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Destino  作者: 一二三六
1.岡崎栞
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43話「冬の肝試し」

 21時45分。集合時間まであと15分となった。俺は学園へと向かう準備をしていた。制服で来いということ以外、特に何も言われていなかったので、とりあえず携帯だけ持ってあとは手ぶらで玄関へと向かう。


「いってらっしゃい、遅くならないようにね」


 玄関にはどこか不安気な顔をした明日美あすみがいた。夜も遅いから、明日美も心配しているのだろう。


「大丈夫だよ、この島に物騒ぶっそうなことが起こるわけないでしょ」


 交番が『道案内所』て卑下ひげされるくらいには何も起こらない平和な町だし、大丈夫だろう。俺はそんなふうに気楽にものを考えていた。明日美とは対照的だ。


「でも……やっぱ心配だし……」


「大丈夫、すぐ帰って来るから。いってきまーす」


 心配性な明日美を他所よそに、俺は家を出る。相変わらずの通学路を歩き、いつもの並木道を通過する。なんとなく夜道で制服、というのはなかなかに新鮮だった。並木道には月明かりが差し込んでいて、とても綺麗だった。この時期には珍しく、星が見えるほどの夜空。そんな風景に見とれながら、俺は1人学園へと向かう。



 それから学園へと着くと、もう既に俺以外のクラスメイト全員が生徒玄関前で待っていた。言い方は悪いかもしれないが、揃いも揃ってみんな暇なことよ。それにしても、委員長や汐月しおつきとかの真面目組も来ているのは意外だった。修二はどんな手段を使ってアイツらをその気にさせたのだろうか。もちろん誘ったのが修二ではなく、委員長や汐月の友達という可能性もあるけれど。そんなことを思いつつ、生徒玄関に近づいていくと、どうやらクラスの連中は俺に気づいたようだ。


「おせぇーぞ、れん!」

「煉くん、久しぶりー」

「遅いわよ、秋山くん」

「煉くん、やっときたね」


 修二しゅうじ、汐月、委員長、岡崎おかざきの順に、それぞれがそれぞれ言いたいことを言っていた。


「なあ、まだ3分あんだけど……」


 現時刻は21時57分、まだあと3分『も』ある。これでもちゃんと間に合ってるつもりなんだが。


「5分前行動をちゃんとしなさいよ!」


 そんな俺の言葉に、相変わらず真面目な委員長はいつものようにそんなことを言って、俺を説教する。


「ちなみに、みんな5分前には来てたぞ」


 それに便乗するかのように、修二はさらに俺を追い打ちをかけるそんな補足をしてくる。


「はえーよ! 5分前からみんなここにいたのか!? 考えられん」


 暖房や防寒着があるとはいえ、こんな寒い所で待っているなんてご苦労なことで。それだけみんなやる気がある、ということなのだろうか。行事じゃないんだし、もっとゆるーい感じでいいと思うのだけれど。そんなこんなで肝試しがいよいよ開始される。


「うし、みんな揃ったってことで早速始めるか! んじゃ、まず説明の方をするぞ――」


 内容としていたって普通の肝試しで、男女がそれぞれ別のクジを引き、番号が同じ者同士が一緒に回る。そしてさらに男子の方には行くべき場所も記されており、そこの黒板に2人の名前を書いてくるという至ってシンプルなもの。ただしこの肝試し中はどういうわけか、絶対に『手を繋がなければならない』らしい。誰かさんの下心が丸見えである。


「なあ、質問なんだけどさ、うちのクラスの男って奇数だけどどうすんだ?」


 さっそく女子たちがクジを引いている間、そんなどうでもいい事が気になったので、運営の修二に訊いてみた。うちのクラスは男子が1人多い。なので修二の説明では、男子が1人漏れてしまう。つまり女子と手を繋げない貧乏くじを引くものが出てしまうのだ。


