」


「ま、そうだけど、あんまり順位は気にしないからなー」


「どうして?」


「結局、自己満な気がすんだよねー」


 別に定期テストで1位を取るために勉強しているわけではない。その結果を目安にするのはわかるけど、目標にしているのは自己満な気がする。結局のところ、学校のテストも入試試験も通過点でしかないのだから、そこで満足しても……と俺は思う。もっとも、これは俺個人の考えだから一概に言えないけど。


「そうかもねー……あっ、だったらさ、煉くん。今度勉強会でもしようよ!」


「お、おう、いいけど……俺、教えるの苦手だからね?」


 俺に完全に頼られて後悔させないためにも、先手を打っておく。割りと感覚的に理解している人間なので、説明しても伝わらないことが多いし。


「大丈夫だよ、たぶん煉くんなら」


 その自信はどこから来るのだろうか。岡崎の謎の信頼を気になりつつも、特に断る理由もないのでそれを受け入れることにした。


「んじゃ、休み明けまでに日にち考えといて。そっちの都合もあるだろうし」


「煉くんは大丈夫なの?」


「俺はいつでも大丈夫だから」


「そっか、わかった。考えとくね」


 それからベンチで雑談しながら過ごしていた。ただ如何せん外は冬の気温。段々と日が暮れるにつれて寒くなってくる。


「そろそろ寒くなってきたし、帰ろっか。岡崎はどうすんの? このまま、家に帰る?」


「うん、じゃあ、そうしよっかな」


「うん、わかった」


 それから俺たちはいつもの並木道へと歩き始めた。


「――昨日と今日とありがとうね」


 並木道に着いて別れ際、そう岡崎に感謝される。


「こちらこそ、楽しい時間をどうもありがとう、じゃあな」


「うん、バイバイ」


 それに手を振って挨拶を交わし、俺たちはそれぞれの方向へとあるき始めた。こうして長かったみんなとの団欒だんらんは終わりを告げた。なんやかんや言って、こうして騒ぐのは楽しいものだと実感した。ちょっと修二に感謝の念が湧いた。そんなことを思いながら俺は帰路についたのであった。

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