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Destino  作者: 一二三六
1.岡崎栞
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48話「王様の命令は絶対」

 それからも相変わらず王様ゲームを続けていた。みおが王様になってなぎさに仕返しできたり、岡崎おかざきが王様になったりして盛り上がっていた。そして気がつけば時刻は23時40分になっていた。


「なあ、もうそろそろ年明けが近いから、これラストにしねー?」


 次の王様を決めるクジをやる前に、俺はみんなにそう提案した。


「おう、そうだな、次こそは……!!」


 修二しゅうじは未だ王様になっていないので、次こそは当ててやると意気揚々だった。


「ふふ、まあ、がんばりなさい」


 渚は上から目線で修二にそう言っていた。そんな光景を見ながら俺は紙をシャッフルし、みんなに配っていく。そして、みんなその紙の番号を確認する。俺はおしくも王様を逃し、3番だった。ならば、当たらないことを祈るだけ。次に『王様だーれだ』の合図で王様を確認する。王様は明日美あすみだった。『明日美なら大丈夫』と思った矢先――


「じゃあぁ、3番さんと2番さんわぁーキスしちゃおぉうー!」


 なんてとんでもない事を言いだしやがったのだ。そうだ、酔っていることを完全に忘れていた。いつもの明日美の感覚で考えてしまっていた。


『王様の命令は絶対』


 これがこのゲームの鉄則である。だからもうこうなったら最低限、相手が修二じゃないことを祈ろう。そう考えつつ、俺は3番であることを自己申告した。


「じゃあぁー2番さんわぁー?」


「……私……です……」


 それに対し、岡崎はとても言いづらそうに、顔を赤らめながら手を挙げる。


「なぁ、これは無理だろ。だから何とかならないか?」


 俺はそんな岡崎を見て、なんとかならないかと無駄な抵抗をしてみる。こんな状態でしても、空気が悪くなるだけだろう。せっかくの楽しい場なのだから、なんとか妥協案でも作りたい。


「らーめ、おうさまのめーれいはぜっらい!!」


 ただ明日美王女は聞き入れる耳を持たないようだ。そう言われしまってはもうどうしようもない。周りも恥ずかしそうに見つめながらも、止める気はないようだし。


「はぁー……しゃーねか、岡崎」


 ほとほと諦め、俺は覚悟を決めてその相手の名前を呼ぶ。ここはもうやらなければ終わらせてもらえない。ならば、とっとと終わらせてしまおう。それが2人のためにもなるはずだ。


「はっ、はい!?」


 岡崎はビクッとなりながらも、俺の呼びかけに答える。俺はそっと左手を岡崎の後頭部に置く。いよいよ本気でするとわかったのか、顔面真っ赤にしながら目をつぶる岡崎。俺の方は目を開けたままで、そっと俺の顔を近づけていく。左手から、岡崎が震えている感覚が伝わってくる。どうやら彼女も緊張しているようだ。もちろんそれは俺も同じ。心臓はバクバクと音を立てて、下手したら岡崎に聞こえてしまうのではないかと思うほど。そして俺はそーっと唇を、岡崎の『唇のちょっと左』につける。如何せん、キスなんてしたことはなかったので、どれくらいしていればいいかわからなかった。誰もなにもいってはこないので、自分の程よいタイミングでそれを離してやる。岡崎はもう真っ赤かで、さらに周りをみると、諫山姉妹も驚いたような顔をし、修二はちょっとおこり気味だった。そして王様である明日美はというと……なんということであろうか、寝ていやがった。


「命令した張本人が寝てどうすんだよ!」


 恥ずかしムードに包まれている中、俺はそんな全力のツッコミを明日美にする。せっかく位置をズラしてやることで、錯覚を使って明日美たちにはあたかもしているように見せて乗り切ろうとしたのに。その本人が寝ていたらどうしようもない。マジでただのキスのし損だ。


「はぁ……しゃーねーな」


 大きなため息をつきながら、俺は明日美をおんぶしてやって2階の部屋に連れて行ってやった。そこでベッドに寝かしつけ、俺はリビングへと戻る。


「――おう、早くこいよ、もう年明けるぞ」


 リビングに戻ると、みんなはいつも通りの感じに戻っていた。そしてさっきの位置に座って、それぞれコップにジュースを入れて待っていた。


「あとどれくらいだ?」


「あと1分よ」


 それを聞きながら、俺はさっきの位置に戻った。岡崎さんは相当恥ずかしいようで、目が合うとすぐに逸してしまう。これは治るまで結構時間がかかりそうだと思いつつ、なんてことをしてくれたんだと姉を叱りたい気分になった。後で謝れば許してくれるだろうか。そんなことを考えながら、俺は年が明ける時を待った。


「あと10……9……8……」


 テレビのカウントダウンと共に、全員揃って同じようにカウントダウンをする。


「7……6……5……4」


「3」


「2」


「1」


「明けましておめでとう!」


 そういって、俺たちは手に持っていた、ジュースを乾杯した。そしてお互いに新年の挨拶を言い合った。


「よし、んじゃ、これ飲み終わったら、初詣いくか!」


 修二はそのジュースを飲み干すと、そんな提案をする。


「おう、いいな。渚たちは大丈夫か?」


「あ、言うの忘れてたけど、私たちと栞は今日泊まるから」


「了解。修二はもちろんだけど、帰るよな」


 俺はこの家の住人だからいいけど、修二は違う。修二が発情して、女子たちになにかしでかす可能性も0とは言えない。もしかすると、明日美みたいに酔っ払って不測の事態に、なんてことにもなりかねない。何かあってからでは遅いのだ。それに女子たちも女子たちで修二が泊まる家で安眠は出来ないだろう。それに客間は1部屋しかないから、自動的に泊まったとしても俺の部屋になるから嫌だし。


「ま、さすがにヤバイからな」


 それを理解はしているようで、修二も納得してくれた。かくして俺たちはこの島の唯一の神社へと向かった。神社はあのいつかの待ち合わせの公園の森の奥にあり、そこは盆や正月に出店が出て賑やかになる。夏には縁日が出ることもあり、大勢の人でごった返す。


「あっ、そういや岡崎、初詣ってだいぶ人集まるけど大丈夫か?」


 岡崎は人混みが苦手な人だったということを忘れていた。尋常じゃない数の人間が集まるし、苦手な人にとっては地獄だろう。


「えっ、人混み嫌いなの?」


 渚はそれを聞き、ちょっと意外な様子で岡崎にそう訊いていた。


「あっ、えっと、嫌いだけど……今日は大丈夫だよ」


「ま、まあ、大丈夫ならいいけど……」


 『今日は』大丈夫?


 それは日にちによって変化するものなのだろうか。その辺の事情はよくわからないが、本人がいいのならいいのだろう。とりあえず、それはクリアということで俺たちは雑談しながら初詣へと向かった。

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