「へへーん、そんなこと、最初から想定済みよ!」


 その俺の質問に対して、待ってましたと言わんばかりに得意気な顔をしてそう答える修二。


「へぇーお前にしては珍しい……で、どうすんだ?」


 これはよっぽど機転の利いた素晴らしい解決策がやってくるのだろうと期待していたら、


「おうよくぞ聞いてくれた! その男子は1人で行ってもらうのだ!」


 言うほどたしたものでもなかった。こんなの誰でも思いつく、自慢するほどのものでもなかった。


「……なんだ、言う割には結構普通だな」


 そんな修二にがっかりしつつ、じゃあ誰か1人はこの肝試しの醍醐味だいごみを楽しめない哀れなヤツが出てくるのか、と考えていた。


「おいおい、俺が考えた画期的なシステムに文句つけようってのかい?」


「はいはい、てか女子のクジ終わったみたいだし、男子も始めようぜ」


「おい、スルーすんなよ!」


 そんなこんなで男子のクジがいよいよスタートする。引く順番はたまたま近くにいた俺から引いていくという、修二らしいとても適当なものとなった。俺はさっそく箱の中に手を入れ、なんにも考えず最初に指に触れたクジを1枚取り出す。


「へっ、最後か。運が悪いなぁー」


 修二の言葉通り、俺の引いた紙には音楽室(1)と20番と書いてあった。この紙の番号はそのまま出発する順番なので、結果一番最後、大トリというわけだ。


「はいはい、20番は誰だー?」


 俺はいつもの修二をあしらいつつ、自分のパートナーを探すために女子たちがいる方へと向かい、呼びかける。


「私……よろしく……ね」


 すると岡崎がどこか恥ずかしそうに、小さく手を挙げた。


「おっ、岡崎か、頼むな」


 よかった、気心の知れた人の方がやりやすい。どうせこの肝試しは移動がメインで、何か話せる人じゃないと退屈で仕方がないだろうからな。それに岡崎ってことは……アレも出来るだろうし。いや、流石に可哀想か?


「――んじゃ、みんな引き終わったし、早速始めるか。じゃあ、まずはデモンストレーションとして男子1人で行ってくれ!」


 まず最初にはみ出た男子が1人で突入し、それからは1~2分()を開けて次々にクラスメイトが入って行った。戻ってきた人たちは特に怖がっている様子もななく、なんら平気な顔をしていた。そいつらから聞いたところによると、校内には驚かせるような仕掛けはなく、至って普通のそれだったそうだ。どうせこの企画自体、修二の突発的な思いつきだったんだろうから、それを用意するほどの時間はなかったんだろう。もはやただ女子と2人きりで手を繋いで校内を歩いてくるだけの企画だな。こんな条件で怖がるのなんて、せいぜい岡崎くらいだろう。


「岡崎、大丈夫か?」


 隣で待機している岡崎に、一応心配の声をかけてやる。俺が煽ったからとは言え、来てしまったのは本人の意思なので大丈夫だとは思うけど、無理しているってこともあるだろうし、一応念の為。


「むぅー大丈夫だよー!」


 そう言って強がっている岡崎だが、実際には体は震えている。もっとも、寒いというのもあるのだろうけど、ホントは怖い方が勝っているんだろう。


「ならいいけど」


 でもそれを追求してしまうと、岡崎は更にムリするだろうし言わない方がいいだろう。俺はそう言ってこの話題を切り上げることにし、別の話を始めた。まあ、怖がっていたって何があるわけでもないのだし、大丈夫だろう。それから俺たちはしばらく適当な雑談を繰り返しながら時間をつぶし、順番が来るのを待った。


「――んじゃ、次お前らだな、手繋いでくれ」


 それからようやく最後の俺たちの番が回ってきた。ふと隣の岡崎の方を見ると、い

よいよ肝試しが始まるからか、かなり怯えているようで顔がこわばっていた。俺は手を繋いで安心させるという意味も込め、修二の言われた通りに彼女の手を握った。その瞬間、岡崎はちょっと驚いた表情を見せたが、すぐに顔がいつもの表情に戻った。どうやらちょっと俺も役に立ったようだ。そんな岡崎を見て安心しつつ、俺たちは校内へと足を踏み入れ、いよいよ肝試しをスタートさせた。

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