45話「今年最後の日」
12月31日(金)
眠い、とても眠たい。眠たくてしょうがない。原因はもちろん昨日の残業のせいである。どうせ休みなんだから、俺は昼まで寝ているつもりだった。なのにも関わらず、俺の安眠を奪ったヤツがいた。しかもそれは昨日と同じアイツ。
「よ、煉、今日さ、お前ん家で年越さね?」
「はぁ? 別にいいけど……」
眠たいので、適当に対応する。正直、早く布団を被って二度寝がしたい。
「んじゃ、昼ごろにはいくわ」
「おいまて、なんでお前はこんな朝早くに電話をかけてくるんだ。そんぐらいの用件なら、メールでしろ! こっちは眠いんだよ!」
そんな短い用件でわざわざ電話してきやがる修二に、俺は流石に怒りを露わにする。そもそも今現在の時刻は7時10分前。いくらなんでも朝早すぎるだろう。
「はは、それは悪かったな、今度から気をつける。ああ、後、お前の周りも誘っといてくれ、んじゃな」
修二は相変わらず楽観的な感じでそう言っていた。こんな修二に呆れつつ、いつものことだから、と諦める自分がいた。俺はさっさと二度寝をしようと決意した矢先、嫌な音がする。明らかに俺の部屋に向かって歩いてくる足音がするのだ。まさか――
「そろそろ起きなー煉」
予想通り、その主は俺の部屋へと入ってきて、俺を起こしにきてしまった。姉も姉で、俺を待っていて寝ていないはずなのに、相変わらずいつも通りの様子だった。
「なぁ明日美、俺が昨日何時に帰ってきたか覚えてる?」
「今日の1時過ぎでしょ」
「だしょ? 俺眠いんだよ、寝かせてくれよ!」
「だーめ! 私も同じなんだから、ガマンしなさい!」
「なんて理不尽な姉なんだ……」
抵抗むなしく、起きることにした。俺は着替えて、朝食のためにリビングへと向かった。
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顔を洗い、意識を覚醒させた後、朝食を食べ始める。その間に、俺は修二の言葉を思い出していた。
『お前の周りも誘っといて』と言っていた。だから食べながら誰を誘うか吟味していると、ふと諫山姉妹が浮かんだ。アイツらなら向かいだし、すぐに来れるだろう。もっとも、この年の瀬に忙しくなければ、の話だけれど。俺はそう思い、朝食を食べ終えたところでとりあえず渚に電話した。
「あ、もしもし、渚?」
「うん、どうしたのよ?」
「今日さ、家で年越しパーティ(?)みたいなことするんだけど、よかったらこないか? まだ3人しかいなからさ、澪も一緒に」
「ふーん、私たちは数合わせってことね」
そんな嫌味ったらしいことを言ってくる渚。
「ちげぇーよ、普通に誘ってんだよ」
「ま、いいわ、分かった。澪と行くから、何時から?」
「たぶん、いつでもいいと思う。特に時間指定なかったから」
「了解、じゃあ、夕方ごろ行く」
「OK、んじゃまたな」
そんな淡々とした会話が続き、とりあえず約束を取り付けた。それから俺はダラダラと修二が来るまでを過ごしたかったが、流石は大晦日、明日美の命令で大掃除をすることとなった。
「――おう、修二」
それから時間は経ち、大掃除も一通り終わった。そしてお昼過ぎた頃、修二が俺の部屋へとやってくる。
「よ、煉、どうだ誰か誘ったか?」
「ああ、諫山姉妹にはアポとったぞ、夕方ごろ来るってよ」
「お前はホントあいつらと仲いいよな」
「まあ、幼馴染だからなぁーんでお前の方は?」
「ふん、俺はななんと岡崎にアポをとったぞ、喜べ」
修二は露骨にドヤ顔をしながらそう自慢する。
「へぇーあいつ来るんだ。ってか一人だけ?」
それにウザさを感じつつ、俺はそんな事を指摘する。すると修二はさっきまでとは打って変わって、悲しそうな顔をする。もしかして誘えたのは高々1人だというのに、あんなドヤ顔していたのか、こいつ。
「だってよぉー……みんなひどいんだぜぇー? なんか予定あるからって、みんな断るし……」
「まあ、大晦日だしな。それに『お前』からの誘いってのに問題があるんじゃねーの?」
修二は女子からの嫌われ者。そんなやつからの誘いなんて、警戒するに決まっている。岡崎を誘えたのも、どうせ修二のことを詳しく知らないからだろうし。
「ふん、だがとった事には変わらないからな。でもそういや、あいつもひどかったなぁー」
「は? なんで?」
「だって、煉もいるっつったら、急に態度変えやがってよぉー」
修二は妬ましそうな目で俺を見つめながら、そんな愚痴をこぼす。
「や、たぶん気のせいだろ……」
「いや、それにお前のこと『煉くん』って呼んでるし、昨日だって1時間も何してたんだよ?」
「話をしていただけだ」
あくまでも俺は事実だけを述べる。やはり俺たちのせいでもないのに、1時間もいたことになって変に誤解されてしまっている感があるな。しかも、その現象が次も確実に起こるかどうかもわからない、よって証明もできないから、なんかモヤモヤする。
「ふーん、1時間も? 普段全く話さないのに?」
「最近話すようになったんだよ」
「ふーん、まあ、いいか。それよりも買出し行こうぜ!」
口ではそう言っているものの、修二はどこかまだ俺たちのことを怪しんでいるようだ。これから要注意しなければ。だいたいの俺のウワサの発信源はコイツなんだから。
「ああ、いいけど……」
それから俺たちは家を後にし、わざわざ南のビル街まで行って、これからのパーティためのお菓子や飲み物を買いに行くことになった。ただ迂闊にも俺は財布を家に置いてきたまま出てきてしまい、それに気づいたのがバスに乗った直後のことだった。なので今回の分の支払いは修二持ちとなったのであった。