表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Destino  作者: 一二三六
1.岡崎栞
46/120

45話「今年最後の日」

 12月31日(金)


 眠い、とても眠たい。眠たくてしょうがない。原因はもちろん昨日の残業のせいである。どうせ休みなんだから、俺は昼まで寝ているつもりだった。なのにも関わらず、俺の安眠を奪ったヤツがいた。しかもそれは昨日と同じアイツ。


「よ、れん、今日さ、お前んで年越さね?」


「はぁ? 別にいいけど……」


 眠たいので、適当に対応する。正直、早く布団を被って二度寝がしたい。


「んじゃ、昼ごろにはいくわ」


「おいまて、なんでお前はこんな朝早くに電話をかけてくるんだ。そんぐらいの用件なら、メールでしろ! こっちは眠いんだよ!」


 そんな短い用件でわざわざ電話してきやがる修二しゅうじに、俺は流石に怒りを露わにする。そもそも今現在の時刻は7時10分前。いくらなんでも朝早すぎるだろう。


「はは、それは悪かったな、今度から気をつける。ああ、後、お前の周りも誘っといてくれ、んじゃな」


 修二は相変わらず楽観的な感じでそう言っていた。こんな修二に呆れつつ、いつものことだから、と諦める自分がいた。俺はさっさと二度寝をしようと決意した矢先、嫌な音がする。明らかに俺の部屋に向かって歩いてくる足音がするのだ。まさか――


「そろそろ起きなー煉」


 予想通り、その主は俺の部屋へと入ってきて、俺を起こしにきてしまった。姉も姉で、俺を待っていて寝ていないはずなのに、相変わらずいつも通りの様子だった。


「なぁ明日美あすみ、俺が昨日何時に帰ってきたか覚えてる?」


「今日の1時過ぎでしょ」


「だしょ? 俺眠いんだよ、寝かせてくれよ!」


「だーめ! 私も同じなんだから、ガマンしなさい!」


「なんて理不尽な姉なんだ……」


 抵抗むなしく、起きることにした。俺は着替えて、朝食のためにリビングへと向かった。



 顔を洗い、意識を覚醒させた後、朝食を食べ始める。その間に、俺は修二の言葉を思い出していた。

『お前の周りも誘っといて』と言っていた。だから食べながら誰を誘うか吟味ぎんみしていると、ふと諫山いさやま姉妹が浮かんだ。アイツらなら向かいだし、すぐに来れるだろう。もっとも、この年の瀬に忙しくなければ、の話だけれど。俺はそう思い、朝食を食べ終えたところでとりあえずなぎさに電話した。


「あ、もしもし、渚?」


「うん、どうしたのよ?」


「今日さ、家で年越しパーティ(?)みたいなことするんだけど、よかったらこないか?  まだ3人しかいなからさ、みおも一緒に」


「ふーん、私たちは数合わせってことね」


 そんな嫌味ったらしいことを言ってくる渚。


「ちげぇーよ、普通に誘ってんだよ」


「ま、いいわ、分かった。澪と行くから、何時から?」


「たぶん、いつでもいいと思う。特に時間指定なかったから」


「了解、じゃあ、夕方ごろ行く」


「OK、んじゃまたな」


 そんな淡々とした会話が続き、とりあえず約束を取り付けた。それから俺はダラダラと修二が来るまでを過ごしたかったが、流石は大晦日、明日美の命令で大掃除をすることとなった。


「――おう、修二」


 それから時間は経ち、大掃除も一通り終わった。そしてお昼過ぎた頃、修二が俺の部屋へとやってくる。


「よ、煉、どうだ誰か誘ったか?」


「ああ、諫山姉妹にはアポとったぞ、夕方ごろ来るってよ」


「お前はホントあいつらと仲いいよな」


「まあ、幼馴染だからなぁーんでお前の方は?」


「ふん、俺はななんと岡崎おかざきにアポをとったぞ、喜べ」


 修二は露骨にドヤ顔をしながらそう自慢する。


「へぇーあいつ来るんだ。ってか一人だけ?」


 それにウザさを感じつつ、俺はそんな事を指摘する。すると修二はさっきまでとは打って変わって、悲しそうな顔をする。もしかして誘えたのは高々1人だというのに、あんなドヤ顔していたのか、こいつ。


「だってよぉー……みんなひどいんだぜぇー? なんか予定あるからって、みんな断るし……」


「まあ、大晦日だしな。それに『お前』からの誘いってのに問題があるんじゃねーの?」


 修二は女子からの嫌われ者。そんなやつからの誘いなんて、警戒するに決まっている。岡崎を誘えたのも、どうせ修二のことを詳しく知らないからだろうし。


「ふん、だがとった事には変わらないからな。でもそういや、あいつもひどかったなぁー」


「は? なんで?」


「だって、煉もいるっつったら、急に態度変えやがってよぉー」


 修二は妬ましそうな目で俺を見つめながら、そんな愚痴をこぼす。


「や、たぶん気のせいだろ……」


「いや、それにお前のこと『煉くん』って呼んでるし、昨日だって1時間も何してたんだよ?」


「話をしていただけだ」


 あくまでも俺は事実だけを述べる。やはり俺たちのせいでもないのに、1時間もいたことになって変に誤解されてしまっている感があるな。しかも、その現象が次も確実に起こるかどうかもわからない、よって証明もできないから、なんかモヤモヤする。


「ふーん、1時間も? 普段全く話さないのに?」


「最近話すようになったんだよ」


「ふーん、まあ、いいか。それよりも買出し行こうぜ!」


 口ではそう言っているものの、修二はどこかまだ俺たちのことを怪しんでいるようだ。これから要注意しなければ。だいたいの俺のウワサの発信源はコイツなんだから。


「ああ、いいけど……」


 それから俺たちは家を後にし、わざわざ南のビル街まで行って、これからのパーティためのお菓子や飲み物を買いに行くことになった。ただ迂闊うかつにも俺は財布を家に置いてきたまま出てきてしまい、それに気づいたのがバスに乗った直後のことだった。なので今回の分の支払いは修二持ちとなったのであった。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